「ごめん、湊…」




「え?何がよ」



「大事な客駄目にしちゃって」



先程、店全体から睨まれたあの男達は悪態をついて逃げるように帰って行った
しばらくそれを呆然と見つめていた後、
我に返った私は頭を下げる




「だから、そんな心配は貴方がしなくてもいいのよ」









そう言って私が座っていたテーブルに戻っていった
黙って蓉子の隣に座ると、本当にもう大丈夫?と心配気に訪ねてきてくれた


「うん、大丈夫だよ、ありがとう」



弱々しく、微笑んだ時視線を感じる




ヘルプ椅子で足を組んでこちらを見ている彼女に、
何?と視線を投げかけた




「いえ、本当に貴方に必要だったのはこの人達だったのねって思って」


「なっ、何言って…」



「私ならああなった貴方を止める事は出来ない」







……ああなった



それは発作を起こしたり、

情緒不安定になったりした時の事を指していると判った





「貴方がこんなに自然に笑えるようにする事も出来なかった」








「湊が居てくれたから今の私が居るんだよ」



真っ直ぐ、湊の目を見て


そしてずっと言いたかった事を告げた




やっと



やっと…




言えた











「ありがとう、湊、君が居てくれて良かった」

































「え〜と…ここ?」

「ここでしょう、って書いてあるんだから」

「そうだね、チャイム鳴らして」


6人はのマンションまで来ていた

6人というよりも5人




1人は聖の背中で眠りこけていたから…




ピン…ポーン…



ピンポーン……




幾度鳴らしても返事のない部屋に、
一向は不審に思った


「江利子、ちょっと待って」


蓉子がそう言うと、
のポケットを探り始める


「あったわ、鍵」





「誰も居ないのかな」

鍵を受け取って中に入るなり聖がそう呟いた

けれど玄関にも靴はのものらしき質素な物ばかりで、



部屋の中も他には人が暮らしている形跡は見当たらなかった





ふと、棚の上を見ると大きなコルクボードが掛けられており、
そこにはたくさんの写真が貼り付けてあった




家族の写真

清子と祥子との母親がこちらに向かって微笑んでいる写真

令と由乃の2人が昼寝をしている写真




どの面影も懐かしいものばかりで、
それは確かに祥子と令が知っているだった…



「1人暮らし…だね、この様子じゃ」

聖はベッドに寝かせながらそう蓉子達に言う
蓉子はそっと頷いて立ち尽くしている令と祥子の後ろから写真を眺めた
鞄をソファの上に置いて、江利子はドレスを脱ぎ始める



「ちょっ、こんな所で脱がないでよ!」


「いいじゃない」


祥子の家から持ってきていた、自分の服の入った紙袋を漁りながら、
江利子は背中についているチャックを引き下ろした


慌てて聖がそれを制すると少し迷惑そうに江利子はそう凄む





「どうせ皆泊まるんでしょ?」



賛同を求めて部屋を見回す限り、全員が頷いた

なら、とそのまま着替え始める江利子にため息をついて蓉子達は至極出来るだけ目をやらないように努力する



「じゃ、シャワー浴びてくるわ」


ちゃんの了解も無しに!?」





「了解も何もあの状態じゃ仕方ないじゃない、早くサッパリしたいのよ」

ベッドの上で丸まって寝ているを指して江利子は聖に再び言う




「判ったわよ、行ってらっしゃい」


「さっすが蓉子話がわかるぅ、行ってきま〜す」





パチンと指を鳴らして、江利子は…

浴室へは向かわずベッドへ近づいた



ちゃん、起きて」


「「ちょっと!江利子何やってるの!?」」



ほら、との手を持ち上げて見せる

そこには先程の男の血がこびり付いていた


「「………っ!」」


「起きて早々こんなの見たら溜まったもんじゃないでしょう」



寝ぼけ眼のの肩を抱えて江利子は黙って浴室へ向かう



それを苦々しげに、先程の出来事を思い出していたのか、
聖と蓉子はただ見ているしかできなかった




「お姉さま、聖さま…見てください」


それまで何も言わずに写真を1枚1枚手に取って眺めているだけだった祥子が2人に呼びかける



その手に握られているものは、楽しそうに戯れている薔薇の館のメンバーの写真だった


「この写真達の奥に隠れるようにひっそりとありました」

いつの間に撮ったんだろうか、
けれどそれは皆から離れている場所から撮られているもの


写真達の人物達は誰も楽しそうな、幸せそうな顔だというのに




切ない雰囲気を醸し出していて見る者を惹き付ける魅力があった




「知らなかったなぁ、写真を撮るのが好きだなんて」




自分が稽古をしている写真を手に取りながら令が呟く



「ここに居てもおかしくないよね、ちゃんは」



「……ええ」






浴室から聞こえる笑い声と、
その部屋に佇む静けさは


比例していた…






















next...