「こんばんわ」


「……静」




その日の夜、インターフォンがなって玄関に出ると

怖いくらいに微笑んだ静が立っていた





「な、何…?」


「顔の冷たさが解けた感じがするわ、薔薇様方と何かあったの?」




とりあえず家に上げる




リビングに戻って吸いかけだった煙草を消した

何故か怖いんだけど、その笑顔が



「お、鬼ごっこした」

「鬼ごっこ?」


「うん…」



目を見開いてしばらく黙りこんだ後、
意味有り気に笑い始めた


「ふふふっ、そう、そうなのね」

「?」

「努力し始めたの?」



努力

今まで誰も受け入れなかった心を、
誰かに見せる努力



静が言いたいのはそういう事なんだと、わかった





「うん」




「やっぱりあの人達に頼んで良かったわ」



「頼んだ?」


「えぇ、の氷を解かしてくれって頼んだの。私じゃ無理だったから…」









頼んだ…




だからあの人達は私に優しかったのか…






そりゃそうだよね

今まであんな態度取ってたのに何も無しで優しい訳がない





………やっぱりそういうものなのかな






人間て







「まぁ、私が頼まなくても彼女達は自分から私の所に来たからね。貴方を助けたいって」






「………え?」






私の考えは何もかもお見通しとでも言うように、
静はただ微笑んで私の頭を撫でてくれた


…ほっとする



ついこの間まではその手さえ鬱陶しくて嫌いだったけど




今はこんなに心安らぐ









「それで、湊の事なんだけど」




来た


これが本題なのは薄々わかっていた

何も用事もなく静が来る訳がない




目が合わないようにソファに座り込んだ



静も、隣に座る




彼女の顔は見れないけど、

彼女は私の顔を見ているんだろうな









「この間学校に来たわよね?」


「…うん」


「貴方の告白される現場を見たらしいわ」


「……うん」


「そして、別れを切り出されたと、貴方に」


「……そうだよ」


「その後私の所に泣きながら来たの」



「やっぱりね」




静の声はただ淡々としていて、

余計私の心を乱す






「それで、どうするつもりなの?」








ポケットの中のイヤリングを、
指先で玩ぶ


どうするか、なんて決まっていた







「もう一度会うよ、湊に」



「そう…それで?」


「……謝る、今までの事を」


「謝ってどうするの?」



何でこんなにもハッキリ言えるんだろう、彼女だけは

今までの人達は私が黙り込んだら何も言わなかった

ただ申し訳なさそうに顔色を窺うように…

湊すらそうだった



それだけだったのに

静だけは自分が納得するまで聞いてくる






「もう、今までみたいに関係を持つ事は出来ないって言う」




「…言えるの?」




バッと静の顔を見た

その目は鋭い眼光を放っている





「言えるさ!」

「どうかしら…貴方はすぐ我を見失うからまたありもしない事を言ってしまうと思うわよ」

「………っ!!」


黙り込む私を見据えて、

その厳しい顔つきはふと、いつもの柔らかい笑みになった





「そこで提案があるの」

「提案?」

「湊に会うには店に行くしかないでしょう?」






湊の働いている店とは


つまりホステスの集うクラブな訳だ





前に一度行ったけど

たくさんの湊と同業の女の人達に囲まれて


可愛がられて
いじられて


もううんざりだった…


だから二度と行きたくないと静に前話した事があった








「だからね、ボディガードをつけたらどうかしら」


「ボディ…?」


「ガード。そのためにはまず男装をしたら男性に見える人じゃないといけないわ」


「……何考えているの、静」


「そうくると白薔薇様と黄薔薇様の蕾、この2人ね」





…聖と令ちゃん?



呆れた顔で静を見ていたら

それに気付いたのか、私の頬をそっと撫でる




「そして、貴方のストッパーが必要なの」



「ストッパー…」


「そう、貴方が我を見失っていろいろ口走っちゃう前にそれを留めてくれる人」



「……誰?」




「紅薔薇様とその蕾よ」




蓉子と祥子姉ちゃんね…



「え?じゃあ祐巳と志摩子と由乃は用無し?」


「何言っているの、お酒を出すような所に未成年をぞろぞろと連れて行ったら湊が怒られるでしょう」



…一応全員未成年なんだけどね


「いいのよ、格好次第でれっきとした大人に見えるんだから、皆」




それでまだ童顔の3人はダメだと、そういう事だった





………待って



と、いう事は…






「静は来てくれないの?」






静の手が、私の頬に触れる

悲しそうに


壊れ物にでも触るように…





「それは、きっと湊が嫌な思いするでしょうね」






どうして蓉子達は良くて、

静は駄目なんだろう…





パキ…ン……ッ




心の中の氷が今1つ解け落ちた気がした














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