貴方は酷く自分を追い詰める言葉しか使わなかった

そして周りを酷く哀れな物でも見るかのような目つきしかしていなかった



自分の周りに寄って来る憧れを目に秘めた級友達を何とか追い払おうと素っ気無くしていて




けれどまだお子様な周りは貴方のそんな状態を感じ取ってはくれなく、

常に貴方の側をうろついていたわね



時折鬱陶しそうに小さく漏れるため息


第一印象は取っ付き難い人





でも其の印象が変わったのは


屋上で1人っきりの昼休みを過ごしている貴方を見かけた時ね





リリアンでは所持違反されている筈の携帯電話を手に、
お弁当箱を突いていたのよ










『え?今日?』




携帯電話に向かって眉を顰め、貴方は言う




『何で?』




向こう側から返ってくる言葉に更に機嫌が悪そうに、貴方は言う




『嫌だよ、だって今日は見たいテレビが…』




渋々美味しそうな卵焼きを口に運びながら、貴方は言う




『……足りない』




何か交渉をしているのか突然目がきらりと光り、貴方は言う




『…まぁ、2千円ならいっか。判ったよ』




ようやく納得のいく結果を得られたのか得意げに、貴方は言う




『ううん、祥子に交渉の仕方の極意を習ったんだ』




段々其の声色は可笑しさを含めたものに変わりつつ、貴方は言う




『ははっ、だって昔は何も報酬なしでやってたんだよ?今は貰っても罰当たらないって』
















私は驚いたわ


其の電話の相手は一体誰なのだろうか




初めて見る貴方の嬉しそうな、そして子供らしい顔


親だろうか?



けれど親にしては言葉遣いが砕けている気がする

時々「馬鹿」とか「阿呆」とか汚い言葉も出ているし…


ならば友人?




其れも思い浮かばない


友人にお金関係の交渉を持ちかけるなんて事しない筈だ







そんな事を考えているうちに貴方は電話を終えていたらしく、

パクンッと折りたたみの携帯電話を閉じる音にも気付かなかった


更に私に気付いていたようで目を此方へと向けられていた




其の視線の鋭さに気付いた私は慌てて微笑む


けれど貴方は黙ってご飯を口に掻き込み始めた

もう見つかってしまったのだし、と諦めて私は貴方の側に近寄ったんだわ










『お友達?』

『…親の友達』

『そう』

『……否、親の友達というよりは後輩かな』

『そうなの』






まぁ、そんな事詮索してもしょうがないわよね

と私は只頷いて貴方の言葉に頷くだけだった


今度は其れが逆に違和感を感じたのか貴方の方から声を掛けられる






『深入りして来ないんだね、そんな子君が初めてだよ』

『あら、貴方のご家族の交友関係を詮索してどうするの?』

『…其れもそうだ』





ふっ、と口角を吊り上げて笑ってから
貴方は首を傾げた

クラスメート達とかは凄い詮索して来たんだけどなぁ、と


そしてハッとしたように私の顔をマジマジと見つめてくる







『もしかしてうちの家族…知らない?』

『会った事もないもの』

『……そっかぁ』







不思議そうに言う私に、貴方は何だか嬉しそうにはにかんだ


其の時は訳が判らなかったけれど

今なら判るわ



貴方あの頃、ご家族と其の周りの存在で騒がれる事に対して屈折していたのよね――――――――





























屈折?


其れは酷い言い様だなぁ

違うよ、伊音





只其れを重荷に感じてしまう自分に嫌気が差していただけだよ






伊音もご存知の通り私は聖達が大好きだからさ

皆を尊敬している分、
其の何処かで皆を鬱陶しがっている自分が嫌で嫌でしょうがなかった



だから薔薇様という言葉を聞く度に心の何処かが荒んでいくのが判って


嫌で嫌でしょうがなかった、そんな自分が






だって其の名声は聖や蓉子達の頑張りによるものじゃないか


其れなのに何故私が褒め称えられて羨ましがられなきゃいけないんだろう












…まぁ、そんな事ばかり考えていて私の頭はいっぱいいっぱいだったって訳だ




其れから間も無く私達は2人で居る事にお互い心地の良さを感じ取ったね

君も私も口数の少ない方だったから
2人で居れば会話など存在しなくても良い空気で

私はいつの間にか騒がしい教室から姿を消す時は君を呼んでいた


もちろん周りが其の変化に気付かない筈もなく、

私だって何度も問い詰められたよ
君との関係は何なのかとか

君が私に近づくのは自分が目立とうとしているからなんだとか



根も葉もない噂に何度キレそうになった事か



でも私は何度も笑いながらその場を潜り抜けてきた

そんな事ある訳ないよ、気のせいだろうと








けれど表面で笑っている時間が長引いてく分、

段々疲れてきた私は家ではほとんど笑わなくなっちゃったんだ



私を笑わそうと纏わり付いて来る聖もウザくて、

何かと世話を焼いてくる蓉子がウザくて、



どんどん私の心は病んでいったんだよ…






でも皆優しいからさ


反抗期だねぇとか

言い合って、
素っ気無い私すら見守りながら楽しんでいた


嗚呼、何て嫌な人間になっちゃったんだろう




私は皆に笑いかけて貰えるのが何よりの宝だと思ってるのに



私が皆に笑いかけなくなるなんて

最悪だ













小学6年生の秋にとうとう爆発した私を


君は静かに微笑みながらこう言ってくれたね









『ならば、私も嫌な人間ね』

『っそんな事ない!君は綺麗で汚れのない…』

『いいえ、そんな人間存在しないわ。私も醜い人間よ』

『醜くなんかっ』

『ねぇ、。貴方はとてもとても大好きなのね、お母さん方が』

『っ…』

『そんな事を悩めるなんて貴方は、お母さん方からしてもとても素敵な子供だと思うわ』

『違うよ、私は素敵なんかじゃないよ』

『なら何故貴方に笑いかけてくださるの?』

『………』

『好きだからでしょう?愛してくださるからでしょう?』

『…伊、音…私は……私はっ…』

『そして私も』

『え?』

『貴方が好きだから貴方に笑いかけるのよ』















そういえば告白してくれたのは伊音からだったよね…


多分皆は私からしたんだろうと思っていると思うけど、

でも伊音からだったんだよなぁ



けれど其の言葉はすんなりと私の胸に落ち着いた


まるでそう言われるのは当たり前だったかのように




贅沢?


うん、そうかも

むしろ自惚れかもしれない



でも其れくらい自然な事だった


私達が友達から、恋人へと変わるのは…――――――――――























そっと顔を離すと、

恥ずかしそうに伊音は俯いた


そんな仕草さえ可愛く思えて


私は思わず噴き出して笑ってしまった







「しちゃった、キス」

「…酷いわ、笑うなんて」

「はは、ごめん。…伊音、ファーストキス?此れ」

「……そうよ」






恥ずかしそうに、
けれどムッときたようで伊音は頬を膨らませながら私を睨んだ

そんな私にツンとそっぽを向きながら肯定する


しかしそんな事していても頬は真っ赤で、

恥ずかしさを隠しきれていない







「…貴方は?」

「え?」





伊音に見とれるのに夢中で私は彼女が呟いたのに気付かなかった


耳を近づけて再確認すると、
彼女はもう1度ぽそりと呟いてくれる





「貴方は、此れが初めて?」

「……うんっ」






あちゃぁ

そう聞き返されるとは想像していなかった
こんなんならば聞かなければ良かったと


後悔の念が渦巻く



けれど不自然な程勢いよく頷いた私を伊音は見逃してはくれなかった




がしっ、と私の両頬を掴んで至近距離で詰問される











「嘘おっしゃい」

「…嫌だなぁ、そんな事ないよ」

「嘘吐かれるのは大嫌いなの、貴方もでしょ?」

「だから嘘なんかじゃ…」

「………」











はは、と空笑いしながら目を泳がす私

其れを伊音にしては珍しく鋭い目つきで捕らえてくる




ギブアップ












「ごめんなさい、嘘です」

「…」

「小さい頃に令としたのがファーストキスです」

「"令"?」

「えっと、此の間の双子の片割れ。清楚っぽそうな方」

「ああ…」







令と言われて直ぐに誰かは判らなかったらしく、
首を傾げる彼女に説明してみると

思い当たってくれたようで頷いた


…累さん、決して貴方が清楚っぽそうではないと言いたい訳じゃないから


でも此の数年、令と累さんの違いを説明するのには、
此の言い方が1番しっくり来るんだと判ったんだよ

研究を重ねた末に、この結果に行き着いたんだよ……







「今だから言えるけど、私の初恋は令だったんだよね」

「…でもてっきり聖さまの方かと思ったわ」

「キスと認識してない頃はされたよ、沢山。でも自分で認識して、キスしたのは令が初めて」

「そう、なの」

「あっ、でも今は何とも思ってないからさ!大好きなお姉さん…お兄さんっぽいお姉さんとしてしか見てないよ」











何でこんなに必死になって弁解しているんだろう…


まるで浮気を発見された夫みたいだ







伊音も良い妻であるらしい


判ってくれたようだった




















「…じゃ、そろそろ帰ろっか」

「ええ」

















伊音の手を引いて、私達は微笑みを浮かべながら夜の公園を後にする







家で待っているであろう互いの親達



一体どう決着が着いたのかは判らない、けれど

今なら只引き下がりはしない


ちゃんと食いついていけるだろう





説得、してみようかな









聖と、栞さん




何が2人を繋いでいるのかは判らないけどさ

だって私は聖が大好きなんだから







何があっても聖に嫌われる事はないと自負している



だから…――――――――――



























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