世界は回り続けている
誰かが悲しい思いをしている瞬間に
何処かで誰かは嬉しい思いをしている
誰かが大切な人を失った瞬間に
何処かで誰かは大切な人が出来て喜んでいる
そんな、ものなのかもしれない
矛盾が固まり出来上がったものがこの世界なのだ
だったらせめて
其の中で生きる僕等が
出来るだけ矛盾を作り出してしまわないように出来るんじゃないか
世界の流れに逆らう事なんて出来ない
けれども、その流れに身を任せる事はしない
ねぇ、僕の声は届きますか……
大切な貴方に――――――
パソコンを右手で弄りながら牛乳パックのストローを咥える
僕は画面に向いてる顔を動かさずに、
右手の先にある人物に目をやる
その人物は何処か紅潮しており目を宙に漂わせていた
両手が塞がっている僕に牛乳パックを差し出してくれていた彼女は辺りからの視線に困り果てている
ストローを口から離して口角を吊り上げる
「そんな挙動不審じゃバレるよ」
「なっ…ねぇ、本当にこんな事して…」
「大丈夫だから堂々としてなさい、愛しのハニー」
「………」
やっと顔を自分の方に向けた令の唇に掠めるだけのキスをする
今度こそ完全にフリーズした彼女の腰に回している腕を縮めて身体を引き寄せる
昼休みのミルクホール
昼食を取りに来ていた生徒達がざわざわとホール内を騒ぎ立てていた
それも無理ない
ついこの間派手な喧嘩を廊下で繰り広げていたリリアンの有名人2人が、
今度は1つのテーブルで椅子を寄せ合って密着しているのだから
その雰囲気はどうみても恋人同士にしか見えない
オマケに公衆面前でキスまでする始末
「…あ、もしかしてファーストキスだった?」
「……もう、降りていいかな。この作戦」
「駄目」
「こんなんで本当に祥子は来るの」
「来る」
「祥子も其処まで単純じゃないと思うけど」
「単純だよ、祥子は。ほら、静かにして。祥子が来た」
僕はそう言うと、令にミルクホールの入り口を顎でしゃくって教える
令は祥子の姿を見つけるなり固まって俯いてしまった
多分脳内が混乱しているせいで僕の牛乳パックを普通に飲み始めている
つか僕の牛乳…大事な栄養源なのに
「……間接キス」
「っ…!!?」
小さな声で囁くと令は顔を更に真っ赤にさせてパックを机の上に置く
その隣で肩を震わせて必死に笑いを堪える
そして祥子を一瞥すると再びノートパソコン画面に目をやる
画面内で下がり続けていたグラフは少しずつ僅かにじわじわと上がっている
小笠原融にはもう復讐は果たした
数日下がり続けたせいで小笠原の会社はかなり混乱しただろうし、
損害も恐らく億、兆単位の物になっているはず
だからもう、それでいい
復讐なんてつまらない事はもう終わりにする
にしても何と単純な世界なんだろう
これで金を儲けようとする人々には大変な世界なのかもしれないけれど
けど、僕の手にかかっちゃ単純で
この数日で僕の儲けたお金は今までの人生の借りを全て返せるくらいの金額
小笠原融のせいで波乱万丈な半生を送ってきた
だからその半生を返して貰った
それだけだ
もう…復讐なんかしない
虚しいだけだ
少しずつ現状回復しているグラフを眺めながら、目が自然と緩む
隣に居る令は良く判ってないらしく、ただゲームか何かをしているのだろうと思っているらしい
これで、清子さんに恩返し出来たかな
今まで助けて貰った分、返す
命拾いしたね、小笠原融
バンッ
突如画面がキーボードの上にある手目掛けて落ちてきた
正確にはパソコン自体が閉じられたのだが
それはあまりにも痛くて
人間本当に痛い時は声も出ないっていうのは本当らしい
「…………っぅ……」
パソコンの間に挟まれている右手を何とか引き抜いて悶えさせる
椅子の上で固まってしまっている自分の身体に鞭を打って上を見る
「祥子……」
声も出せない僕の代わりに令が僕のパソコンに手を当てている祥子を呼ぶ
けれど祥子は僕に鋭い睨みを効かせてて、令など見向きもしない
酷いね、親友でしょ令は
思わず苦笑が漏れる
そんな僕が気に障ったらしく祥子は僕の腕を引いて立ち上がらせる
もしかしたら令の腰に回している腕とか密着している身体とかを少しでも離したかったのかもしれない
随分と自分に都合の良い憶測だけど
「な、何かな?さっちゃん…」
「その呼び方は止めて。どういうつもり?」
「どうも何も…何のつもりも御座いません」
「令まで巻き込むつもり?もし其れが私への当て付けなら…」
「とんでもない、滅相も無い」
「何でそんなにヘラヘラとしていられるの!?」
「ヘラヘラだなんて酷いなぁ」
「私はいいわ、幾らでも傷つけて。でも周りを巻き込むのだけは許さない」
「祥子、は…」
理由を知らないのだから仕方ないが、
キツイ言葉を浴びせる祥子に令が堪り兼ねて声をかける
けれど僕は令の肩に手をやって黙るように促す
令はどうしてとでも言うように非難の眼差しを当ててきたが、
首を横に振る
そして両拳をギュッと握っていっぱいいっぱいの顔をしている祥子に目をやった
「祥子、安心して。僕はもう故意に誰かを傷つけようとは思っていない」
「嘘よ!現にこの間だってまたお母様と…!!お父様がどうして止めないのか不思議だったのよ!?」
「それは、清子さんにありのままの僕を教えるために呼んだだけだからだ」
「そう、それで貴方はまた私の家族を掻き乱すのね」
「だからそれはもう無いってば。もう嘘を吐くのは止める事にしたんだ、自分にもね」
「っ……じゃあ教えてくれるの?聞けば」
「うん、何でも話す」
紅薔薇の蕾こと小笠原祥子と、
黄薔薇の蕾こと支倉 令と、
リリアンの宝塚スター と謳われている僕がミルクホールで異様な空気を放っているせいで
またしても人々の視線が釘付けになる
皆が息を呑んで僕らの成り行きを見守っていた
祥子は、そっと僕の腕に手を添えて
僕の顔を真剣に見つめる
「私達が姉妹だってのは…本当?」
「…えっ!?姉妹!?祥子とが!?」
未だに椅子に座っていた令が驚愕に顔をポカンと開けて叫ぶ
けれど祥子の顔は真剣そのもので、
僕は1度地面に目をやってから再び顔を上げた
「……うん、そうだよ。僕は紛れも無く小笠原融の子だ。DNA鑑定も済んでいる」
「……………そう」
「優兄とも小笠原融とも似ている顔だろ?」
「……そうね」
「間違いようがないよ」
「…じゃあやっぱり私の願いは叶う事がないのね、この先ずっと永遠に……」
「願い?」
「………貴方と何をする訳でも無く只一緒に居たかったわ」
「祥子…」
公衆面前だというのに珍しく祥子は場所も時も弁えないで、思いを口にした
僕はそんな祥子に何も息を呑む
今まで僕が付き合ってきた人達は、
僕の紳士的な部分とか自分を決して傷つけないと判っているからとか、
営みのテクニックとか身体だとか其れだけしか見てこなかった
けれど目の前に居る人物は純粋に僕だけを見てくれている
清子さんといい、
祥子といい、
……どうして
どうして
「どうして君達はそんなに純粋でいられるんだろうね」
「…、貴方も純粋だわ」
「ううん、僕はもう…手遅れだよ。でも祥子、君はそのまま変わらないでいて」
「……」
「祥子、もう大丈夫だから。僕の傍にずっと居てよ」
「え…?」
「別に姉妹だから一緒に居ちゃ駄目って事ないだろ、其れに僕は今君がとてつもなく愛おしい」
「っ………」
僕の言葉に、
今度は祥子が息を呑む番だった
自分が今聞いた言葉は夢なんじゃないか、というように目をきょろきょろ動かして困惑しきっている
僕の腕に添えたままの手を握り返して、そっと優しく抱き締める
「いいんじゃない?別に女同士だから子どもが出来たら困るとか無いし。僕らは出会った時は他人だったんだからどう足掻いても防ぎようがないじゃん」
「……っ、私…夢なんじゃないか…って」
「ふふっ、大丈夫。紛れも無い真実さ」
「…私、嬉しいわ。今とても幸せなの…変ね、ついさっきまで最悪の気分だったのに」
「これから先はずっと最高の気分にしてあげるよ」
「………あ、でも令は?」
ふと祥子の口調が急に刺々しくなった
そして僕の背後に座っている令を睨む
僕は慌てて祥子の身体を離して、令の方に向き直る
「あはは…わ、私は只……」
「令は只の協力者だよ」
「協力者?」
「………言わない方が賢明かな?」
「…うん、多分」
物凄い祥子の剣幕に、令は苦笑しながら僕に目で助けを求めてくる
だから令の肩に手を置いて祥子に出来る限りの笑みを向ける
けれど眉を顰めて怪訝そうに問い返してくる祥子にすぐさまその笑みは崩される
令にそっと訊ねると、令も首を小刻みに頷いて焦った顔で肯定してくる
「何よ、言いなさい」
「……トップシークレット」
「聞けば何でも答えるって言ったじゃないの」
「…………」
やはり紅薔薇ファミリーは最強だった
この令なんてとても足元に及ばないんだろうな
何とか誤魔化しても祥子は1歩も退かない
僕の黙秘さえ認めてくれないらしい
目で抗議してくる祥子に、思いっきり似非笑顔を見せる
「祥子をけしかける作戦の協力者」
「…………」
「ちょっ!?ハッキリ言い過ぎだよ!!」
ちょっと勇気を出して言ってみた
案の定祥子は固まり、
令はうろたえる
しばらく祥子の顔色を伺っていたけれど
次第にそれは想像通り青冷めていった
「けしかけるって言ったかしら?私を?」
「うん、ああでもしないと僕を避けたままじゃん」
「…なるほど、私は最初から最後まで貴方の計画にまんまと乗せられているって訳ね」
「……紅薔薇ファミリーは頭脳明晰そうに見えて意外と単純だからねぇ」
「…………令、悪かったわね。のこんな茶番に付き合わせて」
「あ、いや…祥子のためになるならばと引き受けたのは私だし」
「そうね、確かに結果的には良い方向に転んだわ。でもね、…」
「はいっ?」
「人を自分の思い通りに動かそうとする精神を改めない限り私は貴方を許さないわよ」
「…ういっす」
そう言って踵を返し、ミルクホールを出て行く祥子の背中は
何だかとっても格好良かった
あれこそ皆が憧れる紅薔薇の蕾だろう
そして、僕が新たに愛する事が出来た人なんだろう
令と苦笑しながらも、目を合わせて背中を叩き合う
「さんきゅ、令」
「ううん、良かった」
ぱらぱら…とホール内から拍手が沸き起こる
気付けばずっと観察していたらしい生徒達が感激したらしく、
手を叩いて賞賛してくれていた
そんな彼女達に僕は親指を立ててニカッと笑う
久しぶりに、こんな笑い方をした気がする
ミルクホールに居たクラスメート達から聞いたであろうボストリオも、
僕の頭を軽く叩いて去っていくだけだった
その顔はとても嬉しそうで、祥子は愛されているんだなと思った
「祥子を泣かせたら殺すわよ」
「折角掴み取った幸せ逃さないようにね〜」
「また面白い情報が入ってくる事を楽しみにしているわ」
…ボストリオはやっぱりボストリオだった
それぞれ味のある言葉を残して廊下の向こうに消えていく
祥子の先輩達らしく、格好良く去っていった
妹だという福沢祐巳ちゃんも僕の所に来て、
「お姉さまがあんなに嬉しそうな顔をしているのは久しぶりに見ました、有難う御座います」
と一礼をしていく
皆に大切にされている祥子
その祥子を受け取る
肉親として、
そして姉妹より大切な絆を
任せて貰える
だから、僕は…出来る限りの事をして祥子を幸せにしてあげようと思う
清子さんも優兄も喜んでくれた
頑張れ、と言ってくれた
歩き続ければ、
幾度も高い固い壁にぶち当たる事がある
それは歩き続けている限り逃れようの無い現実なんだ
だから、それを乗り越える…否、打ち壊す覚悟をして歩き続けないといけない
歩き続けるのを止めれば1番楽かもしれない
自分が傷つかなくて済むし、
大事にもならない
けれどそうなればずっと自分は世界の影に潜んで暮らさねばならないんだ
もちろん、壁を乗り越えるなんて簡単な事じゃない
そこで人間は2つの種類に分かれる
1人で乗り越える人間と
誰かに支えて貰いながら乗り越える人間
でも1人で乗り越える人間は、
ボロボロになって気付けば周りには誰も居なくなってく
それが僕の今までの人生だった
誰かに支えて貰って乗り越える人間は、
どんなにくじけそうでも支えてくれる人が居るのだから安心して前に進める
僕のこれからの人生はそういう風にやっていきたい
僕は自分でも気付かない程、優しく見守ってくれる人達に恵まれているから
歩き続けて
進んだ道の先には輝かしい光が待ち構えているんだ――――――――
どうして君は 小さな手で
傷を背負おうとするのだろう?
誰かの為だけじゃない見失わないで
どうして僕は 迷いながら
逃げ出すこと出来ないのだろう?
望むのは光射す日を日を...
FIND THE WAY
輝く宇宙に 手は届かなくても
響く愛だけ頼りに
進んだ道の先 光が見つかるから
YOU’LL FIND THE WAY
君は言った 永い夢をみた
とても哀しい夢だったと
それでもその姿は 少しも曇らない
僕言った 泣ていいんだと
ずっと傍に いてあげるよ
欲しいのは 抱き上げる手を手を...
FIND THE WAY
言葉なくても 飛ぶ翼はなくても
乱す風に負けぬ様に
今誰より早く 痛みに気付けたなら...
答えを出すこと
きっとすべてじゃない
焦らなくて いいんだよ
あなたも...
FIND THE WAY
輝く宇宙に 手は届かなくても
響く愛だけ頼りに
進んだ道の先 光が見つかるから
FIND THE WAY
言葉なくても 飛ぶ翼はなくても
乱す風に負けぬ様に
進んだ道の先 確かな光を見た...
YOU’LL FIND THE WAY
fin