「祥子、大丈夫?」



「ええ、少し落ち着いたわ」










駐車場に停めてあった小笠原家のリムジンに祥子を乗り込ませて、
はドアを開けたまま其処にしゃがんで祥子の顔を覗き込む

先程の場所から離れたおかげか、少し顔色は回復していて微笑む祥子には安堵の表情を見せた















「あぁ、水を持って来るよ」



「大丈夫、要らないわよ。それより側に居て頂戴」



「…でも……」



「貴方が側に居てくれる方が落ち着くのよ」



「……………そっか、じゃあそうする」



「ええ」



















複雑な顔で言葉を濁すに気付かないのか祥子は、
も車の中に乗り込ませるように腕を引いてからドアを閉める

大人しくされるがままになって祥子の隣に腰掛けるはふと目の前の運転席から待機していた運転手の心配そうな顔が見えた


清子との関係も知っている彼に、祥子とのやり取りを見られるのはどうしても心もとなくて苦笑してから運転手に顔を出す
















「セバスチャン、悪いけど少し席を外してくれないか」


「でも坊ちゃま、お嬢様が…」


「僕が責任を持って介抱するから心配しないで。貴方には清子さんを見ててやって欲しい」


「…はぁ…」


「まぁ瞳子も居るから大丈夫だとは思うけどね、念のため」


「畏まりました、それではしばらく席を外しております」


「うん、ごめんね」











が手を目の高さにやって苦笑しながら謝ると、
運転手も笑みを返して車から降りて会場の方へ向かって行った



それを見届けてから、リムジンの中にある小さな冷蔵庫から缶麦酒を取り出して祥子にも差し出すけれど

不要の意を示したので其れはそのまま自分の物と化した
プシュッという小気味の良い音をたてて開封された所から炭酸とアルコールの匂いが湧き出してきた




煽るように一口勢い良く飲むと、本日何度目かのため息が自然と口から漏れる






















「酷いわ、こうなる事を予測してお母様は貴方を連れて来たと言うのに…」


「ごめん、ああいう場所は慣れてはいても苦手な事に変わりなくてさ」


「だからって遠くで私達を眺めながらお酒を飲んでいるなんて信じられない」


「申し訳ない事をしたと思ってるよ」


「其れだけじゃなく瞳子ちゃんと踊ってもいたじゃない…」


「ごめんってば、あの様子じゃ大丈夫だと思ったんだ」












何だかこのやり取りは恋人同士の痴話喧嘩みたいだと思えてきて、は麦酒を片手に苦笑した

ふと空いている方の手にもう1つの手が重ねられてその方向を見る
真っ直ぐに自分を見つめている祥子と目が合った













「私は貴方のモノであっても、貴方は私のモノじゃないんでしょう」



「…あれはあの場から離れるために1番良い言葉だと思って…」



「いつになったら私だけを見てくれるの?」



「………祥子、酔ってる?」



「いいえ、全くよ。貴方はいつも私だけを見てくれはしないのね」



「…はぁ、もう嫌だ」



「え…?」



「もう、嫌だ。祥子と居るといつもこういう話になるんだ、もう祥子と一緒に居たくない」

















突如車から降り立ってその場所から離れていくの背中を見つめながら、
祥子は今しがたが自分に何と言って去って行ったのか頭の中で整理していた

正しくは頭が受け付けなかったのかもしれない




そしての姿が駐車場から外へ出て行こうとする辺りで息を呑んで自分も慌てて車から降りる










しかしドレスな上にヒールを履いている祥子に、スーツと革靴を着用しているとの距離を縮められる訳がなかった















!!」
















ヒールがコンクリートの地面を打ち付ける音だけが夜の無人の駐車場に響いて、

それは無限に鳴り響くかのように思えるくらいのものだった


















っ、お願い!待って……」












































しかし、決してその背中は足を止めて振り返る事無かった







































「それで、その場を後に1人で帰って来ちゃったって訳?」








「……うん…、ねぇ静」


「何?」


「静は、僕の事好き?」


「何よ突然」


「僕は……恋愛感情無しで付き合う事は出来ないの?」


「…どういう事?」


「仕事相手の女性達も、祥子も…いつも僕に愛の言葉を囁くんだ」


「………貴方は無自覚だものね」


「何が?」



















「貴方は無意識に女性達から、愛を求めているもの。それに応えたくなるのが女の性ってものよ」


























その夜、静のキスはとても暖かくて優しかった


気付けば僕の頬は涙に濡れていて
彼女の胸の中で眠るのはとても気持ちが良くて、




服を脱がされている間も










もしかしたら僕の脳内の片隅にはあの人が居たのかもしれない―――――


































僕は言った

  泣いていいんだよ


 ずっと傍に居てあげるよ




 欲しいのは抱き上げる手を


            手を…





























next...