雨は、嫌いだ




雨は心を冷たく冷やす









けれど此の雨を降らせているのは紛れも無く此の私だ――――――















































「さすが、英雄って所か。格好良いじゃないか、黒崎一護」






しばらく町の上を翔けていたら、
ようやくあの霊圧を近くに感じた

奴は死覇装を風に靡かせながら学校の屋上に1人突っ立っていた


護衛や仲間らしきものは見当たらない

私如き1人でも充分だとでもいうのか



何処までも舐め腐った野郎だ








さん…」

「憎いぜ、その決まり具合さえ」

「……アンタは何も判っちゃいねぇ」

「何がだ」






水輪丸に乗って奴を見下ろす私を、
奴は見上げながら眉を顰め

吐息を漏らす










「ルキアの英雄は今も昔も、アンタ1人だろ」

「……生意気言うんじゃねぇぞ、死神風情が。貴様に何が判る」

「判るさ、ルキアを1番近い場所で見てきたのは俺だ」

「…あまり調子に乗らない事だな、私は今すぐに貴様の息の根を止める事など容易い」

「否……只知っておいて欲しかっただけだ、ルキアの心の底を」

「口が過ぎたようだな、黒崎。行くぞ、水輪丸!!」








其の掛け声と共に水龍は黒崎一護目掛けて急降下していく


黒崎の真っ直ぐな目が見返してきた瞬間
全ての時間が止まったかのように思えた


足元からぴしぴしと感じる小さな音


其れは冷気となって私を骨の中まで襲ってくる











「っ…」








ぱぁんっと何かが弾けた音がして、
同時に頬が切れ血が垂れる

ふと足元を見ると其処は水龍と共に氷付けになっており動けなくなっていた







「ルキアっ!?」

「………」






自分の直ぐ下で黒崎一護がそう叫ぶ


私は最初から何が起こったのか理解していたせいか特に驚く事も無く、
ゆっくりと後ろを振り返る

夜の雨が降り続ける街灯の下にぼんやりと薄暗い人影が見えて



私は自然と口角が釣り上がるのを感じた









「…また、君か。とことん邪魔する気かい?」

「貴様が一護を狙う限り何処までも追いかけるぞ」

「なるほど、愛…って処だね。微笑ましいよ」

「……嗚呼」

「……………悪いがこんな攻撃物ともしないんでね、コイツが本気を出せばどうって事ない」






私を見据えて綺麗な顔で言うルキアの言葉には、


私へ何かを伝えようとしているように見えた

けれども私は其れを聞くのが怖くて会話を変える




そしてその言葉に偽りが無いのだと示すために斬魄刀を水龍に突き刺す
すると其れを合図に凍り付いて動きが止まっていた水輪丸が音を立てて動き出す

天へと昇るように面を上げて滑らかに飛んでいく




そして空中で水龍は止まり、ルキアと一護を見下ろすように静かに佇む

その上で私は街中を見回し喉の奥で小さく笑う
先程から感じていた霊圧はルキアだけのものじゃない

見慣れた顔達が此方へ向かって来ているのが見えたのだ






もう余り時間は残されていない

だから




私は自分を潤んだ目つきで見上げてくるルキアに微笑む















「ルキア、最期に…言っておきたい事がある」

「……っ…」

「愛してるよ、誰よりも何よりも君を」

「……」

「もちろん、だからどうこうって訳じゃない。君はもう決めたんだろ?」

「…嗚呼」

「私も決めた、から。只其れだけは伝えておきたくて」



「ん?」

「私も、貴様を愛しているぞ」

「……有難う」








綺麗な顔の少女にそう言われて、
私は顔が最高に嬉しさで歪むのが自分でも判った

その私を切なそうに見上げてくるルキアの顔をもう見たくなくて



斬魄刀を天に突き上げる













「水面に伏せ、水輪丸!!!」













「千本桜景厳」

「唸れ、灰猫」

「雀蜂」

「うぉおおおおっっ」

「啼け、紅姫」

「瞬閧」

「大紅蓮氷輪丸」












「…っ………!?」

!!!!!!!!!!」












意識が遠くなる中で黒崎一護が息を呑む音と、
ルキアが私の名前を呼ぶ声が聞こえた


けれどもう今の私には其れに応える事は出来ない




四方八方からやってきた大好きな人達からの攻撃に、
私の身体は一気に悲鳴をあげた

噴き出す大量の血






視界がぼやける中、水輪丸と目が合う













『つまり、貴様は死ぬというのか?』

『ああ、自分じゃどうにも出来ない。だから…皆に殺してもらう』

『……主を失う私はどうなると思うのだ』

『…すまない』

『……本気か?』

『……本当は、ルキアに殺されたいんだ…でもあいつは優しすぎるから、だから無理だ』

『……』

『すまない、こんな私に今までついて来てくれて有難う。水輪丸』

『……』




『すまない』











唇が僅かに動き、
其れは水龍に伝わったのだろうか

静かにに向けて面を下げると消えるように雨の中に混じっていった









そして空から、雨が止む















黒い雲達が少しずつ流れていき、
その狭間から太陽が姿を現す

その一筋の光が

まるでに救いの手を伸べるかのように



地面に落ちていく死神を照らした





















「…有難う………」






















誰に言うでもなく


はそう呟いてコンクリートに堕ちた――――――――――
























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