『令ちゃん大好き!』
ふと夢に見た顔
それは今より少し幼い頃の、
屈託のない笑顔だった
甘さ控えめのチョコケーキが大好きなに、
練習して作ってあげるよと言った時の事だった
「お店のは苦いか、甘いか、どっちかしか無いし…」
「お母さんに作って貰えばいいじゃない」
「……もう無理なんだって」
「…そう?じゃあ私が練習して作ってあげるよ」
にはお母さんはもう居ない事、知らなかったから
いつも嬉しそうに話すからてっきりあの家には、
の言う綺麗で優しいお母さんが居るのだとばかり思ってた
でもあの家に居たのは、冷酷な伯父さん
だからだったんだ…
真っ赤に腫れあがっているの腕に気付いた私のお母さんが、
慌ててを病院に連れて行ったら骨が折れていたり
顔に大きな痣を作って、
それを隠すようにバンダナを巻いていたり
なのにあの頃の私は由乃の事となると周りが見えなくなっていて、
一番傷ついていたを放っておいていた
は強いから
は泣いたことないから
だから大丈夫、と
それは根拠もない過信だったんだ…
「あら、令、貴方を知ってるの?」
…吃驚した
まさか祥子とも顔見知りだったとは思わなかったから
小さい頃にそれぞれ共有の幼馴染を持っていた二人が、
今こうして同じ薔薇の館で助け合っている
運命としか思えなかった
『では、転校生の紹介をします、さん舞台上にどうぞ』
転校生?
そんな話聞いていない
学園祭も終わったこの時期にまさか転校生なんて、
とそう思った時
いやに目立つ少女を見つけた
無数に開けられたピアスに、
ロザリオとは到底思えないゴツイ首飾りに、
真っ白に脱色した髪を纏う少女
髪の毛に引けを取らない真っ白な肌によく映えた灰色の瞳
……ってえぇ!?
「…?」
私はつい、全校生徒の前だというのに声を出して呼びかけてしまった
何も確信はなかったけど、
でもそう言わずには居られなかった
「…………?」
少女が訝しげにこちらを振り向いた瞬間、夢がフラッシュバックする
「「!!!」」
祥子と声が重なる
やっぱり同じ人物だったんだ、時を違えた幼馴染って
段々目が見開かれるのと同時に開かれた口から、
私と祥子の名前が呼ばれた
由乃の他にそう呼ぶのはだけだった…
少し低くなった声で
令ちゃん
そう呼ばれて何だか嬉しかった
祥子に抱きついた後、私にも抱きついてきた
胸が高って仕方が無い
聞きたい事だってたくさんある
「あれ、何で令ちゃんここにいるの」
「え?」
「だってここ女子高でしょ」
「「「ぶっ…」」」
お姉さま達が噴き出すのを他所に、
私はかなりヘコんだ
やっぱりソレを言うか…
何かとは私を男扱いしてからかって遊んでいたから
でもちゃんとした時には何故か女扱いしてくれる、
そのギャップが好きだったんだけどね
例えば重い物を運ぶ時とか…
『私がやるよ、こんな事女の子にさせちゃいけません』
『だって女の子のくせに…』
『いいの、私は紳士なのだ』
『何それ』
『『あははっ』』
あの頃の、笑いあっていた頃の、
の笑みは消えていた
笑うといっても苦笑だけで
心から笑う所は見れない
その日由乃によって薔薇の館へ強制的に連れて来られたとみられるも、
ただ苦笑いしか見せてくれなかった
「鳥居江利子よ、宜しく」
「宜しくはしないですけど、まぁ、どうも…」
「!」
「念のために言っておくけど、私はここにいる皆さんと仲良くなったりするつもりないんでそこんとこ胸に刻んどいてください」
おかしい
はこんな事言う子じゃなかった
誰にも隔てなく優しい子だった
でも今は、その瞳に温かさを映してはいなかった
ただ世の中の情勢を冷静に見つめているといったところか…
「仕方ないよ、昔とはもう何もかも違いすぎる」
ほら、またそんな事を言う
何故?
変わってしまっても人の心を変えるのはそんな簡単じゃない
やっぱりあの日、
の家を出入りしていた警察とか…
絡んでいるんだろうな
何があったんだろう、あの日
「って子、どんな子だったの?」
「私は由乃のことでへこんでいた時いつも一括してくれてましたよ、年下なのに」
翌日、聖さまの問いかけに私はそう答えた
懐かしいな、数年前が
『…何で暗いの』
『……何で?そんなの決まってるじゃない』
『決まってないよ』
『決まってる!由乃に…手術を受けて欲しいんだ、私としては』
『…うん』
『良くなるなら、それがいいんだ。でも……』
『………』
『失敗したら、ってそう思うと』
『馬鹿だね、令ちゃんは』
『…っ、に何がわかるの!?』
『受けるのは由乃なんだ、私や令ちゃんじゃない』
『……』
『私達がそんなんじゃ由乃に伝わっちゃうよ』
『…』
『由乃が居なくなったら、そう思うと怖いよ。でも…』
『居なくなったら…』
『でも信じてあげるしか出来ないんだよ』
情けないと思った
より長く由乃と一緒に居るのに
でもの言う事が正しいと思った
いつだってそうだった
私より1つ年下のこの子が、
いつでも世を常に見据えていて
正しい事しか言わない
善悪なんて人それぞれだよ
いつだったかそう言った言葉にも考えさせられたくらい…
久しぶりにと竹刀を交えた
私を恐れずに向かってくる力強さで、
やっぱり変わってないんだなと思えた
少し嬉しさがこみ上げてきて、
ともう一度同じ舞台に立ちたいと、
剣道部に誘った時
「悪いけど、もう一度剣道やるつもりは無いから」
そうはっきりと言い捨てた
「今だけだから、強いのは」
今だけ…?
どういう事?
人がそんなにすぐ弱くなると思えない
どうして?
「お母さん、を覚えてるよね?」
「っ、令、それは…」
「ねぇ、あの日…どうして私と由乃に本当の事教えてくれなかったの?」
「…ごめんなさい、まだ小学生の貴方達には重すぎると思ったのよ」
「お母さん、も小学生だったんだよ?」
「……っ」
「おかしいよ、そんなの矛盾だよ」
「令…」
「にこそ重すぎたんだよ、その事実は」
「…そうね、うちで引き取ってあげれば良かったのね」
「……さ、リリアンに転校して来たんだ」
「え!?」
「多分私達がそこの生徒だって知らなかったんだと思う」
「……そう」
「…またこのうちに呼んでいい?」
「もちろん!私も言いたい事たくさんあるのよ、謝りたい事もね」
「…うん、今度こそ繋ぎとめておかないと」
静さんから紡がれた真実には、
ただ理解できただけだった
警察がの家を出入りしていたのも頷けるし、
今、
誰も信じないという雰囲気を放っているも納得できた
無理をしてでもあの後探し出せば良かったんだ
まだ小学生だった私に出来ることだなんて限られていたけど、
それでも私と由乃を居場所にしてあげれば良かったんだ
両親達が話さないからって、
私達も話題から遠ざけた事自体がいけなかったんだ
…ごめんね、
今度こそ側に居てちゃんと見ているから…
「それじゃ、さよなら。湊」
そう言い捨てるその顔は、
とても悲しそうだった
祥子に叩かれたその頬が痛々しい程に白い肌の上で映える
きっと湊さんというのは、
私達が居ない間にの理性を保たせてくれていた人
その人に別れを告げたという事は今度こそもう1人だと言う事だ
そんな事させない
私が居るよ、
祥子だって居るし、
由乃だって居るんだ
世界は変わっていくけどそれは悪い事ばかりじゃない
良い方向に変わっていく事もあるんだよ
由乃の腕の中で声を押し殺して泣くを見て
ああ、由乃も同じ気持ちで居てくれたんだと
そう安心した
ねぇ、
人生は悪い事ばかりが続くものじゃないんだよ
そんな事ないよ
私が教えてあげるから
だから、
昔みたいに
令ちゃん大好きって言って貰えるよう
側に居るから
私からもたくさん言うよ
が大好きだ、って
「美味ぇっ!」
「…そう?そう言って貰えると嬉しいよ」
「令ちゃん凄ぇ!エスパーっ!?」
家族不在の私の家のリビングで手製のチョコケーキを頬張りながらそう言ってくる
口の悪さに苦笑しながらも、
心底驚いた顔で私を見上げてくるの頭を撫でてあげた
「そう、エスパー。レベルアップしたんだよ」
「凄い凄い、レベルアップしなかったらただのヘタ令だもんね」
「……ただのヘタ令?そういう事言う子にはあげられないなぁ」
ケーキを取り上げると、
いきなり泣きそうな顔つきになるがまたなんとも可愛くて
目の前に戻してあげた
つくづく甘いんだよなぁ、私って
「冗談だって。が何度も店で買ってきたケーキを食べながら文句を言うからの好みは把握してるんだよ」
「ふ〜ん」
そう口を窄ませるその顔は、
照れくさそうだった
そりゃ嬉しいもんね、自分の好みを把握してくれる人が居るというのは
聖さまのように好みのコーヒーを淹れられれば後は怖いものナシ
向かう所ナシ
令ちゃんの株は上がるんだ、多分
いつまでもヘタ令のままじゃ居させないよ?
「やっぱ令ちゃん大好きだなぁ」
「…皆に言っている人の言葉なんて信じられないよ」
「好きでもない人の事好きって言わないって、私は」
「」
「ん?」
また一口頬張りながら、
顔をひょっこりと上げてくるに淹れてあげたコーヒーを差し出した
ずっと恥ずかしくて言えなかった気持ちを言おう
「大好きだよ」
next...