しとしと


静かな雨が降る

北の戦乱が終わって数週間が過ぎようとしていた

いつもは吹雪に覆われるこの山にも今日は静かな雨が降っていた

雨は嫌いだ


あの日を思い出す

私の不甲斐なさで命を落とした沢山の仲間達



私の心の中の雨は

ずっとずっと降り続けてる…






雨でも私達は訓練を休まない

自分の非力さに嫌という程思い知らされた私達は時間が惜しいとでもいうように訓練に打ち込んでいた


ふと手合わせの相手が戦意を無くしたのを感じ取って動きを止める



「どうした?ヘレン」

「ミリア姉さんよぉ、少し休んだ方がいいんじゃないか?」

「大丈夫だよ」

「ここんところくに寝てないだろ?」

「………」

「気分転換してきなよ」

「いや、私はまだ…」

「今の姉さんならあたしでも倒せるぜ?」



不器用ながらもヘレンの気遣いに私はふっと苦笑いをして、

ヘレンの肩を叩く


「わかったよ、そうさせてもらおう」

「ん」


彼女はニカッと笑って私の背中を叩き返してきた



しばらく歩き続けたら寝床にしてる洞穴が遥か遠くにあった

私は休める所を探して彷徨く

少しした頃、前方に湯気らしきものが見え思わず頬を緩めた

後でみんなにも教えてあげよう

きっとヘレンなんかは叫びながら走っていってしまうだろうな

そんな事を考えながら大剣と服を落とし、

ゆっくりと温泉に浸かっていく

そういえば


アイツはどうしてるんだろう

組織に縛られてなくても、ガラテアと同じように力ある者だから北の戦乱には派遣されなかった

最後に会ったのはその戦いの前日




(悪夢が始まるぞ)

(お前が魅せる夢じゃないだろう?)

(だから、こそ退いとけ)

(そうもいかないさ)

(私がお前を護ってやれないのは嫌なんだ)


悔しそうに握り拳を作るアイツに、私はなんだか嬉しくなった





会いたいな


会いたい




お前は無事なのか






「なぁ、






「なんだ?」

「…っ……!?」




たった今思い浮かべてた者の声がして、私は勢いよく振り返った


そこには服を着たまま立っているがいた



「なっ…お前どうしてっ……」

「やっと見つけたよ、ミリア」


ニコリとも笑わない

目の奥に恐ろしい威圧感を秘めてがそのままちゃぽちゃぽと音を立てて中へ入ってくる


「ちょっ…待っ……」

制止の声を張り上げる私を振り切り、正面から包み込むように抱きしめてくる


「……?」

「……じで………よか…た」


良く見ればの体は小刻みに震えている

無意識のうちに私の目から涙が落ちて、彼女の首に腕を回す





「ミリ…ア…」

っ」

「ミリア」



私達は雨の降る中


強く強く抱きしめあった

自分が裸なんてどうでもよくて

ただ目の前にいる人が本当に存在するのかどうか確かめるように


気付けば夢中で唇を重ねていた



私は湯が段々紅く染まっていくのに気づかなかった―――
















うっすらと目を開けると

そこは見覚えのない場所だった


察するに洞穴かなんかだろう


側に温もりを感じて、
私は首だけそちらに向ける




「………ミリア…」


私の隣に横たわり、私の手を握りしめ、眠りこけている愛しき人だった

その寝顔はとても幼くて何度も見た大好きな表情



「そのまま寝かせてやってくれ。穏やかな眠り顔は久しぶりなんだ」


その声に小さく首を動かせると、ショートヘアの女が岩壁に背中を預けてこちらを見ていた

よく見渡せばそこら辺に数人の女達が死んだように眠っている

戦士か?


そう思ったがどうやら違うらしい

いや、正確には元戦士だろう



「お前は…ミリアの何なんだ?」

「名乗りもせずにいきなりか」

「……すまない、デネヴだ」


思った以上に礼儀正しい彼女に私は思わず口角を吊り上げてしまった


「私は…だ」

「っ……」


やはり私の事は知っているのか

無理もない

ナンバー1を上回るナンバー0だからな

最もその存在を知る者は僅かだが

デネヴは知っていたらしい

苦笑を浮かべつつ、彼女から目を離してミリアを見る


「ミリアの何なんだと言ったな」
「…ああ」

「掛け替えのない人だ」

「…………そうか」



それ以上何も言わずデネヴは目の前の焚き火を見つめていた

そしてしばらくした後
再びその口が開かれる


「その怪我は…?」

「これは…………」



自分の腹を行き交う幾つもの傷

そこにミリアが握ってる手と反対の手を這わせて呟く



「組織に背いたその礼かな」

「………」

「耐えられなかったんだ。ミリア達を北へ派遣しといて捨て駒にする組織に」

「…そうか」






もう嫌なんだ


あの日から毎日僅かに感じ取れるミリアの悲しみの気

もう嫌なんだ


お前が泣いてる所は見たくない



私は小さく微笑んでから

隣にあるミリアの唇にもう1度口づけて


再び眠りについた



次目覚めた時は笑ってるお前が見れるかな……




お前が泣いているなら


いつだって駆け寄るよ――






Fin