そして一月が過ぎた
私達は裏切り者として を処刑し、
駆け寄った時は虫の息だった彼女はそのまま尸魂界に搬送された
罪人が入れられる病室へ入れられた瞬間、
の身体を何かが覆った
其れは水の塊だった
兄様が言うには、の斬魄刀である水輪丸
水龍が主を守ろうとしているのだろう、と
私も共に戦ってきた斬魄刀の健気な姿に涙が滲む
格子に手を掛け、中で医療班すら近づかせない水輪丸に話しかける
「…誰にも近づかせないというのか……?」
(…………)
「お主は知っておったのか?の本心を」
(…………)
「頼む、教えてくれ…こいつは何をしたかったのだ…?」
(…………)
「頼む…離れてくれ、じゃないとを治療出来ない」
(…………)
もう水輪丸は意識が無いのだろうか
只何も言わず答えず
神秘的な光を放ちながら
ただ夕方の尸魂界を見下ろすかのようにゆらゆらと揺れていた
其れがの孤独な心を具現しているかのようで
胸がまた痛む
「ルキア」
「…はい」
「此処で寝るつもりか?」
「……お許し下さい、兄様。けれどは私のせいで…」
「案ずるな、誰も責めてなどおらぬ。只、お前まで身体を壊しては元も子もなかろう」
「お気遣い有難う御座います」
「否…食事は恋次に運ばせよう。あいつも表面は執務に追われているが気になって仕方が無いだろうしな」
「兄様、本当に有難う御座います!」
誰の目から見てもシュンとしているルキアに、
厳しい言葉をかけられる者が居たら見てみたいものだ
の運んだ波紋は瀞霊廷内に大きく広がった
いつもはビシッとした規律正しい雰囲気が漂っているのに、
今は誰しもが呆けている
仕事をしていても何処かボーッとしている
其れ程には此の死の世界で、希望と明るさを運んでくれていたという事だ
それに比例するように今度は波紋が広がっただけ、それだけのこと
六番隊の隊舎への廊下を戻りながら、白哉は思い返していた
がルキアを追いかけて現世へ向かう前の事だった
隊長室で黙々と筆を進めていた白哉の後ろにある窓から、
音も気配も霊圧も感じさせずにはするりと侵入してきた
そして小さく笑い、白哉が振り向くと
は目を伏せた
『何か、変わりそうだ』
『窓から出入りするなと言っておるだろう、…何がだ』
『いろいろと』
『具体的に言わねば判らぬ』
『ねぇ、白哉』
『?』
『昔、言ったよね。もう掟を破らない、だから例え私でも悪と判断されれば指令に従うと』
『…嗚呼』
『其れ、忘れないでね』
は無礼な事に白哉に向けて拳銃の形の手で、
軽く打つ真似事をした
白哉は訳がわからず眉を顰めるだけだったが
彼女はからからと笑いながらいつものように『それじゃね』と言って窓から消えた
しかし今思えば
はこうなる事を最初から予測していたのではないだろうか
むしろこうなる事を望んですらいたような気さえしてくる
いつもなら笑いながら軽く避けてみせる我々の攻撃も、
自分から当たりに行ったのではないか
その太刀筋に手加減など許さないとでもいうように
我々が本気で斬りかかるために自分が攻撃するように見せかけて
本当に、不器用な女だ――――――
「剣ちゃんの馬鹿」
「………」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!!」
「…おい、やちる」
「ちゃん起きないじゃない!遊んでくれないんだよ!?」
「…だから其れは」
「剣ちゃんのせいだからね!!」
11番隊の隊舎で剣八の肩に乗っかってぶつくさ言っていたやちるは、
そう言い放つとひらりと床に下りる
傍らで見守っていた一角と弓親の身体にぶつかりながら(判りやすく言うと2人を車の様に"轢いて")部屋から出て行く
其れはまるで機嫌が悪いとでもいうように
「……隊長」
「判ってる、皆までも言うんじゃねぇ」
「でもっ」
「普段のアイツならあんな攻撃避けていたさ」
「そうなんですか?」
「嗚呼、あの野郎わざと反撃も何もしなかった」
「……なんでんな事…」
「何処までも大馬鹿野郎だ、あのクソ餓鬼」
剣八からの強い命令により、
現世へ同行する事を許されなかったの酒飲み仲間である一角は現状を知らない
口篭りがちな乱菊からおおまかに聞かされただけだった
けれどたった今聞かされた事実に机を叩く勢いで詰め寄る
其の隣では弓親が辛らつそうに眉を顰めた
けれど何よりも
此処に居る誰よりも
やるせない思いを抱えたのは剣八本人だ
ぼそりと呟くと酒の注がれたお猪口をぐびっと煽る
何故?
一体どうして?
彼女を良く知る誰もが理解出来ない彼女の行動
全てを知っていたのは、を闇の世界に引き連れるように命令された市丸ギンだけだった
「どういう事だ、市丸」
「さてね、僕もどゆ事か知りたいんけどなァ」
「貴様が置き去りにしたからは尸魂界に搬送されたのであろう?!」
「要、僕が全部悪うように聞こえまんねんけど気のせいやろか」
「其の通りだ!!!お陰で全て順調に運ぶと思っていた計画が台無しだ!此方の被害も少なくは無い!」
表情1つ変えずに優雅に構えている藍染の前で、
2人の元死神が言い争っていた
1人は食って掛かるように
もう1人は柳の木の如くさらりと受け流すように
それが余計東仙要の気に触れるのか、
チャキッと東仙は己の斬魄刀に手を掛ける
「もう良い、其処までだ」
「…藍染様」
「市丸、恐らく貴様は全て承知の上でを放ったんだろう?」
「……さすがや、藍染様」
「つまり最初からはこちら側に就くつもりは無かったのだろう、全ての目的はお前だ。市丸」
「全ておっしゃる通りですわ、ちゃんは僕を乱菊に会わせたかったと言うておりました」
「…なるほど十番隊の副隊長か。……何処までも優しい奴だ、否優しすぎる」
「ええ、いつか自滅してしまうんやないかと心配で」
「利用された、訳だな。我等は」
「そう思うしかありまへんな」
「ふっ…はははは、よかろう。今度敵対する時は容赦なく攻めてやろう、其れが我等を利用した報復というものだ」
「ほな、今回の件は無かった事にします?」
「嗚呼、そろそろ動き始めないと。あの女を引き入れる準備を整えよう」
「おおせのままに」
世界はゆるりと
何も変わらないように思えて
けれど何処かしらで事態は常に急速に動いていた―――――
next...