どうしてお前は

弱味を見せないんだ?


そう、アイツは言った

私は笑って


私には

弱味などないからだよ



そう、アイツに言った






そしてあの日

全てが変わった――――








特に任務がある訳でもなく

私はある街に長期滞在していた


私の能力は好きな時に妖力を消して目の色を変えられる

だからいつものようにそれを使用して人間に紛れて過ごしていたのだが…

奴はそれをぶち壊しにしにやって来た



背中に大剣を掲げ堂々と街に入ってきた奴は当然好奇と恐れの目で見られ、

行く先を見守られる中

私の泊まっている宿屋へと来た



窓からそれを見ていた私はため息を吐き、とりあえず頭を掻く




「元気か?

「…何の用だ」

「あからさまに嫌な顔してくれるな」

「嫌なものは嫌なんだ」



そう言い捨てると、
ガラテアはニヤニヤしながら私が腰掛けてる椅子へとやって来て、

肘を置いている窓淵へと腰を預けた

そして顔を近づけてくる



「恋人にそんな物言いはないだろう?」

「………」



私は未だにこの自信が何処から来るのかが判らない

どんなに強大な敵の前に立とうとも、

どんなに恥ずかしい台詞だろうとも、


堂々としていられるこいつの秘訣があったら教えて欲しいものだ



「秘訣は、愛する人が居る事だよ」

「…読むな」



さらりと思考を読んでみせたガラテアの顎を押し退けて椅子から立ち上がる

部屋の隅にあるソファに座り、
珈琲を口に含むといつの間にかガラテアは隣に移動していた



「誰の許可を貰って此処に入り、此処に座るんだ?」

「お前の許可が必要な程親しくない間柄でもないだろ」

「最低限の礼儀ってものがあるのを叩き込んでやろうか」

「叩き込めるものならな」



くっくっくっと喉の奥で低く笑う彼女に、

私はため息を吐いた



「それで?」

「ん?」

「何の用だ?」

「お前の顔を見たいという私の欲望だな」

「…セックスがしたいという性欲ではないのか」

「あながち間違ってはおらんが」

「100%だろう」




さり気無く顔を首筋へ寄せてくるのを避けて、

珈琲で再び喉を潤わす

するとガラテアは腰へと手を回してきて

意味有り気に腰を撫ぜてきた



「……此の手は何だ?」

、私は少し怒っている」

「は?」

「私がお前と会うのは、身体目的じゃないぞ」

「…」

「身体目的なら私がわざわざ足を運ばずとも調達できるのでな」

「へぇ、それはそれは」

「私は、お前に会いたいからこうしてお前の元へちょくちょく来るんだ」




それを言い終える前に既にガラテアの腕は私の腰を抱き上げて、

ソファに横たえていた

その動作はとても優しくて


こいつの言ってる事は嘘じゃないんだな、と納得できたりできなかったり…



「今日はそんな気分じゃないんだがな」

「私はそういう気分なんだ」

「どこまでお前は自己中なんだろうな」

「どこまでも、さ」




意味不明な返しをしてきたガラテアに、

私はガラテアの下で思わず笑い出してしまった

彼女も小さい声で笑いながら遊ぶように私の顔中に口付けてくる

其れに答えるようにガラテアの首に腕を回し、

ガラテアの綺麗な額に軽くキスをすると


今まで余裕な表情しか見せた事のない彼女の顔が崩れた


呆気に取られた表情になるが、

それは直ぐに耳まで真っ赤なものになった




「……」

「…お前可愛いな」

「……ふっ、逆らえんよ。お前には」







そう言って私達はクスクス笑いながら

再び唇を合わせた―――――







なぁ、知ってるか?ガラテア


お前が私の元へ来る度に

私に減らず口を叩く度に

お前の私を見つめる眼差しに

私を触るその指の温かさに



いつも心を躍らせている事を…




私だってお前に負けないくらいお前に会いたいし、


好きなんだ



…悔しいから言わないけどな








Fin