『ねぇ、戦争は何時になったら終わるの?』















小さな少女は、


アカデミー時代に軍人になるため訓練に励んでいた私に





ただそう言った













その時、私はただ軍人になって戦争を終わらすという曖昧な目的しか無くて


ハッキリ答える事が出来なかったわ







『私達が頑張るから、いつか終わるわ』









と、少女をまだ小さい子どもだからと侮って言い聞かせてみたの




でもその子は


とても綺麗な顔をしていたのに




とても綺麗な顔を歪めて睨んできた
















『嘘吐き、戦争なんか終わらないんだよ』



















戦争なんか終わらない







その言葉は数年経った今でも私の中から消える事なく


永遠に巡り続ける問題となった















その少女と再び出会ったのは




真っ黒な漆黒の…ぼろぼろなモビルスーツに乗って宇宙から現れた時なのよ



無線も通じなくて不審がるクルー達を宥めて艦へと着陸許可を出したのは、

きっと何かしら告げる物があったからなのね








操縦席から降りてきた貴方は、





あの頃とちっとも変わらない真っ赤な眼で私達を睨んだ










『アンタ等は、また戦っているのか』











1度大戦を休戦へと持ち込んで、

オーブへ降り立ったのに






また戦争は否応なしに始まって



私達は信頼出来る仲間達と共に宇宙へと飛び立った時だった










苦笑しながらも、所属軍を訪ねるキラ君に貴方は鼻で笑う








『軍?そんな物…ただ対立するしか脳の無い物に所属する意義は無い』




























数ヶ月が流れて



たった独りで全てを抱え込んで生きている貴方に惹かれた私は

貴方と恋人同士になった




最初こそは笑顔など露も見せなかったのに、

アークエンジェルとエターナルでいろいろと動いてくれている間に貴方はとても柔らかくなった




女の子達にもちょっかいを出して、

カガリさんやラクスさん達に良く怒られるなんてシーンも見かけるようになり




キラ君やアスラン君を困らせてみせたり




とても良く笑うようになった貴方は、


独りで全てを抱え込む事だけは変わらなかった











書類を手に、艦長室へ戻るとベッドにうつ伏せで寝そべる姿があった


部屋着に着替えもせずに、ただTシャツとジーンズで倒れこんだように眠っている








数日寝ないでずっと数体のモビルスーツのセッティングを行っていたというのはキラ君から聞いていた




何度も格納庫へ向かって休むように言ったものの、

彼女はただ
大丈夫、と画面を見つめる目を離さずに手を振るばかりだった












デスクへ書類を置くとその肩に手をかけて軽く揺さぶる






「ほら、起きて」


「んっ……」







駄々っ子のようにその手を振り払う

ため息をつくと、うつ伏せになってる体を反転させて仰向けにさせた





ベッド淵に腰掛けて



しばらくその寝顔を見つめる










あの頃、何をする訳でも無く道路に蹲っていた少女の面影は僅かに残っていた


そして巡回中の数人の軍隊の中に居た私に声をかけてきた少女は





昔と何も変わらない紅い瞳を持っていた










けれど、あの頃よりも確かに大人びて綺麗になっている


スッと通った鼻筋

薄い桜色の唇



筋肉ががっしりと付いていて頼もしい身体

私より少し小さいくらいの身長











どうして私はこの少女に答える事が出来なかったのだろうか



誰よりも


大人よりも



むしろ戦争の当事者である軍隊よりも







世界の全てを、本質を見抜いている小さな少女











彼女はこうして此処に居るというのに 



1番近くに居るというのに





もしまた同じ事を聞かれたら







未だに私は何て答えればいいか判らない





















「人の顔を眺めていて楽しい?」








突然の声に驚くと、

目の前の彼女はほくそ笑みながら目をうっすらと開けて見上げてきた








「起きてたの?」


「ん〜、誰かさんの視線が痛くて目が覚めた」



「ごめんなさい」










両腕を伸ばして背伸びをすると、


右手を私の腰に当ててくる











「マリューさんも寝る?一緒に」




「寝ない。まだ仕事があるもの」




「ふ〜ん……」










それだけ言うと、手も離れて

彼女はこちらに背を向けてしまった









「……ねぇ、




「…何?」






「私達が初めて出会った時の事覚えてる?」








「………何かポカンとして私を見てた」








「貴方が此処に来たのが初めてじゃなくて、ずっとずっと前よ」









「…………………あの頃の事はあまり思い出したくないんだけどなぁ」









「どうして?」





















「あの頃なんだよ、父さんと母さんと姉さん…皆死んだの」

















「……………え?」

















そういえば、から聞いた事が無い


家族の事

生まれた場所の事

何をしていたのか、とか…






何も聞いた事が無い――













「戦争でね、私は全てを失って…」














…だからあんな事聞いたの?」







「何を?」











「戦争は何時になったら終わるのか、って…」








「ふふっ……」















は背を向けていた身体をこちらに向き直して、


自虐的に笑う






その目からは、気のせいか水が潤んできていた
















「ごめんね、あんな質問して。困ったでしょ?」







「…いいえ、ずっと考えていたの。あの後…」







「相変わらず生真面目だなぁ、ナタルさんと似たもの同士だ」

















ナタルとも面識済みだと知ったのは、


艦内を案内している時にが『ドミニオンと同じだね』と呟いたから










本当にあちこち行っていろいろな人達に会ってるらしい




此処に来てから放浪はしていないけれど

私としては



急に消えそうでとても怖い


















「でも彼女とは違って私は答えを見つけられて無いわ」













涙が零れ落ちた頬を、手の平で包み込むと


手首を掴まれて更に押し付けられる








彼女の知り合いはたくさん死んだ


私達が殺してしまった人もたくさん居る




けれど、

彼女は私達を恨みはしない









だから、








誰よりも






人の死を怖がる


























「……違うんだよ」















「え?」















「答えは、それぞれ皆違うんだよ…」


































好きです







貴方がどうしようも無く








独りで悲しみや苦しみを抱え込む貴方も










堪らなく愛しいです


























嫌いです










貴方を悲しませる戦争も










貴方の痛みを判ってやれない私も




















どうしようもなく、もどかしくて

嫌いです





















「大丈夫だよ、マリューさん…いつか、皆で笑える時が来るよ」






「……そこに、貴方は居る?」









「……………それは判らない……」
















上半身を起こして、


近付いてくる唇に目を閉じる












優しくて温かい口付けに


涙が零れそう―――

















「愛してるわ、






「うん」




































fin