「どうしたの?此れ」
目の前で、有無を言わさない質問をしてくる人物からは目を逸らす
弟とは対称的に大きい背の勇音は、珍しく強面での手を掴んでいた
苦虫を噛み潰したような顔をしては小さく呟き返す
「…転んだだけ」
「転んだら手の平に怪我するものでしょ?どうして甲に、しかもこんな所にこんな酷い怪我するの?」
「………受身を取り損ねたんだ」
「其れも嘘でしょ?幹部、否下手すれば隊長格以上の力を持っている貴方がそんなヘマをする訳がない」
「……いいじゃないか、私の身体でしょ。どうしようが勝手だ」
「ちょっ、!」
勇音の腕を振りほどいて反対方向に去っていこうとするに、勇音の手が肩にかかる
ビクッと身体を竦ませてから顔だけ振り返る
「触るな」
「……っ…」
「そういう訳にもいかないのよ、私達は四番隊だから患者を治療しないといけないもの」
突如、の正面から勇音の上司が現れての両肩に手をやる
そして身を翻らせて隊舎へと連れて行く
背後から勇音がとぼとぼと付いて来るのを尻目に、
は血が乾いてこびり付いている自分の手の甲を見る
瀞霊廷の隅にある森の木々は何本か倒してしまった
怒りに任せて拳を何度も打ちつけたため、木の減った森は遠くに見えている
いつからだっただろうか、
何をしてもつまらなくて
何をしても苛々して……
乱菊や桃達にも沢山迷惑をかけてきた
「また、木の倒れる音が此処まで聞こえていましたよ」
「………」
「さすが四楓院家の元主、四楓院夜一殿の友人ね」
「…そっか……」
「え?」
包帯を巻いてくれながらそういう卯ノ花烈に、は口を開く
そして巻き終えた手を烈の両手から引き抜くと立ち上がる
「夜一に会いに行こう」
「でも夜一殿は今現世に…」
「判ってる、だから向こうの事も良く知っている筈だから訊きに行くんだ」
「何、を?と言っても決まっていますわね」
「うん…個人の用事で地獄蝶、借りれるかな」
「七緒さんにお願いしてみては?きっと快くお貸ししてくれると思いますよ」
「そっか、じゃあ行ってくる!あ、有難う。烈さん、勇音」
「ええ」
「うん」
振り返って2人に礼を言うと、
2人とも和やかな笑みで送り出してくれた
けれど、が四番隊舎から離れていくのを窓から見て勇音は笑顔を消す
「って…彼女の事となると見境が付かなくなりますね。普段は慎重なのに…」
「其れだけ彼女はあの人を信頼しており、愛しているという事でしょう」
「……松本さんと別れたそうです」
「そう…、此れで何人かしらね。あの子が寂しさを紛らすために付き合った女性の数は」
「…隊長も、その1人ですよね?」
「そうね」
「そして、私も」
「……でも、其の間ははとても優しかったでしょう?」
「はい、優しすぎて毎晩何だか涙が出てきました」
「でもはあの優しさを向けたいのは、本当は朽木ルキアさん。彼女1人なのね」
「ええ………」
窓から入ってくる春風が、2人の髪を揺らしていく
尸魂界での騒動が納まった後、朽木ルキアが現世へと誰にも言わずにひっそりと戻って行ってしまってから随分と時間が過ぎていた
大事な幼馴染にも、
大事な親友にも、
誰にも何も言わずに戻っていった
恐らく僅かな時を共にした仲間達と過ごしているであろう事は判っているけれど
恋次も何故かルキアを連れ戻そうともせず、
何も言わずに神妙な顔をしてを見るだけだった
どうして
どうして誰もルキアを問い詰めない?
こうなったら私が行こう、と
私が訊けばルキアは答えてくれる
昔からそうだった
どんなにはぐらかすのが上手でも
どんなに感情を隠すのが上手でも
が訊けばルキアはちゃんと本当の事を話してくれていた
いつだってそうだった
本当は、はルキアが自分の元へ戻ってきてくれると信じていた
だから今まで何も言わなかった
きっと現世で急用でも出来て、仕方なくあの青年と共に過ごしているんだろうと
でももう待てない
幾ら待ってもルキアは帰ってこない
もう限界だよ
ルキア
君が居ない布団は、
寒くて
寒くて
寂しい―――――――――
「ルキア」
「…………」
「ル〜キ〜ア〜」
「…………」
「おら、何不細工な顔してやがんだよ!」
どがっ
「いっ!?」
突如背後から襲ってきた蹴りに、
ルキアは飛び上がって一護の顔を見る
「なっ、痛いではないか!何をする、たわけめが」
「さっきから呼んでんだよ、ったく。こっちに戻ってきてからテメェ変だぞ」
「そんな事はない。私は至って普通だぞ」
「普通の状態の人間が四六時中ぼけーっとしてるか」
「な…貴様……」
「ほら、アイツだろ?冬獅朗の姉だっていう…俺達が向こうで世話になった奴」
一護が眉を顰めたまま、人差し指を回す
そんな彼に、ルキアは同じく眉間に皺を寄せてボソリと呟いた
「………の事を言ってるのか」
「そう、ソイツだ。さんの事を考えて呆けてんだろうが」
「何を言うか、私とアイツは恋次と同じく只の幼馴染だ。呆けるなんて事有り得ない」
「…聞いたぜ、恋次から」
「っ何をだ!?」
「テメェとさんが幼馴染を超えた特別な間柄だとよ」
予想だにしていなかった言葉に、
ルキアは1度目を見開いてからふっと鼻で笑う
そして屋上から見える街並を見下ろしながら、目を細める
「……其れはない、悪いが。は松本さんと付き合っているんだ」
「は?乱菊さんと?嘘だろ!」
「嘘じゃないさ、お前が私を助けに来てくれた後日そう聞いた」
「…………だったら、どうしてさんはお前を助けるために俺達に加勢してくれたんだよ?」
「…判らない。アイツは、昔から何を考えておるか判らない」
「……ルキア…」
苦々しげに奥歯を噛み締めるルキアを背後から見て、
一護はため息を吐く
ずっと
ずっとルキアの笑顔を見ていない気がする
似非笑顔は沢山見てきているけれど
でも、
心から笑っているルキアをずっと見てない気がする
壁に投影される画面を見ながら、
彼は口角を吊り上げて笑った
「 、か。…使えるじゃないか」
「…其れでは、捕らえて参りましょう」
「まぁ、待て。そんなに容易くはいかないだろう、あの女の力量は存分に知っているさ」
「……まさか我々が負けるとでも?」
慕う男の言葉に、不気味な格好の男は眉を顰めて見上げた
が、男は肘杖をついていた腕を解放して指をぱちんと鳴らす
「いや、そんな事全く思っちゃいないさ。だが、もっと面白い展開があるだろう?」
「………?」
「仲間に引き入れろ、そうすればかなりの戦力となる。そして尸魂界全体が混乱して面白い事になるじゃないか」
そう言うと、藍染惣右介は立ち上がり部下達に合図を出した
1人が1人の女を思う余り
世界が壮大な闇に巻き込まれる事になろうとは
誰1人とて思う余地も無かった―――――
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