初めて抱き合う訳でもなく只一緒に眠った
其れだけでも凄く安心出来たのは、きっともう微妙な空気が消えたからだろう
朝、おはようと声を掛けてくれる人がいる幸せ
僕は大切にしよう、と思えた
駅で降ろして貰って、
別れる時に約束を2つさせられた
『売春を辞める事』
『自棄にならない事』
でも清子さんは小笠原の家を潰すな、とだけは決して言わなかった
判っているのか、判っていないのか
どっちかは判らなかったけれど
初めて清子さんの母親らしい面を見れて、少しこそばゆい
祥子ともう1度向き直ってみようか
清子さんと出来たんだから、出来ない筈はない
でもそれは僕の事だから
祥子自体はどうなんだろう
もう僕と顔も合わせたくないのかもしれない
ここ数日同じクラスだというのに祥子とは1度も話していない
ふと目が合う事はあってもお互いどちらともなく逸らしてしまっていた
離れていた日が長ければ長い程気まずくなってしまうんだ
ならばこれ以上長くなってしまわないように距離を縮めるだけ
祥子は気まずいと思う
僕と何を話せば良いのか判らないんだと思う
想いを寄せていた人に利用されていたなんて聞かされて物凄く傷ついていると思う
僕が悪いのは判ってる
くだらない個人の感情で周りを傷つけてきたんだから
だから清子さんの言う通り、
責任を取らないと
もう子どもじゃないんだから…
携帯のアドレス帳にあるグループで、
身体を重ねる事でお金を受け取っていた女性達のグループを削除する画面に移る
僕は羽織っていた上着を脱ぎながら肯定のボタンを押した
これでもう彼女達と連絡を取る手段は無い
受信メールも着歴も全部消した
これでまっさらだ
もちろんこんな事で全て解決する訳じゃないけど、
気持ちの問題なんだ
これで最初からスッキリと挑める
あの温室育ちで純粋培養の綺麗なお嬢様に向き直る事が出来る筈だ
そして僕は今淹れたばかりの珈琲を飲みながら
ボタンを押して電話をかける
電話の主は直ぐに出た
たまたま電話機の傍に居たのだろうか
(はい、もしもし)
「はぁい、令ちゃん。ごきげんうるわしゅう」
(…その猫なで声は…?)
「ピンポンパンポン〜。見事正解の貴方には素敵なプレゼントが!」
(……相変わらずだね、何の用?)
「ぐっ、令ちゃん冷たい…」
(あんな事があった後で普通に電話かけてこれる方が不思議だよ)
「あ〜、あれね。結構痛かったよ?大人しい人をナメてちゃ駄目だね、うん」
(………でも私は謝らないから)
「うん、全然謝って貰う気なんかない」
(え?じゃあ何…)
「令」
受話器の向こうできっと混乱しているであろう友達に、
否…私は令の事を親友だと思っている
そんな令に、心を込めて
口を開く
「有難う、君のおかげで目が覚めた」
(……?どうしたの?)
「いや、さ…良い友人を持って幸せだなって思ったの」
(…ううん、私も大人気なかった…。ごめん)
「うぉ〜い、たった今謝らない宣言したばかりじゃないか」
(…だって頭に血が上ってたし、引っ込みつかなくて…)
「だからヘタ令なんて言われんだぞ」
(うるさいな、また喧嘩したいの?)
「あ、嘘嘘。怒らないで」
言葉こそはキツイけれど、
受話器の向こうで笑い声を必死に堪えている声が聞こえて自然と頬が緩む
灰が溜まった煙草を灰皿に軽く当てて灰を落とす
吐き出された煙が部屋内を舞い、くるくると漂う
そんな様子を眺めながら僕は部屋の窓から見える静の部屋を何気なく見る
すると今更だけど、静がカーテンと窓を開けてこっちを見ている事に気付いた
かなり突然で、吃驚して咥えていた煙草を床に落としてしまう
それが裸足の足に直撃したものだから悲鳴が口から漏れる
「うわっちぃ!!」
(なっ、ど、どうしたの!?)
「あっ、いや…何でもない……」
(そ…そう……。何があったか知らないけど大丈夫?)
「…ちょっとマズイかもしれん。寿命が」
(……早死にしそうだもんね、)
「さらりと酷い事言わないでください」
(ふふっ)
煙草を拾い上げて、灰皿の上で捻り消すと
口角を上げて静を見る
静は何を言う訳でもなく、煙草を落とした僕を可笑しそうに目を歪めてみているだけだった
何だか悔しくて舌を出して悪態をつくと、静は更に可笑しそうに肩を震わせる
そして令に本題を切り出す事にした
「実はさ、令にお願いがあるんだけど…」
(うん?)
「祥子と仲直りしたんだ、其れで協力願いたい」
(…そういう事なら幾らでも協力するよ。祥子のためにも)
「ありがと。それで…祥子は僕の事をなんて言っている訳?」
(うん、…何も言ってないよ。只毎日ぼんやりしているんだ)
「そっか」
(それで、何するの?)
「うん…実はね……」
しばらくして、お互いお休みと切った電話をベッドの上に放ってから
其の間もずっと此方を見ていた静に目配せをする
窓を開ける
「何か御用かな?歌姫」
「ごきげんよう、闇の帝王殿」
「それならば君は闇の歌姫殿かい?」
「いいえ、私は表の世界の人間だもの」
「…良く言うよ」
それだけ言うと、静は声を潜めて笑う
僕も窓淵に肘杖を付きながら笑う
このやり取りも久しぶりかもしれない
ずっと此処の所其れらしい会話もしていなかったし、
むしろこっちから静に壁を作って距離を置いていた
だから、こんな何気ない会話が嬉しい
そして僕は、まだ目を伏せて笑っている静の頬に口付ける
「…?突然何?」
「うん、大好きだよ。静…でももう肌は重ねない」
「……そう、其れは良かったわ」
「静と肌を重ねるのは心地よい。でも…心は満たされない。其れは他の女性達も同じだった」
「ええ、重ねるごとに寂しくなっていくのよ」
「それに約束したんだ、清子さんと」
「…安心したわ、本当に……」
「ずっと見守っててくれて有難う」
静の手を取り、固く握手をする
すると静は僅かに握り返してくれた
その顔にはもう微笑みは浮かんではいない
けれど綺麗だった
祥子、僕は君を拒み続けてきた
其れは実の姉妹だからというのもあったけれど
きっと怖かったからだ
素直でまっさらな君に触れたら、
この黒くどよんでいる僕の色が流れ着いてしまいそうで
君の白さが消えてしまいそうだった
でも其れは違った
白が多ければ
黒が小さければ
白くなるんだ
僕はもう…恐れないよ
祥子、君に触れる事を
君ならばちゃんと僕を受け止めてくれそうだから
さあ、帰ろう
原点に―――――――
FIND THE WAY
言葉無くても
飛ぶ翼は無くても
乱す風に負けぬように
進んだ道の先……
確かな光を見た..........
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