やけに肌寒く感じる
もう夏は終わったというのに
私は、知っている
この肌寒さを感じさせる風の正体を
これは、奴の涙なのだ
涙を流している奴を見た事がない
けれど、
奴はその代わりに悲しみを風に乗せる
其れはひゅうひゅうと音を立てて私達に知らせる
助けてくれ、と――――――――
「どうした?ルキア」
夜のビルを見下ろしていた恋次は、
隣に立つルキアがふと真っ暗な空を見上げたのに気付き声をかけた
ルキアは目を閉じて、すうっと息を吸う
「…奴が泣いている」
「あぁ……」
「不器用な奴だ」
「全くだ…お前に似てな」
「…………そうだな」
風に靡く赤い髪をした幼馴染に、
もう1人の幼馴染の話をすると
彼は静かに声だけで肯定してきた
減らず口を叩く彼にルキアは口角を吊り上げて静かに微笑む
「さて、恋次。本題だが、もう奴等の霊圧は感じておるだろう?」
「勿論だ、しかもかなり近くに居る」
「尸魂界からの命令通り私達は虚共の相手という事を忘れるなよ」
「誰に言っている。の相手は長年の付き合いである俺達には難しいと判断した隊長に従うしかねぇ」
「そして此れは私だけに知らされた事なのだが」
「んあ?」
「兄様がの撃退に向かうそうだ」
「何!?隊長が!?でも隊長だってと長年の付き合いなんじゃ…」
「あの方が何を考えておるかは私にはわからん。だが、考えがあってのことだろう」
いきり立つ恋次を視線で宥めながら、
腰に掛けてある斬魄刀を引き抜く
そして夜景に自らの刀を翳し
其の美しい刃に町のネオンを反射させて光らす
「は、私が討つ。だから…」
「……あぁ、判った。虚共は俺に任せておけ」
「…すまぬな、恋次」
その力強い発言に、
意図を読み取った恋次は頭を乱暴に掻き乱しながら呟く
そんな彼にルキアは微笑み、しゅたっとその場から消える
「大馬鹿野朗だよ、テメェらは」
恋次の呟きは夜空に掻き消され、
耳を澄ましていたのは方々で輝く星達だけだった
すると次第に空に雨雲があっという間に立ちこめ
星達は姿を隠してしまう
ぽつぽつと降り始める雨が頬を濡らす
「そして、俺もな」
コンクリートを灰色に染めていく景色の中で恋次は、
蛇尾丸を抜き取ると其れを手にしたまま夜の街に繰り出す
目指すは彼方からやって来るのが見える虚を退治するために――――――
「どういう…事よ、アンタ……」
「さて、どういう事やろ。僕が聞きたいくらいなんやけどな」
「アンタでしょ、をそっちに引き入れたのは!」
「そらないで、僕は命令されただけや。それにちゃんは自分の意志でこっちに来たんよ」
「今度という今度は許さないわよ、ギン」
「だから君の処へは行きとうなかったんや、乱菊」
一体何を考えているのか
の霊圧を辿って駆けつけていた処、
目の前にふわりと舞うようにこの男は現れた
いつもの意地悪い笑みを浮かべたまま私の前に立ち塞がる彼を、
嫌悪の眼差しで睨みつけると彼は困ったように笑う
「かなり嫌われてしもてんなぁ、僕。少なからずとも傷つくわ」
「自業自得じゃない、アンタ…とは仲良かったのは私も認めるけど尚更大事な友人を悪の道に連れ込むなんて見損なったわよ」
「…乱菊、良い事ひとつ教えたろか」
「何よ」
細い目を少しだけ開いて、ギンは乱菊の顔を見下ろす
其れに対して只ならぬ何かを感じたのか、
乱菊は灰猫に手を掛け何時でも引き抜けるように体勢を整える
隊長は尸魂界から現世の町の徘徊という役目を言いつかされていた
そして少しでも不審なことがあれば護廷十三隊に知らせるという、
普通ならば幹部でもない隊員達の役をおおせ付かされたのはやはり事件の中心人物であるの姉弟だからだろうか
任務に就く前にかなり不機嫌な顔だったのを思い出す
「ちゃんは、乱菊の所に僕を行かせるために僕等の処へ来たんや」
「……な、何言ってるのよ。そんな事で誤魔化されると思わないで」
「嘘やあらへん、誤魔化すつもりもさらさらない。まぁ、黒崎一護が憎いという気持ちに偽りはないんやろうけどな。けど、このままじゃちゃんがあまりにも可哀想で」
「が…?」
「そや、愛しのルキアちゃんにすら信じて貰えへん。なんと孤独で可哀想な存在か」
「っ…」
「乱菊、君は1度だってちゃんを信じとおした事があるか?」
「……」
「無いやろ?皆言うとる、ちゃんは人の心を乱してふらふら逃げていくと」
「何が言いたいの」
「逆や、君らが寂しいから、優しいちゃんを求めて都合良く心を暖めてもろて要らなくなったら切り捨ててたんや」
「っアンタに何が判るってんのよ!!」
ギンは其処まで言うと、
ひらりと身を翻して乱菊に背を向ける
「今回の事に、僕は首を突っ込む気はあらへん。たとえ其れで藍染隊長に罰を受けようとも」
「ギン」
「だから、乱菊。君の手でもう1度取り返してみぃ、ちゃんの心を」
去り際に、ギンの口角が
いつもの意地悪い上がり方ではなく
心底柔らかい上がり方をした気がした
そしてギンは空間に開いた穴から消えた―――――――
ぴしぴしっ
水輪丸の具現である水龍が大気を震わせて訴えかけてくる
かつての相棒が近づいてくると
水龍はそれに対して喜んでいるみたいだった
けれど私は喜ぶ事が出来ない
水龍に前へ進む速度を早くするように指示を出す
(…………)
「なぁ、水輪丸。ちなみに其の相棒ってどっちの方だ?」
(…漆黒の少女)
「そうか、ルキアか…」
(いいのか?)
「ああ、今は黒崎一護が先だ」
(……)
「すまない」
(…否)
君は、きっと声が枯れても叫び続ける
助けて
私を見て
誰か、抱き締めて…と
next...