「だぁ〜っっっ!!!!!!!!!!」





「うわっ!?」



奇声をあげていきなり部屋に入ってきた人物にカガリは
手に持っていた紙を落としてしまった



しかし、それが誰なのかと判るとため息をつきながらその紙を拾いなおす事にする


じと目でを睨みつけながら

半ば呆れ顔で


半ば怒り顔で









「…また女の子怒らしたのか?」


「ちっちっちっ、カガリさん、それは違うね」



指を目の前で振りながらは得意気に胸をふんぞらせてみせた
空いているほうの手でネクタイを緩めながら、

キラよりも長めの

アスランよりも短めの髪を後ろへ掻き上げる





「何が違うんだ、何が。この浮気魔め」


「怒らせては、ないよん。本命が居るってバレて泣かれちゃったんだい」



「…今度は誰だ?」




「ここの受付の女の子〜♪」







ここって…





ここかぁっ!!?




思いっきり机を叩いて怒鳴る








「何度言えば判る!?私の職場で女の子を口説くな!!!!」





そんな私に臆した様子もなく、
むしろ慣れている手つきで隅にある給水場へコーヒーを取りに行く




「だってキラもアスランもラクスもミリィも駄目って言うんだもん、となるとここしか無いでしょ」




コイツ…既にキラ達の家や、ザフトにも、連合にも手をつけてたか

そしてオーブと来ればブラックリストに載るだろうが






当たり前だっ









「お前なぁ、キラのお母さんも口説いていたんだろう?この間凄い剣幕で来たぞ、アイツ」





「もちろん」






シラッと言うその悪びれたふうもない顔がムカついた









「で?その子には私の事だとは言ってないだろうな?」



そんな事したら私が居辛くなる事、判ってるだろう?


そう言うと、はまたキョトンとした顔で返してきた








「え?何で?言ったよ?だってこのペンダントにカガリの写真が入っているのがバレたんだから」



「…………っっ!!!!女を口説くならそんなもん持ち歩くなっ!!!!!!!!」








目の前でプラプラと持ち上げたペンダントを掴み取ろうとすると、
ひらりと身を翻してそれを避けられる


私の手が届かない安全な場所まで来るとは大事そうにそれを撫でた






「ふ〜っ、危ない危ない。宝物を没収されたら泣いちゃうよ、私」







「はっ、良く言うよ。平気で浮気する奴がそんな如きで泣くか」












ため息をついて再び椅子に深く座り込むと





また軽口でかわされると思ったそれが、







眉を顰めた














「何で?私だって泣くよ。カガリ大好きだもん」







ここまで正直なら何故口説くんだ、とツッコミ処満載の言動に



私はもう既にため息しか出て来なかった









「本当に私を大切に想ってくれてるなら堂々と浮気なんてしないと思うがな」







「……それっと、これっ、は、別ぅ〜っ♪」









大げさに身振りをしながらまたいつもの笑みで軽口を叩くに内心ホッとする



ナチュラルでもない


コーディネイターでもない




どちらにも属さないエクステンデッドのは感情のコントロールが上手く出来ない


人工的に造られた人間には、何処か欠点があると前に言っていたのを思い出す





『私の場合は例えば怒りと喜び、例えば悲しみと怒り、っていうふうに一気に二つ出て来ないんだ』











だから、怒りはとことん怒るし


喜びはとことん喜ぶし


悲しみはとことん悲しむ







はそう言うけど

複雑な人間の中で、

最も人間らしく、


感情のままに素直になれるに惹かれる人は大勢居るんだ




コーディネィター顔負けの容姿にも理屈はあるけど











昔は自分も出来ていた事



感情のままに動く



もちろんそのままじゃただの我侭になってしまうけど


泣きたい時に泣ける


笑いたい時に笑える




簡単そうに思えても意外と難しいものなんだ






オーブ代表となってからそれらが出来なくなった私を、
唯一泣かせてくれたのが他でもないだった






終戦の後、

ボロボロのモビルスーツに乗った、


ボロボロに疲れ果てていたと出会った時





第一に言われた言葉






『そんなに張り詰めてたら疲れるでしょ』









は、この戦場で何を見てきたのだろう







アスランの協力によって調べ上げたけど




ザフトにも


オーブにも



連合にも





彼女のデータは無かった

















戦場を彼女は1人で駆け抜けていたと言うのか?





何のために?





















それを未だには教えてくれない







ただ、







『この世界の真実を見てきたんだよ』と

















後で判った事だが、どこにも属さないはずなのに、

ザフトの人達
ミネルバのクルー達
連合の人達
ネオと名乗っていたムウ・ラ・フラガ達
死んでいった同じエクステンデッドの奴等



何処でもは有名だった


誰でもを知っていた








彼等は口を揃えて言う





『この世界の全てを見届けたのは彼女だけだ』



























「カガリさぁん?」



「のわっ!?」



突然アップで現れたその顔に私は思わず仰け反ってしまった




不思議そうに私を覗きこんでいるの様子からして、


塞ぎこんでしまったようだった









「どうしたの?お腹痛い?」




痛いの痛いの飛んでけ〜と、さり気無く私の腹に触ろうとした手を叩いて落とした


口を窄めて手を擦りながらブツブツと呟くその様子が可笑しい



おっと、これはコイツが女の子を落とす方法の1つだ




乗せられてはいかん






「……あれ?」



「もう…何だ?私は忙しいんだぞ、この資料を午後までに全部目を通さないといけない」



「そんなの手伝うからさ〜。それより…」





紙の束でしっしっと追い払う私の手を退けて、
が指差すそこは私の胸だった





…何だ?








またよからぬ事でも考えているんじゃないだろうな?










そんな事を思っているうちにその手はそのまま伸びて来て


私の首筋を辿って行き着いたそこを服から引っ張り出した





…げっ









それを何か確認したの顔はみるみるうちに明るくなっていく








「なぁんだっ、カガリもしてくれてるじゃん」


「……っ、煩い!離せっ」



その手の中には、と同じ形をしたロケットペンダント


指先で器用にもそれを開けて中を確認すると更に笑みが深くなった気がした





だって…そこにはの写真があるから







「だったらカガリにだって判るでしょ?これがどんなに大事か」




「大事じゃない!折角貰ったんだから着けているだけだ!!」





「ふ〜ん……」









そう言いながらも首に回されるその腕から逃げられない事を悟った


机を挟む形で抱き合う私達



立っている


座っている私




の方はかなりキツイ体勢だとは思うけど…







「それでも、嬉しいよ」






素直な貴方が羨ましい



素直に想いを言える貴方が羨ましい









私は、いつだって素直じゃないから







そんな私を温かい目で見ていてくれるが居るからこそ、


私の理性は保たれるのかもしれない








首に回されている腕に手を添える


そして恐る恐る見上げると、

満面の笑みのと目が合った







「……嘘だぞ?が心配だから…こうしているといつも側に居る気がしてな」



「うん」






「お前はいつもプラントと地球を行き来しているから会えない時はなかなか会えないし…」



「うん」






「やっと帰ってきたと思ったら他の女の香水の匂いを付けているのはしょっちゅうだし」



「……うん?」






「…大体なぁ、お前は…っいっつもいっつも……」



「えぇっ!?ちょっと待って、カガリ!この雰囲気で言う!?」
















「いい加減にしろ〜〜〜〜〜!!!この浮気魔!!!!!!!!!!!!」









「振り出しに戻ってんじゃん!!??」

















…やっぱり素直になれないんだ



素直だったらカガリじゃないみたいで気持ち悪いって弟にも厳しい意見を貰ったしな






でも、それもこれもちゃんと判っているだからこそ出来るんだぞ?









そこんとこ判ってんのかなぁ、コイツ……











感情のままに動く



もちろんそのままじゃただの我侭になってしまうけど


泣きたい時に泣ける


笑いたい時に笑える




簡単そうに思えても意外と難しいものなんだ



















fin