「もう、1週間ね…。まだ累さんは目を覚まさないの?」



「……はい」













いつもより明らかに人数が極端に少ない薔薇の館で、

蓉子はため息をつきながら由乃に訪ねた




普段なら、蓉子の隣に江利子


そしてその隣に令




令の隣に祥子

















その3人は、未だに学校に顔を出さない









令の両親と、由乃ちゃんの両親に宥められて

由乃は渋々学校へ登校しており、


それでも登校している気分にはなれないという江利子と祥子は、



それぞれの家で令からの連絡を待っていた












累が目を覚ました、という…





















「令は、ずっと累さんに付いているの?」








普段よりやる気の無さ気の、聖が机に上半身を倒したまま由乃に次いで訪ねる

由乃も何処かうわの空で祐巳と志摩子がフォローするばかり











「えぇ、ずっと…このままじゃ令ちゃんまで身体壊しちゃう」




「由乃さん、大丈夫だよ!累さんは目を覚ますよ」












段々涙ぐむ由乃を見かねて祐巳がそう告げると、

彼女は机を勢い良く叩く














「令ちゃんは!事故が起こる前の2週間もずっとろくに寝ないで毎晩累ちゃんを探し歩いていたのよ!!祥子さまと江利子さまが何も言わないせいで…っ!!」















「祥子と江利子には非は無いでしょ、2人だって知らなかったんだから…」








「でも!令ちゃんと累ちゃんは昔から互いに間違われる程似ているのに…他人だなんて思わなかったはずですよ!?」














理不尽な怒りをこの場には居ない2人に向けている由乃に、

聖が苦々しげに言うが




それでは由乃の怒りは収まらないらしい















「それにっ…令ちゃんは累ちゃんのために血液をたくさん輸血していて……っ令ちゃんにまで何かあったら私…」







「……由乃ちゃんの言う通りね。今から皆で行きましょうか?少しでも令を休ませてあげないと」










俯く由乃に、


蓉子はしばらく考える素振りを見せてからはっきりとそう言った






ポカンと間抜け顔を晒している聖の口を、顎を押し上げて閉めてから
蓉子が立ち上がると



祐巳と志摩子も勢い良く立ち上がる




2人は置いてけぼりを食らった由乃の両脇を掴んで立ち上がらせた

























令、ごめん



また、心配かけているね




私がお姉ちゃんなのにさ

















…1人で市立の幼稚園に行くと言った時も令は心配してた





入園の日まで令はなかなか納得してくれなくて


それでもリリアンには行きたくない、と断言した私に

令は苦笑して



頑張れ、と言ってくれた













…耳が聞こえなくなってからも、令の居るリリアンに転入しないと言った時






ずっと、ずっと令は私を説得しようとしてくれてたな


病院のベッドで


まだ唇を読めなかった私に、筆談でずっとずっと…








ろくに相手にしなかったんだよなぁ



目の前に居るお前のせいで聞こえなくなったのに、

どうしてこれ以上お前の側に行かなきゃいけないんだ、と



最後の方には泣いちゃったんだっけ


令が泣くなんて、いつもの事だったから






由乃が倒れた時も泣いていたからさ












無視し続けたんだ





自分と同じ、顔をしている令を見るのさえ嫌で

















バイクの免許を取る時も



バイトを始める時も














ずっと









ずっと令には心配されていた



















そりゃ、ね、正直鬱陶しい時期もあったよ









でも今考えるとさ










令程心配してくれる人は居なかった


























聞こえなくなったから、


だから、


世の中に対応していけるように、と








毎日のように


父さんに扱かれていた





青痣が身体中を支配しても



痛みで立てなくなっても



骨にヒビが入って動けなくても








父さんは毎日私を竹刀で叩いていた














これは、虐待なんかじゃないんだ、と









だって…令と同じ事をされているだけだから


聞こえないから、竹刀の来る気配が判らなくて



苦手だった防御もいつも以上に出来なくなって




正面から竹刀を受け止めていたから、だからボコボコにされていて













1人で父さんから逃げて、庭の隅で泣いている時も










令は父さんに怒られても稽古を抜け出して探しに来てくれて


ずっと側に居てくれたな



















あの頃は









あの頃は私達は















互いが見えなかった












こんなにも近くに居るのに




貴方の存在の愛しさすら見えなかった…




















愛しい人よ、泣かないで












例え手と手が触れ合えなくても…
















「…………んっ…」







身体が、重い


少しでも動かそうとすると鋭い痛みが身体中を支配する







目蓋を開けると、天井が目に見えた

口元が何だかごちゃごちゃしてて、何だろうと重い手を当ててみたら



所謂酸素マスクと言われるものがあって


鼻にもチューブが付けられていた









その先はベッドの隣にある機械に繋がっている






そういえば、事故にあったんだっけ

気付かないうちに


あっという間に、後ろから物凄い衝撃を感じたんだ












「……ってぇ………」








右足は、ギプスがしてあって吊るされているから動かせないのだと理解して


左腕も、ギプスがしてあって身体の脇に置かれているから
きっと骨を折ったんだろうと理解して










そして







身体に感じた重みは、














令だと理解した
























「…れ、い……?ここ…あぁ、病院か……」













動きの鈍い脳みそをフル回転させる


令は、どうやら寝ているみたいで

起こすのも気が引けたから、そのまま身体を横たえている事にする














気持ち良さそうに寝ている令の顔が



とても愛しかった








夢の中では常に泣いていた令が







今も身体の上で泣きそうな顔をしていた






今にも倒れそうなくらい蒼白な顔で













きっと寝てなかったんだろうなぁ、と

他人事のように感じる


















「……なんで、…っ生きてんだろ、私…………」



















何年ぶりだろう









とても懐かしいものが、頬を伝った


































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