ある旅の途中

陽はとうに暮れた時刻

深い森の中で焚き火の前で大剣に背を預けて目を伏せてる美女がいた

彼女の膝の上に頭を預けてすやすやと眠る小さな少女は安心しきった寝顔を見せている


ふとウェーブのかかった綺麗な金色の髪をした美女は目をすっと開き、

首だけそっちに向けた



「………久しいな」

そう声をかけた先からは、
月明かりに照らされて眩しい程輝く者が現れた

格好は金髪の美女と同じ
背中にも大剣を担いでいる


彼女は静かに焚き火の灯りが届く範囲まで来ると

金髪の美女の顔を見て一瞬綺麗な柔らかい笑みを浮かべた


しかしその膝の上に眠る少女を見て眉間に皺を寄せる

そんな彼女を見て美女は微笑んだ



「そうあからさまに敵意を剥き出すなよ」

「……」

「なぁ、"悪夢の"」

「"微笑のテレサ"」




テレサはをちょいちょいと手招きをする

はたじろぐもののそっとテレサの傍に寄り、
傍らに膝を突きその目を見据えた


頑なにそれ以上動こうとしない彼女にテレサは、膝の上の少女を起こさないようにの腕を引き抱き寄せる




「…会いたかったよ、

「………うん」


テレサは強く抱き締めてから、
身体を少しだけ離して軽くもない深くもない口付けをした

も特に抗う事もせず静かに受け入れる


会えなかった分の想いが2人を加速させてゆく

口付ける時間が長ければ長い程身体は相手をもっともっと、と求めていくのが判った


けれど



「…邪魔だ」

「…そう言うなよ」


邪魔そうにテレサの膝の上の少女、クレアを見下ろすにテレサは苦笑いをした

もう1度軽く口付けてから、
テレサの隣にを座らせてその腰に腕を回した状態で落ち着く


「急ぐのか?」

「否」

「珍しいな」

「お前の妖気を感じたから切り上げてきた」

「また組織の奴等に嫌味言われるぞ」

「いい」



テレサに会いたかったんだ、と


が呟くように言うのを聞いてテレサは嬉しそうに顔をの肩口に埋めた



「なぁ」

「うん?」

「その人間…只じゃすまないだろ?」

「……まあな」



彼女の金色の綺麗な髪に口を寄せながらが問いかけると、
テレサは目を閉じて静かに肯定した

はそんな彼女を複雑そうに見つめてその逞しくも小さく華奢な身体を腕で覆う

テレサはの腕に手を添えてその温もりを感じ取るように顔を擦りつけた


「テレサ」

「……」

「死ぬな」

「………」

「頼むから」

「…………」



彼女の懇願に
テレサは答える事が出来なかった

ふと、頭の上のが涙を流している気配がして

テレサはそこで顔を上げた

そして綺麗に微笑みながらその頬を指で拭い、指の通った後を唇で追う



「泣くなよ」

「…っ…」




「てれさ?」



その時下のほうから幼い声が聞こえた

2人はパッと離れて、
は濡れた顔を見られないように顔を背けた

テレサは優しく微笑んでクレアの長い髪を梳きながら安心させる



「どうした?」

「ううん…その人、誰?」

「心配しなくていい、私が唯一信頼してる仲間だ」

「そう、なんだ。でもどうして泣いてるの」


「っ…」



気付かれていたのか、と

は身体を強張せるが
テレサはふふっと妖艶に笑いを抱き寄せた



「私の事が好きで仕方なくて、泣いてるんだそうだよ」


「…寝言は寝て言えよ、テレサ」


「本当の事だろう?私も罪な女だ」


「お前は殺されても覚醒してもお前のままだろうな」




憎まれ口を叩き合う2人に、

クレアは小さく笑って今度はテレサから少し離れた所にある寝袋に潜り込んで寝てしまった


子供の癖に何もかもお見通しだったのか

その上気遣いまで…


と目を丸くする
テレサは再び彼女を抱き寄せて唇を重ねながら言った


「気がまわる良い子だろう?」











この時が永遠に続けばいいのに、と

はテレサと身体を重ねている間ずっと思っていた


別れはそう遠くない未来訪れるはずだ


だからどうか今だけは

甘い夢を見させて



どうか神様

今だけは


彼女を此処に繋ぎ止めさせて…






fin