「ねぇ、そこのお兄さん達」


「「はい?」」


「ホストにならない?君達なら一気にトップになれるよ!」






「ねぇ、そこのお姉さん達」


「「「はい?」」」


「ホステスにならない?君達なら一気にトップ間違いなし!」











………こいつら絶対楽しんでる

令ちゃんと祥子姉ちゃんはともかく、

この薔薇トリオは絶対




…ってだから何で江利子が居るんだ




あの場から無理矢理でも引き剥がしていた方が良かったのかな





夕方待ち合わせの祥子姉ちゃん家に行ったら、
家の前に既にコイツ居たし…


それでいつの間にかセッティングしていたドレスやらスーツやらを着込んでいるメンバーに脱力したのは言う間でもない



清ちゃんに抱きつかれて悲願されても私だけは正装するのを断ったけど

嬉々としてきっちり着込んできたこの人達には半ば呆れる



っていうか一人娘が歌舞伎町に行こうとしているんだから止めようよ、清ちゃん
相変わらずあの人の基準が良くわからない…







「早く行こうよ、お父さんお母さん!」


とりあえず両脇に居た祥子姉ちゃんと令ちゃんの腕を掴んで、
無邪気に笑ってみた



「おとっ!?」
「おかっ!?」


想像通りの反応を他所に私はスカウトマンにニッコリと微笑む



「駄目だよ、この人達こう見えて年増なんだから」



「えっ!?嘘っ…じゃっ、じゃあそっちのお兄さんは…っ!」
「年増!?…じゃあ、そっちのお姉さん2人は…」

撃沈させたと思ったらすぐに開き直って、
薔薇トリオを期待の目で見つめだした




…………



「あ、別にいいよ、どうぞ焼くなり煮るなり」







期待の顔つきで私を見ていた3人を呆気なく撃沈させた

一応私の目的を果たすにはこの2人で十分だしね




痛っ




後ろを振り返ると怖い剣幕の3人

…チッ





私は組んでいた両腕を解いて、まだ留まっていたスカウトマンのお兄さん達の元へ戻る
面倒くせぇなぁ、クソ


聖と蓉子と、ついでに江利子の腕を掴んで




「やめた方がいいですよ、この人達性格悪いから。店のっとられます」








人に余計な苦労かけさせて何嬉しそうに微笑んでいるんだ、コイツ等

何とかして追い払ったはいいけど…
何回目だと思ってるんだ!!

だから嫌なんだよ、この町






歌舞伎町の入り口で、さすがにリムジンは目立つからと降ろして貰ったのは失敗だった







しばらく歩いていると、見慣れた名前が見える





そこでは何人かの女の人が道行く人に声をかけていた


湊はあの店のトップだから道端で客寄せなどしていない







何だか嫌に注目される

いつもの倍


多分コイツ等がいるからだろうな




そんな事を考えながら見たことのある顔の女性に声をかけた




「こんばんわ、湊居る?」

「あぁっ、ちゃん!!久しぶり〜っ、待ってたのよ、皆!」



貴方前に来た限り一度も来てくれなかったから、と



苦笑いをかえして、もう一度尋ねる







「湊は居る?」







「居るわ、入って入って!」



「居るって。行こう」


後ろに居た5人に声をかける
皆深刻な顔つきで静かに頷いた



…ごめん、皆じゃなかった




2人、楽しそう
めっちゃ楽しそうなのが2人





「ねぇ、目的忘れないでよ」

「「もちろん」」



いや、あたかも忘れてましたって顔なんだけど

やっぱ人選間違えてるよ、静…


令ちゃんと祥子姉ちゃんと蓉子で十分だった気するけどね





地下へ続く階段を降りて開けられたドアから入ると、
今まで騒々しかった店内が静まり返る


うわ、注目浴びまくり



私が場違いな服を着ているからか?
そりゃフード付きトレーナーにジーパンだからなぁ…

それとも私とは対照的にブランド物のドレスとスーツをキッチリ着こなしている、
この人達か?




…くっ、酒臭い……



ちゃぁんっ!!」
ちゃんっっ!!!」
ちゃん!!」


うわ、歓声巻き起こった…
煩いわ



「ん〜、まぁ何ていうか…湊指名していい?」

「湊さん?湊さんは今奥のテーブルで社長さんの接客しているわよ」


私を店の中に入れてくれた女の人がそう言う

綺麗といっちゃ綺麗なんだけどなんていうか…
ケバイな、好みじゃない


あれだ、スッピン美人が好きなんです私は





「じゃあ…」


後ろに居て店内を物珍しそうに眺めている5人を見回してから、

指差す


「この人達代わりにその席つけていいから、お願い?」



「「「「「えぇっ!?」」」」」


「あぁ、でも聖と令ちゃんはスーツだから無理か…じゃあこの2人のうちどちらか」



ごめんね、蓉子、江利子


祥子姉ちゃんは駄目


だって接客とか無理だもん
絶対





「またまた美人さん達連れてきたわねぇ、ハーレム?」

「…そうは思いたくないな」


ふふふっ、と口を押さえて笑うその人に、

早くしろよと抗議の視線を投げかける



「わかったわかったわよ、じゃあ悪いけどお二人方、チェンジお願いできるかしら?」



「………っ!?」
「ええ、喜んで」



あ、江利子役に立った

面白そうな事は見逃さないからね





蓉子には左手を顔の前に持ってきて、
無言でごめんと伝える

盛大に肩からため息をついてトボトボと江利子の後ろに付いて行く様子を見守ってから、
私は案内された席に残りの3人を引き連れて座った



う〜わ、聖めっちゃ嬉しそう


こちらをチラチラと見ているホステス達に特上の笑顔で手を振り返している

祥子姉ちゃんと令ちゃんは落ち着かな気にそわそわしているけど



多分こっちが普通だよ

こんなところに連れて来られたら、
普通の高校生は戸惑うと思う…







「湊です」




そう言って私達のテーブルに入ってきたのは、

数日前より幾分か痩せた湊だった
気のせいか顔色も良くない


コップにウイスキーを注いで、水で割る
手馴れた手つきで作られたそれは、
作り主の口に運ばれただけだった


…そりゃ私達は未成年だからね





「元気?」


「…見れば判るでしょ」


どこかトゲトゲし気な言葉に私は苦笑いをするしかなかった
そっと、祥子姉ちゃんが私の手を握ってくれる

頑張ってという思いが伝わってきて、
幾分落ち込み気味だった気持ちも少しずつ復活していった



「蓉子…と江利子大丈夫だった?向こうの席で」



「あんな美人が来たら社長だって喜んでチェンジしてくれたわよ」




その様子が目に浮かぶ


…………




よそう、考えるのは





「ねぇ、私にも淹れてくれない?お酒」


「聖」


「いいじゃん、お金はあるんだしさ、せっかくここまで来て何もナシってのも変でしょ」





それを聞くと、湊は黙々ともう1杯作り始めた





「でも、いいの?」


ふと問いかけられた言葉の真意がわからず、
思わず問い返してしまった



「何が?」




「私が接待していた社長、セクハラで有名なのよ」







「……………っっ!!!!」
「「「(ちゃん)!?」」」

「………







まずい


そこまでして貰うつもりなんて無かった

本当はただ側に居て欲しかっただけで、
たまたま湊が空いていないって言うから代わりを頼んだだけだった



店の奥に1つ仕切られている部屋のカーテンを開ける




そこには、大きなソファで江利子と蓉子に挟まれてどっしり座っている中年親父がいた


「何だね、君!」


驚いた様子の一行が、社長の一言によりハッと我に返って私の肩を掴む
ボディガードだか秘書だかそれらしい男

触られただけで虫唾が走る


「「ちゃん?」」


良かった、二人はまだ被害にあってないみたいだ…

きょとんとして私を見てくる2人に微笑んだ後、

身体の力が抜けていく




男は嫌だ


このゴツイ、冷たい手に触られると

殴られ、蹴られていた時の事を思い出す





「出て行け!ここはお前みたいな餓鬼が来る所じゃない」
「社長はお楽しみの時間なんだ、邪魔するな!」




虫唾どころか、吐き気まで襲ってきた





「「!!」」




「ごほっ…ごほ……うぇっ…」



ぼやける視界の中で、蓉子と江利子の肩に腕を回してる男が焼きついて離れない


その…汚い手を離せっ!!




思いは通じず、男は何とかしてこちらに来ようとしている2人の肩を押さえつけていた






「はい、大丈夫?」


「…………っ!?」



気が付いたら聖に抱きかかえられている

男達から引き離してくれた




先程までの気色悪い感じとは違う、温かい腕の中のおかげで
気持ち悪さも全て消化されていく感じ…



「お姉さま、こちらに…」
「お手をどうぞ」


祥子姉ちゃんと令ちゃんが江利子と蓉子をその中から助け出してくれる






「………っ!!!」



!?」



気が付いたら私は聖の手を振り切って、

その男を殴り飛ばしていた







感情のままに、


ただ感情のままに殴っていた





!」

「っ…くっ……この野郎っっ!」

、もういいわ、止めて!!」

「……っ…足りない」



「やめなさい!!!!」






…………何だろう、この温かさは


何処かで感じた事がある




そうだ、昔…


お母さんに抱き締めて貰った時の温かさだ





昔?




…昔じゃない



つい最近も感じた事のある温かさ……








そっと後ろを振り返ると、

蓉子が私の身体に精一杯に抱きついていた



そうだ、薔薇の館で発作を起こしちゃった時にこうして抱き締めてくれてたのも…





蓉子だったんだ







「蓉子?」

「…っ」


恐る恐る声をかけてもギュッとしがみ付いていて離れない


大丈夫、と頭を撫でると

少しホッとしたかのように離れてくれた



…目を下ろすとそこには血だらけの男が居た



こんなになるまで殴ってたのだろうか?








「ごめん…なさい」






「くっ…この餓鬼…この俺にこんな事してただで済むと思ってないだろうな!?」




「……ごめんなさい」













「謝る必要ないわよ」


隣から声がした





そこには仁王立ちした湊が





「悪いけどここはそういう店じゃないの、出て行ってくださる?」






「くっ…いいのか?スポンサー並に金を出しているのは俺だぞ」





「生憎、貴方に頼る程うちの店は落ちぶれちゃいないのよ」














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