「此処は何処だろう」



「さぁな」









はそう言いながら首を傾げる

そんな姉を見て日番谷は不機嫌そうな顔でそっぽを向く



一行は現世に降り立ったはいいが、
着くなり早速道に迷って散々歩き回った挙句辿り着いたのは山の上だった


身体は義骸を借りているせいで、
いつものように身体も思うままに動かず

只でさえ疲れる身体なのに歩き回ったせいで皆の顔も疲労で歪みきっている









「そんな怖い顔すんなよ、だからお子ちゃまだって言われんだ。お前は」

「其れは関係ねぇだろ!つぅかお子ちゃまってテメェも大差ねぇだろうが!」

「でも身長はあるし、お前みたいにカリカリしてないし」

「ぐっ…テメェ、殺す!!」






「はい、隊長落ち着いて。も煽らないで、其れこそお子ちゃまのする事よ」

「もうこっちに来てまで喧嘩なんかしないでくださいよ〜」








一触即発だった2人を沈静化させたのは、
弟の部下である乱菊と、幼馴染の恋次


の身体に腕を絡ませて押さえつけ、

日番谷は恋次が出来るだけこれ以上機嫌を損ねてしまわないように押さえている







「とりあえず、山の中に目的地があるとは思えないので町に下りませんか?」





至って冷静で、
至って最もな七緒の意見に日番谷を除く3人はへらっと笑ってみせる


ふと、そんなやり取りを繰り広げていると側にあった茂みがガサッと揺れた



其処から出てきたのは小さな真っ黒な猫だった








「うわ〜可愛い!猫ですよ、猫!隊長」

「見れば判る」

「可愛げないですよねぇ、隊長は此の猫ちゃんに比べて」

「にしても面白いくれぇに真っ黒っスねぇ。飼い猫か?」

「首輪をしていないところ、野良だとは思うんですけど」









乱菊と、
日番谷と、
恋次と、
七緒がそう話して黒猫を囲むのをは1人離れた所から眺めていた


黒猫との目が合い、
ふと黒猫が口角を吊り上げたような気がする


その笑みには苦笑して返す










「ん〜もうっ、可愛い!此の子連れて帰りたぁい!」

「止めとけ、松本。殺すつもりか」

「まぁそう言う事になりますよね、尸魂界に連れて行くとなったら」

「洒落になりませんよ」

「でも何か此の子良い匂いするんですよ?」

「猫は猫臭いだけだろうが」

「でも此の猫、何処かで会った事あるような…」

「ですね、この霊圧は……」






「にゃあ」









微妙な雰囲気になったのを見計らって猫は可愛らしく鳴き声をあげる

その鳴き声に誤魔化されて一行は先程までの疑いなど忘れて、
再びその可愛さにのめり込む


ふとに気付いた乱菊が猫を抱えたまま振り返る







「何でアンタはそんな離れた所から傍観してるのよ」

「…ははっ」

「?」





此方も笑って誤魔化すので、乱菊達は眉間に皺を寄せる








「……久しぶり、夜一」

「そうじゃのう、お主の霊圧を感じて来てみればまさか此方に来ているとはな」








が苦笑いのまま手を振ると、
猫は乱菊の腕の中から降り立ち何と喋るではないか


其れまで只の黒猫を可愛がり通していた乱菊と七緒、恋次、日番谷はぎょっとして猫とを凝視する



はしゃがんでいた体勢を解いて、立ち上がると

黒猫を指して紹介する








「此方、探し回っていた目的の人物。四楓院 夜一サンです」

「うむ、苦しゅうない」

「…はは……」







いつも通り偉そうな夜一の態度に、
はもう苦笑いをするしかなく

義骸の上に着ていた真っ黒なコートを脱いで夜一に被せる





其れと同時にぼむ、という音がして


いつの間にか其処にはかの夜一がコートを纏ったまま立ち上がっていた










「やっぱり変化する時は裸なんだ」

「此の心遣い、有り難いがのう…いつもわざわざこんな事をせんとも良いぞ?」

「私が困る。私が」

「何だ、おぬしも照れておるのか。憂い奴じゃ」

「……」






わしゃわしゃと頭を撫でられると、は照れたようにそっぽを向く
そういう顔は日番谷に似ている

そんな事をふと思わざるを得ない瞬間だった








「其れで、お主等は一体全体どういう任務で来たというのじゃ」

「あぁ…基本的に用事があるのは私で、こいつ等は……」

「子守で参りました」





苦虫を噛み潰したように言動を鈍らせるに次いで、
乱菊が満面の笑みで答える

其の言葉に夜一は盛大に噴き出した


そして笑いながらの背中をバンバンと叩き始める







「痛っ、痛い」

「ははは、貴様は相変わらず大事にされておるの」

「…過保護なんだよ、山本の爺さん」

「まぁ良い事ではないか。とりあえずこんな山中では何じゃから浦原の店へ行くか?」

「…浦原かぁ、会いたくねぇ〜」

「そう言うな、あやつもお主の事を好いておるのだから。妹のようにな」








浦原の名を聞くなり嫌そうな顔をするに、夜一はニヤリと意地悪く笑ってみせる

夜一とは酒飲み仲間で
必然的に浦原とも昔からの腐れ縁だった



そんなを浦原はベタ可愛がりをしていて、

からしてみれば苦手な人物以外他には何者でもない



何を隠そう、
まだ隊長時代に浦原が持てる技術全てを使って最初に作った精密な義骸はがモデルだったのだ


その日のうちに義魂丸入りのは瀞霊廷内で取り合いになり、

オークションまで開かれ


最終的には仕事の権限を使って手に入れたのは山本総隊長だと聞いて
本物の方のは物凄い剣幕でその義骸をぶっ壊しに向かった


それ以来浦原が嫌いになった、というのは此処だけの話である













木は直ぐに消えて、いつの間にか再び街中に戻っていた

コンクリートの家々の中を歩いていく中、段々は見覚えのある道のりに入り込む


ルキアが尸魂界に連れ戻される前に、
はルキアを何とか穏便に連れ戻そうと1度この街には来た事があった

結局其れは敵わずに、恋次と白哉に乱暴に連れ戻されてしまったけれども


ふと大きく開けた道に繋がっている小さな裏道を抜けると、其処には古びたボロボロの店が1つ


大きく看板に"浦原商店"だなんて書かれている

店の前では子どもが2人、遊んでいるのが見えるけれど夜一の姿を確認すると店内へ引っ込んでいく






「店長〜、夜一さん戻って来たぜ!」



そんな声がしたかと思うと、
見間違う筈がない下駄帽子が扇子を揺らしながら現れる






「おやおや、此れは大所帯で。皆さん、ようこそお越しくださいました」

「ああ、とりあえず部屋を1つ貸せ」

「ええもちろんスよ……おや、其処に居るのは…」






夜一にへらへらと笑いながら頷いた後、
恋次の後ろに出来るだけ隠れようと努めている白い髪の持ち主を見つけてその笑顔は怪しく変化する







サンじゃないっスかぁ〜〜っ!!!」

「げぇっ、抱きつくな!!」

「相変わらずツレないっスね、でもそんな貴方が大好きっスよ」

「気色悪い!恋次も見てないで助けろよ!!」





抱きついてくる浦原を蹴り飛ばしながら、
目の前で呆然としている恋次に渇を飛ばす








「もう会えない日々幾度貴方の事を思って枕を涙で濡らしたか…っ」


「気色悪いっつぅのが判んねぇかこの野郎!!!!!」







其れでもめげずに抱きついてくる浦原の身体をコンクリートの壁に蹴りつける

見事にコンクリートはへこみ、浦原を快く迎え入れてくれた
心なしか煙が上がっている変態は放っておいて、はため息を吐くと恋次達に店の中へ入るように促す


の後ろについて来ながら夜一がかかかっと笑い声をあげた









座敷に座ると物凄い筋肉ダルマのおっさんがお茶を出してくれて、格子の向こうに引っ込む


皆それぞれを座り方をして、お茶を飲み一息吐いた






「七緒さん、もう少し肩の力抜いたら?」

「此れが普通なのよ」

「ふぅん」




隣に座る七緒に、正座を崩して座ったらどうかと訊ねてみるが
七緒はご丁寧にお茶も両手で抱えて行儀良く飲む


同じ女性である乱菊なんか胸を開けっ広げて堂々としているのに



にしてもこいつ等の現世の服姿、新鮮だなと思ってみたり



ラフなTシャツを着込んでいる恋次に、

青いパーカーを着ている日番谷に、

セクシーなお姉系の乱菊に、

スーツみたいなビシッとしている七緒





現世へ赴く時に技術開発局で現世用の服を調達してきたけれど


さすがそれぞれの好みとキャラを理解して作り分けている
きっとあそこには尸魂界中の人間のデータが集っているんだろうな










「それで、。お主は何の用なのじゃ?」

「……えぇと」

「うむ」

「…だから……えっと…」

「何じゃ、ハッキリしない奴じゃのう」

「ごめん、つまり……」

「…朽木ルキアの事か?」

「っ!?」










うんうんと唸っているにもどかしさを覚えた夜一は、
ずばりと直球を投げかけてくる


そんな親友にはバッと顔を上げて、目を泳がせる












「っルキ…アの事、何か……知ってるの?」

「そりゃな、此の街に居たら嫌でも奴等とは関わるし」

「…ルキアは、…黒崎の所に居る…の、か?」

「ああ、家族にも受け入れられて堂々と出入りしておるな」

「………付き合ってるのか、な。ルキアと黒崎は…」

「………」

「そっか、そりゃそうだよね」

「…さぁな、自分で訊きに行け。其れが筋ってものだ」









夜一の冷たい言葉に、は俯いて何も言わなくなる


そんな彼女を見守る幼馴染と、弟と、元恋人達は声を押し殺して顔を歪めた




最も大事な人物が、

違う人間の事を考えて苦悩している様を見るのはとても辛いこと此の上ない―――――


































夜も更けた頃、誰も居ない静まり返った廊下をひたひたと足音だけが響く



は白い袴に寝巻きにあてているせいで、

ガラス格子から差し込んでいる月明かりがの顔を青白く浮かび上がらせている




月明かりのせいだけでは無いだろう、
その顔は何処か血の気を帯びておらずに

只、ふらふらと思う所も無く歩いているだけなのだろう





ふと顔を上げると満月が此方を見て妖しく笑みを浮かべていた

其れこそ只の形容だが、



今のには眩しく突き刺さる脅威以外何物でも無い

















「ルキアには、月が良く似合う女だった」


「じゃあ貴方は太陽って言ったところかしら?」











誰に言う訳でもなく呟いた言葉に返ってきた事に驚いて背後を振り返る


其処には夜になると妙に色っぽくなる女性が腕組みして立っていた

正確には夜も昼も、だけど










「乱菊……ううん、私は真っ赤な月が似合うと思うんだな」

「真っ赤な月?」

「うん、災いが起こる前触れって例えられているけれどね」

「…、私貴方の事を愛しているわよ」

「……」

「ギンが居なくなって、落ち込んでいるけれど明るく振舞う私に気付いてくれたのは貴方だけだもの」

「…たまたまだって」

「其れでも、私は嬉しかったわよ。嗚呼、私を見抜いてくれる人間が此処に居たのねって」












嬉しそうに頬を緩める乱菊の顔を直視出来ず、
は月を見上げたまま袴の袖に手を通して腕を組む



背後からの腕に、身体を包み込まれる










「乱菊…?」

「ねぇ、もう止めたら?朽木の事は、諦めなさいよ」

「……乱菊には…」

「関係無いって?そんな事無いわよ、私はアンタが苦しむのを見たくない。其れは理由にならない訳?」

「………」

「…私にしておきなさいよ」













其の声に縋りつきたいと思ってしまう
心細いからこそ



自分に掛けられる優しい言葉には甘えたくなってしまう


けれども

今は






今は駄目なんだ











堪えなきゃ


もしかしたらルキアは黒崎と付き合ってなんかいないかもしれない













明日は勝負場なんだ





私とルキアとの


私とルキアの未来との……





















「ごめん、乱菊」

























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