黙々と歩く並木道はいつになっても変わり映えのしない景色
ポケットに詰め込んでいた両手がじっとりと汗ばんでいく
そういや季節は夏だった
太陽は地へ沈みかけて夕陽が良く見えるリリアン
Tシャツの上に軽く羽織っている薄いトレーナーに温かい感触が残る
私は足を止めて、
その行動の妨げにならないように斜め後ろを振り返ると
私の腕に、腕を回してきた蓉子と目がばっちりと合う
けれど互いに何を言う訳でもなくゆっくりと歩みを再開させる
その沈黙を破ったのは蓉子からだった
「聖…」
「ん?」
「どうするの?」
「……蓉子はどうしたい?」
「貴方に聞いているのよ」
「…」
曖昧な返答にムッとした様子の声色で蓉子が窘めてくる
だから私は苦笑してしまって、
けれど何か返す気にはなれなくて
そのまま再び沈黙が舞い降りてきた
蓉子だって問い詰めるような無粋な真似はしない
人の気配などしないリリアンはきっと校舎の隅に教職員だけが残っているだけで
普段賑わせている生徒達は今頃クーラーの効いた部屋で休日を楽しんでいるんだろう
思い返せば遥か昔
は聖の腕の中に納まる程小さくて
何処かに行く時はいつだって一緒に居たし
の笑顔を見たいがためにいろいろやってきた
でも今目蓋の裏に浮かぶのは其れから随分と経った
自分と同じくらいの背丈で大人しく微笑む彼女は
自分と同じように誰かと恋におちていろんな事を経験していくんだろう
其れをずっと蓉子と隣合わせになりつつ、
温かく見守っていこうと思っていた
疲れ果てて帰ってきたら優しい言葉をかけてあげて
嬉しそうに飛んで帰ってきたら一緒に喜んであげたい
そう思っていた矢先の事だったんだ
「…大きくなったよね」
「……そうね」
夏の風が2人の髪を揺らしていく
蓉子が隣に居るから1人で立っていなくて済む
其れはとても心強い事だけど
本当は隣にもう1人居るべきなんだ
、君は私達の大事な娘だよ
でも、今は君を苦しめるような事をせねばならない
その矛盾が私の胸を締め付ける
…ごめんね……―――――――
「で、君らは何処まで進んでるの?」
其の問いかけに液体が盛大に噴出される音がした
主は令と
2人とも口に含んでいた緑茶をびちゃびちゃと口元から垂れ溢している
普段ならそんな2人を咎める祥子も、
今度ばかりは目をひん剥いて累を見つめていた
累は煙草をぷか〜と吸いながら令とを尻目に雑誌に目を通しているだけ
「なっ、何を言うかなぁ。君はいつも…」
「だって気になったんだもん」
「もんって可愛く言ってみても駄目!」
令に怒られた事を不服そうに累はぺらりとページを捲る
其の雑誌は恋人である江利子が載っているもの…という訳でもなく、只のファッション雑誌である
は苦笑いを浮かべながら口周りを拭き、
噴出してしまった分もう1度飲み直す
が
「で、もうする事は済ませた訳?」
「ごほっ…!」
再び喉を通過する事なく外に吐き出されてしまった
伊音は隣で居心地悪そうに顔を赤らめ、俯いている
祥子の方もこんな馬鹿げた会話に参加する気は無いらしく、
無言でキッチンの方へ姿を消してしまう
「…っ……はぁ…」
「大丈夫?」
「気管支…入った」
「ほら、水。とりあえず喉と肺を落ち着かせなきゃ」
「ん」
令が心配そうに顔を覗き込み、
に水を差し出す
其れを飲みながら何とか落ち着くに累はまたしてもニヤニヤと笑みを浮かべて観察をしていた
此の人はわざとやっているんじゃないだろうか
誰もがそう思わざるを得ない状況だ
「累さん、昔は優しかったのに最近江利子に似て意地悪になったよね」
「心外だなぁ、私は昔からこうだよ。ねぇ、令?」
「……、ごめんね。此れが累の本性なの」
項垂れて、に向けて頭を下げる令が哀れに思えてくる
が苦笑いしながら体勢を整え、真剣な顔つきで令と累と祥子を見る
「でもね、私は…正直言ってそういう行為の重要性が良く判らないんだ」
「重要性?」
「うん、小さい頃に1度だけたまたま聖と蓉子がしている所を覘いちゃったんだけど」
「そうなの!?」
「あと江利子と累さんのも」
「……其れは、此の2人は堂々としているから…」
「ん、まぁ…。でも其の時感じた事と言えばなんか怖い、っていうだけで」
累と令と祥子が順に返答をするものの驚きを隠せないようだった
はギュっと両膝の上で両手を握り締めて眉間に皺を寄せる
其の隣で伊音は何も言わずにをじっと見つめているだけ
それ以来は何も言葉を発さなかった
大人3人組もなんと言葉をかけて良いのか判らず
只気まずそうに視線を泳がせているだけ
其の時沈黙を破る音が聞こえる
ピンポーン…
祥子が直ぐに反応してパタパタとリビングから出て行く
残された4人は耳を済ませて来客の様子を伺う
ドアが開けられる音がして、直ぐに祥子が息を呑んだようだ
そして小さな声でぼそぼそと会話が繰り広げられ
其の来客が笑いながら祥子の肩を叩いているようだった
そして来客は2人のようで、
ペタペタとリビングに向かってきている
は何だか嫌な予感がして伊音の手を握り締めた
「こんばんわ」
「こんな時間に突然ごめんなさいね」
現れた2人は緩やかに微笑みながらリビングに現れる
予感は的中で
は顔を引きつらせてしまう
令も累も顔を強張らせて聖と蓉子の顔を凝視した
2人の後ろから祥子がおろおろと不安そうな顔つきでついて来ている
「あ、れ……」
「…貴方……」
2人とも伊音を見て、目を丸くした
直ぐに蓉子が此れは拙いというように聖の腕を掴む
けれど聖の顔つきは段々歪んでいき、
伊音の手から繋がっているへと視線は動いていく
聖と目が合ったは全身が硬直していくのが判った
昨日から引き続きこんな聖なんて見た事ない
聖はいつだって優しかったし
聖はいつだって私にとって格好良い自慢のお母さんだった――――――――
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