朝日が差し込む部屋の中で、
は静かに目を開けて身体を起こす
そして現世の着物に袖を通してから鏡を一瞥する
銀髪というよりも白髪に近い自分の頭と、
白い顔がまるで溶け合うかのように白く白く映えていた
にこり、と笑ってみる
けれど顔の筋肉は思うように動かずにいつもの無表情な顔が其処にあるだけ
自分の頬を叩いて、気合を入れると時計を見やる
丁度8時を指す所で、
今この時間ならまだ登校しようとしている所だろう
ルキアに会ったら何て言おう?
"久しぶり"?
"元気そうだね"?
否、素直に言葉を告げよう
"会いたかったよ"と
まだ寝ているであろう皆を起こさぬように慎重に廊下を抜けて、
店を出ると
其処には弟が立ってこっちを見ていた
「…おはよう、冬獅朗」
「……ああ」
「何してんの?そんな所で」
「別に。お前こそ1人で行くつもりか?」
その強い眼差しを揺るがせる事なくジッとこちらを見つめている日番谷に、
は苦笑をして弟の背中を叩く
「此ればかりは皆を引き連れて行けないよ、私の問題だ」
「…そうか」
「ルキア……と会うのは正直言って凄く怖いけれど、でもやってみなきゃ何も判らないからさ」
「そうだな、…」
「お姉さまとお呼びなさい、弟よ」
「断る、お前さ…何か雲行きが怪しいから早く帰れよ」
その言葉に、は空を見上げる
確かに昨日のカラッとした天気は姿も無く、雲がどんよりと渦巻いている
「うん」
其れだけ返すと、商店街への道を歩いていく
背中に感じる弟の視線が突き刺さる錯覚を受けながらも
真っ直ぐに前を向いて足を動かす
しばらく歩いた所で見覚えのある制服を纏った少年少女達が同じ方向に向かっていくのが見えた
少年少女達は真っ白な髪のをギョッとしたように見てから、
まるで見てはいけないものを見たかのような顔をして再び登校していく
子ども達の新鮮な反応には苦笑いをして、
商店街に置かれている石壇の上に座る
登校していく人々の姿を見ながらは浦原に貰った煙草に火をつけて肘杖を着く
煙が立ち上っていく中、あの声が耳に入る
「朝っぱらから白玉食える訳ねぇだろ!!」
「たわけ!あれは健康に良いのだぞ、眠気覚ましには丁度良いだろう!」
「余計眠くなるわ、ボケ!大体何で親父も遊子もテメェを飯の係にしたのか理解できねぇよ」
「何を!?」
「てめぇなんざ、白玉しか作れねぇだろ!しかも湯で解凍するだけのヤツ」
「失礼な!其れぐらい作れるぞ、"かたくりこ"とかいう粉を水に溶かして丸めるだけであろう!?」
「おお、知ってたのか。そりゃ吃驚だ」
の目には、ずっと想っていた人物以外の姿も侵入してきた
何も言わずに、身動きひとつさえせずにジッと此方に向かってやって来る2人を見つめる
2人が自分の居る石壇の前を通ろうとした時、はやっとのろのろと口を開ける
「ルキ……」
けれど其れは言葉を成さずに宙に消えた
2人は口論をしながらも、何処か楽しそうに
そう、の事など気付かずにその場を通り過ぎたのだ
段々遠くなっていく背中を見ながら、は1度開けられた口を閉じる事が出来ず
只呆けてその場に立ち尽くしてしまう
ルキアの背中が見えなくなった頃、の指に挟まれていた煙草が地面に落ちる
其れでも尚煙を立ち上らせ続ける其の火は
少しずつ
少しずつ灰と化して
ふと降り出した雨粒があたり、消えてしまった
まるでの心を代弁するかのように
火の消えた吸殻はぽつんと取り残されて
只の吸殻の仲間入りをしてしまう
「…ルキア……なん、で…?」
雨が段々強くなっていく
登校途中だった生徒達も駆け出して行ってしまい、
その姿も全て消えてしまい
朝の大雨の商店街の中に人気はまるっきり無くなってしまう
「全く、酷いと思わへん?黒崎一護は何もかもお前から奪っていってしまうんやから」
懐かしいようで、懐かしくなんかない猫撫で声にはゆっくりと振り返る
雨の中で奴はにんまりと笑みを浮かべながら自分の事を見ていた
「……此れは随分と珍しい顔だな、ギン」
「お久しゅう、ちゃん」
「貴様、よく私の前に顔出せたもんじゃないか。覚悟はあるのか?」
「まさか、ちゃんと争う程僕も馬鹿やない。今日は話があったんよ」
「話?私は裏切り者の貴様と話す事など無いが」
「まぁそう言わずに聞いたってや。ちゃん、黒崎一護が憎いやろ?」
ギンが薄い目を僅かに開いて、を見据える
その言葉と眼差しに、は言葉を詰まらせた
「っ……」
「そうやろ?なら我慢する事あらへん、黒崎一護を殺したってや」
「なんだと?」
「其れでルキアちゃんは君の元へ帰る、黒崎一護の脅威が無くなって僕らは安泰。互いの利益は一致しとんで」
「ほう、私を利用しようってか」
「とんでもない、藍染隊長はどう思ってっか知らないけど僕は君の事を救いたいんや」
「救う?とんだ詭弁だな」
「そう受け取ってもかまへん。でもな、ルキアちゃんは黒崎一護が生きとる限り離れへんで?いいんか?」
「……………」
は市丸から目を外して、地面を見つめる
雨のせいで色を変えたコンクリートの床
先程まで吸っていた煙草の吸殻
自分の髪から滴り落ち、地面に吸い込まれていく雨粒
しばらくそうしてから、は顔を上げた
その瞳は
輝いてなどおらず
力など秘めておらず
只の空虚を映していた
『何か雲行きが怪しいから早く帰れよ』
弟の言葉が頭の中を過ぎる
もしかしてこういう事があるんじゃないかと不安に思っての珍しい言葉だったのだろうか
ごめん、冬獅朗
雨が降り出したけれど
お前達の元へ帰れそうにもないや―――――
「利用されてやるよ、ギン」
「さすがちゃん、話が判るお方やと思うてたで。君が断っても僕は無理矢理連れて来るように言われてたから困っとったんよ」
「相変わらずお喋りな男だ」
「おおきに」
「惣右介は何処に居るんだ?」
「ほな、此方へ」
商店街に突如大きな穴が現れ、
以前に虚や大虚が現れる空間の歪みに酷似していて
は薄い笑みを浮かべる
私も虚の仲間入りか、と
「いっちごぉおおお〜〜〜〜〜〜!!!!!」
相変わらずテンションの高い友人に飛びかかられた一護が、蹴りで迎え入れるのを見ていたルキアは息を呑む
誰かに呼ばれたような、そんな気がする
けれども周りに自分の事を"ルキア"だなんて呼ぶ人間なんて一護以外には居ない
首を傾げて、気のせいだったのだと思う事にする
"バイバイ、ルキア"
「っ…!?………?」
再び聞こえた声を聞き間違う筈もなかろう
ルキアはその声の主を呼び、辺りを見回す
けれどもやっぱり其の姿は無く
一護に呼ばれてルキアは納得いかなさげな面のまま教室へと入る
next...