やって来たと思ったら、
あっという間に過ぎ去っていく季節
其の中で残された僕はどうすればいいの…?
紅く染まる街で
影を舗道に
描いたふたりは
何処に行ったの?―――――――
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
たった今帰宅した令と祥子が繰り広げる家庭の営み
其れを眺めながら私は江利子の隣に座って食後のコーラを飲んでいた
江利子は食後のデザートに、残っていた新作のケーキを勝手に食べている
姉の来訪に気づいた令が上着を脱ぎながらパッと笑顔になった
「お姉さま、いらしてたんですか」
「お邪魔してるわ」
「あ、其れ新作で明後日から店に並ぶ予定の物なんですけど如何です?」
「美味しいわよ、とても。さすが令ね」
「有難う御座います」
照れくさそうに笑いながら頭を掻く令は何だか新鮮だった
いつも江利子や累さんに虐められている所しか見ていないから
そして私へと目を向けると微笑む令
「コーラの飲み過ぎは炭酸中毒になっちゃうよ」
「もう中毒だもん」
「身体に良くないんだけどなぁ…はケーキ食べてくれた?」
「うん、凄く美味しかった」
「良かった」
「まぁ、令が作る物で美味しくない物がある筈ないんだけどさ」
「…嬉しい事言ってくれるね」
極当たり前の事を言っただけなのに、
令は吃驚した顔をして感激していた
キッチンに居た祥子から令へと声が掛かる
夕食は食べてきたのか、今から食べるのかと問うている
令は今から食べると答えて手を洗いに洗面所へと消えた
「江利子は家帰らなくていいの?」
「だって累、今日からまた出張だもの」
「そうなんだ」
相変わらず忙しい人だなぁと思いつつ、
あれ、と首を傾げる
「でもモデルの仕事も忙しいものなんじゃないの?」
「…私そんなに暇に見えるかしら」
「うん」
「はっきり言うわね、可愛くない。選んでいるのよ、忙しくない程度に」
「あ〜」
なるほどなるほど、と頷く私を見て江利子は小さく微笑んだ
そんなこんなで令が戻ってきて食卓に座る
其れと入れ違いに江利子は「お風呂借りるわね」と洗面所へと消えた
どうやら今日は1日屋外での撮影だったようで、
汗がべた付いて気持ち悪いとか言っていたから祥子がお風呂を沸かしておいてくれたのだ
そして私はソファから身を乗り出して食卓の方を向くと口を開いた
「ねぇ、令。今日江利子に言われたんだけどさ」
「ん?」
「"欲しい物はどんな手を使ってでも手に入れる"…其れってどうだろう?」
「どういう事?」
「良く聞くじゃない、"欲を持っちゃ駄目"って。江利子の言う事とどっちが正しいの?」
「う〜ん、はどう思うの?」
「私は…」
どうして疑問を疑問で返すなんて回りくどい事をするんだろう
もちろん私は江利子が間違った事を言うとは思わないし、
でも…一応リリアンというカトリック教の場所で育っている訳だし
欲は悪いものだ、とか
欲は人を狂わす、とか
聞くけれど…実際はどうなんだろう?
1人思案している間に食卓には祥子が用意した夕飯が並んでいた
其れを美味しそうだと祥子に告げた令が、
麦茶を一口含んでからまた私を見る
そして真剣に悩んでいる私を見て令はふふっと笑った
「、さ。欲は悪くなんかないんだよ、むしろ素晴らしいと思う。
だって欲がなきゃ人間って成長しないでしょ?
例えば、剣道で例えるとさ。
もっと強くなりたい。
もっと技を磨きたい。
もっと体力を付けたい。
もっと動体視力を鍛えたい…
際限なくあるじゃない。
其れは成長するためにどれも必要な事でしょ。
私だってさ…もっと美味しい物を作りたいとかそんな欲は常にあるよ。
そうだな、きっと死ぬまであるんだ。
だからね、お姉さまは其の欲を手に入れろって言いたかったんだと思う。
ねぇ、。
人は貪欲でなくちゃ駄目だよ。
けれど、強欲では駄目なんだ。
其れを間違えないで……………」
どうして皆して難しい事を言うんだろうと、思った
皆決まって口にするのは紙一重の違いを気を付けて見極めろという
そう言い終えて、また一口麦茶を飲んだ令は正面に座っている祥子に微笑みかけていた
そっと過ぎ去ってく
季節の中
残された
僕だけ...
素直に
弱さを見せる
ことさえ
できずにいた
不器用な
愛だった…――――――――
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