隊長、あたしは
本気で隊長の姉を愛していたんですよ?
知っています?
ギンの残して行った傷痕を、
何も言わずに
縫おうともせずに
只側に居るだけで
其処から留め止めも無く溢れてくる血の流れを塞き止めてくれただけだけれど
今のあたしには其れで充分だったんです
上辺だけの慰めの言葉なら聞き飽きた
上辺だけの気休めの言葉も聞き飽きた
けれど
は決して嘘は吐かなかった
ギンは、戻ってきてくれるかなと呟くあたしに
は小さくせせら笑ってあたしを見据えた
『そんなに簡単に戻ってこれる意志ならばアイツは最初から行かないだろう』
其の言葉に血も涙も無い奴だと思った人は沢山居るかもしれない
けれど
あたしは其の言葉で立ち直れた
本当に愛していた―――
なのに、どうしてアンタは
其の、ギンに付いて行っちゃうのよ………!!
「あたしは恋愛運が無いんでしょうかね?」
「……そんな事俺に聞かれても困る」
「酷いですね、小心者の女性にはそういう時は嘘でも『そんな事ない』って言うものですよ」
「じゃあはっきり言ってやろう」
「はい?」
「お前は人を見る目が無い」
「…ぷっ、ふふふふ。確かにそうかもしれませんね」
いつもの調子で言う日番谷に、
乱菊は噴き出してしまう
そして豊かな胸の前で腕を組むと仰け反って姿勢を正す
「でも、今度は見る目が無いだなんて言わせませんよ?」
「…ああ、言わねぇよ」
「有難う御座います、隊長」
其れは遠まわしに、
を信じ抜くという言葉
その台詞に日番谷は嬉しそうに笑って大事な部下を見やる
乱菊も、小さくだけれど微笑む
開戦前のひとときの安らぎの事―――――――
テメェ等はどう見ても昔から両想いだった
けれど俺は、悔しかったから其れを本人達には伝えなかった
むしろ俺が伝えていい事ではないと重々承知の上だ
それくらいアイツ等は心の深い所で繋がっていたから
俺なんかが入り込める場所じゃなかったんだ
「テメェもルキアに会ってからいろんな事に巻き込まれるな」
「…テメェもな、恋次」
「なぁ、黒崎。テメェは最後まで付き合ってくれるか?この茶番に」
「付き合うも何も、もう中心だろ俺は。こうなったらとことんやってやるぜ」
「そうか、ありがとな」
口角を吊り上げて不敵な笑みを向ける一護に、
恋次も不敵な笑みを向け返す
「何だ、テメェが礼だなんて気持ち悪ぃな」
「……うるせぇな。なぁ…1つだけ頼みがある」
そして、減らず口を叩く一護に、
額に額当てを当てがいながら恋次は呟く
「あん?」
「アイツは、…にどんなに殺されかけても絶対に止めは刺さないで欲しい」
「…おう」
「……悪ィな」
開戦前のひとときの安らぎの事―――――――
「随分と落ち込んでいるね、七緒ちゃん」
「…京楽隊長……私は…」
「気にするんじゃない、君のせいじゃないよ」
「でも」
いつものキリッとした表情など欠片も無く、
静かな負のオーラを放っている七緒に京楽は傘を脱ぐ
そして優しく微笑む
「あの子は昔から情緒不安定な子だった、其れは僕等が良く知っている」
「………」
「今、彼女は道を見失っている。其処にタイミング良く手を差し伸べてきた市丸君に付いて行ってしまったのだろう」
「見失って、る…と」
「うん。だから皆がの手を引き戻そうと必死だ」
「…はい」
「もちろん、僕もね。だから落ち込まなくていい、七緒ちゃんはに会ったらいつも通り厳しい言葉を投げかけてあげなさい」
「……はい、判りました。京楽隊長」
上司の励ましに、七緒は微笑んで頷く
引き止める事が出来なかったのなら
せめて
其の手を引き戻そう
貴方の意識をこっちに振り向かせよう
其れが、唯一出来る事かもしれないから
気持ちをこっちに向かせる事なんか出来ないのは判っている
現世に向かってからますます判った
朽木ルキアさんとの絆の深さを
お互い言葉にして気持ちを伝え合ったりなんかしなくてもいい程
彼女達はそのもっと深い処で繋がっている
其処に私や松本副隊長、他の女隊員達が入れる隙間なんて無かった
初めから
何処にも
何処にも無かった――
ならば応援しましょう
彼女達の伝え合う事の出来ない気持ちが繋がるように
開戦前のひとときの安らぎの事―――――――
昔から奴は何を考えているのか判らない存在だった
最も、人の事など言えないだろうがな
けれども私以上に奴は何を考えているか判らない
明るく振舞うかと思えば突然静かになって冷ややかな態度をとる
あやつが…がルキアと幼馴染だったというのは驚きだった
なるほど
それならば奴が緋真と仲が良かったのも頷ける
きっとルキアの事をいろいろと話して聞かせていたのだろう
奴が帰った後の緋真はすこぶる体調が良くて、ずっとにこにこと嬉しそうにしていたものだ
私には見せないような笑顔だったから、時々微妙な心持ちになったりもしたが
今となっては良い思い出だ
私と緋真は奴に救われた
けれど私はもう、貴様を救う事などは出来ない
其れは承知の上だろう?
私は確かに言った筈だぞ
この先貴様が例え濡れ衣であろうと囚われたりしても、
私はもう規則を破る事などしないと伝えた筈だ
そして貴様は頷いただろう
だから、私は貴様を捕らえに向かう
でも、1つだけ心得ておけ
私が其れをすると、悲しむ人間が沢山いる
そして私が命を賭けてでも守ると誓ったルキアが、1番悲しむのだ
其れを決して忘れるな、よ
開戦前のひとときの安らぎの事―――――――
「夜一様、其れではどうなさるのですか?」
「お主等と共に行動する、そしてお主等に加勢するとしよう」
「それはっ、心強い限りです」
「お主も複雑な心境だろう?砕蜂」
一旦尸魂界に戻ってきた夜一は、
砕蜂の隊舎でかつての部下とお茶をしていた
相変わらず固い部下に苦笑しながらも、緑茶で喉を潤わす
夜一の言葉に砕蜂は苦虫を噛み潰したような顔で俯いてしまう
「けれど、の選択は間違っていると思います」
「…実はの、わしのせいなのじゃ。に過酷な試練を与えてしまい、奴は其れに打ち負けてしまったのだ」
「え……」
「わしのせいじゃ、わしが素直にルキアに会わせてやったら良かったのじゃな」
「…夜一様、多分其れは…貴方のせいじゃないと思います。の弱さがいけなかったんですよ」
「む?」
「は、私や更木隊長と競い合って力をつけてきた実力の持ち主なのに心は誰よりも何よりも脆い」
「そうじゃな」
「私と更木隊長は何度も彼女の其処を指摘してきました。その弱さゆえが敗因の要素となる、と」
「…ああ」
「でも私は、本当は其処がの良い処でもあると思っていました。其の優しさがの取り得なのだと」
「砕蜂」
「だから、が悪に対して心の弱い処につけ込まれてしまったのは私達が彼女のそんな部分を見逃してきたせいです」
悔しそうに呟く砕蜂の頭に手を置いて、
夜一は静かに微笑む
「ならばもう、2度とそんな事が起きぬようにしてやろう」
「……はい」
「全く、あやつは昔から手の焼ける奴じゃ」
「…はい」
涙をボロボロと溢す砕蜂に、
夜一は口を開けて豪快に笑う
開戦前のひとときの安らぎの事―――――――
「剣ちゃん、ちゃん殺されちゃうの?」
「…さぁな」
「嫌だよ、剣ちゃん。ちゃん死んじゃったら…」
「……死なせやしねぇよ」
「ホント!?」
「まだあの野郎とは決着付いてねぇんだ、俺が勝つまで死なせるもんか」
「やったぁ!」
無邪気に喜ぶやちると眺めながら、
剣八は己の巨体を構えて口角を吊り上げる
そして鋭い目を窓の外に向けて青空を見上げた
「なぁ、テメェだけ勝手に勝ち逃げだなんて許されると思うんじゃねぇぜ。」
開戦前のひとときの安らぎの事―――――――
自分の首筋に紅く映える傷痕
そっと指を這わせればまだ生々しい痛みが神経を刺激する
指先を見ると其処には真っ赤な血がこびり付いていた
「……まだ私にも赤い血が流れていたんだな」
可笑しさに腹の其処から笑いが込み上げてくる
段々自分がおかしくなっていくのは判っている
前のように笑えなくなった
顔に浮かぶ笑顔は、せせら笑うような
まるで自分が地に堕ちていくのを見下して眺めているだけのような
黒い笑みしか出なくなった
ルキア
君に付けられた傷が心を刺激するんだ
目を覚ませ
お前は何を莫迦な事をしているんだ
と、ドクンドクンと刺激をしている
ルキア
久しぶりに触れる君の身体はとても温かった
否、きっと私の身体自体がとても冷たくなってしまったんだろう
其の身体をずっと抱き締めていたい衝動に駆られた
でも、私は突き放した
ルキアをこっちの世界に引き込まないように
否、多分其れも違うな
暗黒に染まった私を見られたくなかったんだ
何と自分勝手な奴だと思うだろうか
けれども
許してくれ
私は、本能のままに生きる
そういう人間だった
だから
此れから先も……――――――
next...