朝は祥子よりも早く起きて、朝ご飯を作る
そして祥子を起こしてから
朝は食欲が働かない祥子のために胃に優しい食事を摂らせて
ちゃんと食べたのを確認してからゴミ袋を抱えて仕事に出る
朝食は令の当番で、
夕食は祥子の当番
朝は早くて帰りも遅い事がしばしば
けれど家に仕事を持ち帰る必要は無い令の家事の時間
朝は遅くても平気で帰りも好きな時間に帰れる
けれど家に仕事を持ち帰っては夜中に片付ける事の多い祥子の家事の時間
其々きっちりと決めている
どれも朝が弱い祥子の事を考えて令が決めた2人の決め事
例え其れが休日であろうと変わらない
休日の昼ご飯は2人で仲良く作る事もある
でも時々遊びに来る累や江利子、先輩や後輩達に作ってもらう事もあるけど…
とにかく累とは違って規則正しく生活を送るように身体が作られている令はこの日もいつもと同じ時間に目が覚めた
けれど寝起きの鼻腔を擽ったのは美味しそうな匂いで、
其の刺激に驚いた令は慌てて布団を剥がして起き上がった
隣では祥子がまだまだ爆睡中である
身動ぎしたり多少は動いても
起きないのは判っていても令は其の優しい性格のせいで慎重に其の場所から離れた
廊下を歩いていくとリビングへと出る
明かりはまだ点いていないけれど、
窓から入る日差しで十分事足りているようで中からは人が活動する気配がした
「おはようございます…」
「おはよう、令」
遠慮がちに声を掛けるとキッチンから凛々しい返事がした
其方へと目をやると蓉子と累が既に出来上がっている朝食をお皿に盛っている
「髪、ぼさぼさだよ」
お皿を料理人でもないのに器用に何枚も手の上やら腕に置いてリビングへと向かう累が、
令とすれ違いざまにそう伝えた
自分の頭に手をやって其の寝癖を把握すると令は苦笑する
そして累の後を追いかけてリビングへと行くと累の頭に手を置いた
「累の方がぐちゃぐちゃだよ、どうやって寝たらそんな風になるの?」
「え、本当?」
其処で初めて気づいたという風に累が慌てた表情を浮かべると、
令は笑いながら限度はあるものの手櫛で累の寝癖を直してやる
累もお返しとばかりに令の頭に手を伸ばすが、
なんと逆に両手をかき混ぜてぐちゃぐちゃにしてやったのだ
「ちょっ、累!!」
文句を言いながら洗面所へと消える妹を累は其処に居たと共に笑いながら見送った
身嗜みを終えた令がリビングに戻ってくると、
既に準備は整っておりは食卓に着いていた
今は蓉子がのためにコップに牛乳を注いでいる所で、
累は最後の仕上げとして料理の1つにパセリを乗せている所だった
「此れは…朝からヘビーな内容だね……」
「でしょう?貴女もそう思うでしょ、私も言ったのよ」
「ええ、此れはちょっと…」
食卓に並び終えた6人分の食事を見て、令が言葉を詰まらせる
其の隣で蓉子がにコップを差し出しながら苦笑して同意した
思った以上に上手に出来て満足している様子の累が2人の言葉に眉間に皺を寄せる
「だったら食べなくていい、私とで食べるから」
「否、食べるけどさぁ…でも朝から焼肉はないんじゃない?」
「焼肉と言うな、曲がりにも料理人なんだから。美しくステーキと言いたまえ」
「そう言うと更にヘビーだから言わないだけだよ!」
令と累が言い争いをしている通り、朝ご飯だというのに内容はステーキであった
其れに加えて何故かかなり手の込んだヴィシソワーズ(ジャガイモのスープ)やらカラフルに彩られたサラダやら
ちゃんと抜かりないのが累は自分の嫌いな野菜をサラダに入れていないという所である
其処に忘れずにお皿に洋風に盛られたご飯
もう何処からどう見ても山の様に盛られたご飯、もとい米(コシヒカリ)
「朝が弱い祥子とか聖さまが見たら間違いなく吐くよ、只でさえ私だって胃靠れするんだから!」
「大丈夫、朝が弱い人専用にちゃんと。ほら」
そう言って得意げに累が指す場所には、
鮮やかな箱と牛乳パック
所謂コーンフレーク
…其れだけである
「此れ、主食!?」
「私にとったら米と肉が主食なの!文句言うなら食べなくていいって言ってるじゃん。此れでも食べてなさい」
「…否、勿体無いから食べる。……はぁ、此れ取って置きのお肉だったのに」
「うん、冷蔵庫にかなり良い肉が入ってたからメニュー考えなくて済んだよ」
項垂れる令の肩にポンと手を置き、憎たらしいほどに爽やかな笑顔を向ける累
蓉子は自分の身体の調子を重宝してか、ステーキは断ったらしい
彼女の机の前にはお皿に盛られたコーンフレーク
けれどの前には累と同じメニューのステーキなど重たい料理だった
「、其れでいいの?」
「うん、だってご飯とお肉食べたかったし」
「まぁ…育ち盛りだからね」
心配そうに声を掛ける令に嬉しそうに頷く
そんなの表情を見て累はうんうんと頷き、
令はの体調を気に掛けながらも諦めた
しょうがない、せめて食後に胃に優しいデザートでも出してあげよう…と心に決めたパティシェが此処に1人
料理の腕はかなりのレベルである累がどうして仕事にしないのかと不思議がっていた蓉子も其の謎は解けたようだ
要するに自分の食べたい物しか作らない
嫌いな食材は一切使用しない
栄養が偏りすぎて、仕事にはなりゃしないのだ
「じゃ、そろそろ皆を起こして来よっか」
累がそう言うと蓉子と令も其々自分の愛しい人の元へ向かう
まずこの中で誰が1番起こすのが簡単かといえば江利子だ
目覚めは悪い方ではない
けれど、時々起きるなり性質の悪い事を仕掛けて来る時があるからちょっぴり怖い
「江利子さ〜ん、もうご飯出来ているよ」
「…ん……」
「ほら、おはよ」
「………」
江利子の傍らにしゃがみ込んで江利子の頬をペチペチと叩く
身動ぎしながら累の手から逃れようとする江利子に、累はめげずにペチペチと叩き続けた
突然ぱちりと開いた目に、累が微笑みながら挨拶すると
江利子は背けていた身体を累へと向き直して其の胸倉を掴んだ
そしてぐいっと自分の方へと引っ張るとキスする
「………江利子さん?」
「おはよう、累」
「おは…よう」
唇が離れた後に顔を真っ赤にさせた累がもごもごと口篭ると、
江利子は爽やかに微笑み返した
そしてようやっと解放された身体を起こしてそろりと辺りを見回すと案の定聖を起こそうとしていた蓉子と、牛乳を飲んでいたにばっちり見られていた
我関せずで起き上がった江利子は欠伸を1つして、食卓に着く
そして朝からヘビーなメニューなのには慣れているらしくため息を吐いてからにおはようと声を掛けた
もミルク髭を生やしたままニッコリと子供みたいな笑顔を浮かべた
一方蓉子はというと、かなり苦労していた
何度声を掛けても何度叩いても起きやしない
鬱陶しそうに蓉子の手を振り払って再び熟睡に入り込む
とうとう煮を切らした蓉子は聖の鼻を掴み、
空いている方の手で聖の口を塞いだ
「………」
「………」
「…っ…」
「………」
「…ぐはっ!?」
聖、起床
かなり苦しそうに咳き込みながら
目覚めスッキリとは程遠い起床の仕方で
令の方はというと、辛抱強く声を掛け続けたお陰で寝ぼけ眼の祥子がリビングへと現れた
其の前に顔を洗わせたようだけどお嬢様は其れ位では目が覚めないらしい
ふらふらと足取りも危うげな祥子の背中を支えながら現れる2人を迎えたのは不機嫌そうな聖の顔であった
丁度洗面所で顔を洗ってすっきりしようとしていた所を、
リビングへの扉を開けた2人とばったり鉢合わせたのだ
令がすかさず祥子の身体を横へと動かすと、其の隣をするりと聖が通り抜けていく
「うっ……」
食卓に着くなり口元を押さえる祥子に令はコーンフレークと珈琲を差し出す
そして祥子の視界からステーキを退かした
「祥子、何も見てない。君は何も見てない、いいね?」
「……ええ…」
まるで催眠術をかけるかのように言い聞かせる令に、祥子はおぞましい物を見たかのように魘されながら頷く
じろりと睨む累を令は苦笑で返した
ぼそりと「過保護め」という呟きは令には届かなかったようだが
は既にパクパク食べ始めている中、
聖が顔にタオルを押し付けたままふらふらと戻ってきた
そしてが美味しそうに頬張っている物を見て絶句し、タオルを床に落とす
令に見習ってすかさず蓉子が聖を食卓に着かせ、珈琲を差し出した
けれど令とは違うのは、自分と祥子の分が余ったりでもしたら折角の料理が2つ分無駄になってしまうから
其れを聖に食べさせようという鬼もとい悪魔…否、水野蓉子である
「な、何此れ…」
「累のお手製料理よ、存分に味わって食べてあげてね」
「いやいや、ちょっと。そう言う蓉子は食べないの?」
「胃靠れするから遠慮させて貰ったの」
「私だって胃靠れする!!」
「気のせいよ」
「なっ………」
あまりの言い草にぽかんと口を開ける聖の前に満面の笑みの蓉子からお皿に大盛りのご飯が差し出された
ステーキ組
累(満足そう)
(嬉しそう)
江利子(慣れているが嫌々そう)
令(本当に気持ち悪そう)
聖(吐きそう)
コーンフレーク組
祥子(ステーキの方は無意識に見ないように)
蓉子(をニコニコ眺めながら)
という訳で、纏められた
気分の重い食事をしながらふと江利子が口を開く
「今日も暑くなりそうね」
「そうだねぇ」
「この分じゃ今日も延々とアイス食べているのね」
「そうだねぇ」
「…そうだ、折角揃っているんだし今日はプール行かない?」
「いいねぇ……え?」
適当に頷いていた累が肉切れを口に咥えたまま江利子を振り返る
江利子は意地悪そうに微笑んで累を見ていた
「じゃあ決まりね」
「えっ!?」
そんなこんなで其の日の予定は決められてしまった
計算高い江利子によって
聖も蓉子も令も祥子も、1度決めた江利子に逆らえる筈もないと判りきっているので承諾した
は心なしかワクワクしてるようだった
真夏の朝
じわじわと暑さが迫ってくる中
この家の中だけは何だかひんやりとした空気が流れていた――――――――――
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