令から電話を貰った時
私の頭は自分でも驚く程至極冷静だった

と聖の事を聞いても全然動じなかった


嗚呼、やはりな程度で相槌をうっただけなのに



累の事を聞いた途端胸が激しく動き出したの







累、貴方は罪な人ね

あれ程に愛を誓い合ってもそれでもまだ不安だと言うの?


一体どうしたら私は貴方に安心して身を委ねて貰えるようになるのかしら―――――――――













「………」

「………」

「…ちょっと」






目の前で頑なに口を開こうとしない累に痺れを切らした私は抗議の声をあげた


しかし累は漫画雑誌から顔を上げようとしない
耳の聞こえない彼女とは顔を見合わせないと会話をする事が出来ないから私はなす術もなく

ため息を漏らす




どうしてこんな険悪な空気になっているかというと、
私達はソファの上で足を絡み合わせながら風呂後のひと時を過ごしていた

私が仕事を終えて家に帰ると、
累はもう既に何処か不機嫌だった

予め令から連絡を貰っていたお陰で理由は判っているので私は特に問い詰める事もなく


累の手作りのオムライスを食べて、
2、3言交わして

そしてお風呂に入って


私はいつものようにアイスを食べながらソファに座っている累の膝の上に乗ったのだ



互いに横向きになっているため、側面に回る背もたれに身体を預けて
漫画雑誌を読み始める累の顔を眺めているうちに段々と腹がたってきた

どうして私が此処まで此の子に合わせなくちゃいけないの


天下の鳥居江利子よ?私は

いつもなら

気に食わない事はきちんとNOと言うでしょう
納得いかない事はきちんと問い詰めるでしょう



そう思ったら直ぐ行動するのが吉

という訳で江利子は口から発したのだ







「令から聞いたわよ、昼間の事。どういう事?」








けれど累は私をちらりと一瞥しただけで何も言わない
そして今に至るという訳だ

絡んでいる足でゲシッと蹴りを噛ましてみる


けれど累は身を捩じらせただけで何も反応しない








「……ねぇ、私達の付き合いってもう何年経っていると思う?」

「………」

「相当なものよね?なのに何故?何が気に食わないのよ」

「………」

「………このやろ」

「あいたっ」






言っている事までは判らなくても、
声は聞こえている筈だ

なのに完璧に無視を決め込んでいるらしく

更に腹が立って私は先程よりも強めに累のお腹を蹴り飛ばした


さすがに痛かったのか、累は悲鳴をあげて漫画雑誌を落とす

お腹を抱えて唸る累をしてやったりな目で見下した









「さっきから何なの、もう…」

「其れはこっちの台詞よ」

「ああ、何か独り言言ってたね。で、何?」

「あっそ、そんな事言うなら…」





再び足を上げると累はぎゃっと身を縮こまらせて避難する

けれど私は其の足をゆっくりと降ろし、
累の膝を更によじ登って顔を至近距離にやる


累の目を覗き込むと

其の真っ直ぐな眼差しが見返してきた







「…何?」

「…別に」

「…ちゅーするよ?」

「…別にいいわよ」

「………ふぅん…」

「ん…」






本当に累は唇を重ねてきた
ゆっくりと重ねるだけの口づけをして離れていく彼女の頬を両手で掴んで引き戻す

其れがスイッチとなったのか私達は情熱的な口付けを始めた

互いの舌が互いを求め合い、絡み合う
一部の隙間も許さないというように

そう、其れはまるで私達の心の様






「…っ……」

「…江利子さん」

「はぁ…っ……累…」

「うん?」

「……何でもないわ」

「…うん」







とろんとした目つきで見返してくる累の首に腕を回して抱き寄せる
肩口に顔を埋めて、しばらく私はそうしていた

累も何も言わず私の背に腕を回して強く抱き返してくれる







「江利子さんは直ぐ浮気しそうだから心配だな」

「…其れもこっちの台詞だっつの」





べしっと累の後頭部を叩いてやると彼女は声を上げて笑った
私は身体を離して累の目を見ると、

真剣な顔つきで口を開く









「浮気なんかしたら殺すわよ」

「何処からが浮気?」

「セックスから」

「キスはいいんだ?」





へらへらと笑いながらそういう累に、
真剣な顔をしてまで言った事を後悔した

ムカついて其の首筋に歯を立てて噛み付いてやる





「歯型付いちゃうんだけど」

「付けてるの」

「何で?」

「浮気対策」

「なるほど」






そう言うとあろう事が累は私の空いた首筋に噛み付いてきた

私は自分の顔を累の首筋から離し、
累の髪を掴む





「歯型が付くじゃない」

「付けてんの」

「何故?」

「浮気対策」

「…なるほど」





同じ流れの会話をしてから、
其の髪を掴んだ頭を引っ張って自分の首元から引き剥がした

そして互いの顔を見ながらどちらともなく笑い出す









江利子さん


貴女はいつも私をさり気無い距離で救ってくれるね

くっ付き過ぎず離れ過ぎず


私にとって1番居心地の良い場所で手を差し伸べてくれるね






こんな時間がずっと続けば良いのに
そう思っていたのは昔の事

今はそんな事思わないんだ



今日楽しかったら

明日はもっと楽しくしよう



此の人となら出来る



どんな事も







一緒に――――――――――






























「最低だ…っ」

「聖」

「私は何て事を……」






目の前で麦酒缶を手に、
自放棄になっている彼女に何と言葉をかけたら良いのだろうか

私は彼女の肩を背後から抱く






「もう良いからそれ以上自分を責めないで」

「でも蓉子、私伊音ちゃんと同時にも傷つけたんだよ」

「……大丈夫、はそんな事でめげたりしないわ」

の私を見るあの目つきが忘れられないんだ…っ」

は私達の子よ?絶対に大丈夫」

「………怖いんだよ、蓉子…私の築き上げてきた日々が崩れそうで」

「貴方とと3人で過ごした日々は消えたりしないわ」

「うっ…ぅ」

「そして私達が考えるべきなのは此れからの日々を築き上げていく事でしょう?」





蓉子の腕に顔を埋めて涙する聖の髪に、私も顔を埋めて呟く


絶対に崩壊させたりなんかしない
だって

今の聖があるのは栞さんのお陰で


そして今のがあるのは伊音ちゃんのお陰なんだから





そして、自惚れていると言われてもいいけれど


今の2人が此処に居るのは私のお陰なのよ

ええ


そう思うわ
だから



此れからも2人が此処に居られるように

私が支えていかないと
今までそうやって来たように

此れからも私は変わらず支えていこうと思うの


少しずつを誰かに、…いいえ伊音ちゃんに託して

そっと身を引くんだわ



でも聖は誰にも託さない

私が支える


そして聖にはいつだって笑顔で、
のびのびと生きていって欲しい




だから神様


どうかお願い…




私の此の場所を奪わないで―――――――――





















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