「それで、もう栞さんは行ってしまったの?」
「うん」
珈琲を飲みながら尋ねてくる彼女に、
私は答える
コントローラーを操る手は休めずに
テレビ画面を忙しなく動くキャラクター達から目を離さずに
「…そう」
「………静は?」
「え?」
何も無い只の平日
夕方になってやって来た静を迎えたのは1人だけだった
とりあえず上がって貰ってはいるけれど
正直聖も蓉子も何時くらいに帰って来るのかは見当付かない
令達が来るという事も特に聞いてないし、
今日は多分静とずっと2人きりなのかもしれない
だから珈琲を一応出してからやりかけだったゲームの世界に戻ったのだ
「静はずっと此の侭この街に居るの?」
「まぁ、そうね…時々向こうへ行く事はあっても何日か何ヶ月かで戻って来ると思うわ」
「ふぅん」
「…大丈夫よ」
「何が?」
「……大丈夫」
「……」
自分に言い聞かせるかのように穏やかに頷く彼女を視界の端で捕らえて、
は何も言わずに同じく沈黙を守った
しばらくして思い出したように静は自分の鞄から何かを取り出して、の傍に来ると其れを差し出してくる
スタートボタンを押してゲームを一時中断させると
其れをちらりと見て受け取りながら静の顔を見上げる
「新作?」
「そう。本当は聖さまと蓉子さまに差し上げようと思ったのだけれど…」
「何で私に?」
「…貴女に相応しいと思ったの」
「……聞いてもいいよね?」
「ええ」
微笑みながら頷く静に微笑み返してから、
立ち上がって部屋の中にあるオーディオコンボにCDをかける
少しして綺麗なメロディーが室内を支配し出した
イントロが始まって20秒程で良く聞き取れない英語が流れる
「全然判んないよ、聖と蓉子の方がちゃんと聞き取ってくれるんじゃない?」
普段から洋楽を聴いている聖や蓉子の方が確かに英訳の歌詞をちゃんと理解出来る筈だ
肩を竦めてそう言うと静はふふっと小さく笑って、
オーディオから流れる歌に合わせて口ずさみ始めた
"うわ、生の歌声だ"
なんては少し感動しながらも
その歌声の心地の良さに思わず目を閉じて聞き惚れてしまった
「I will think of you even if comparing and becoming only one person by this world.
I can live strongly because you were.
Getting warm of hand in this conduct oneself without already.
I think that it grasps quietly, turns ahead, and walks...」
「どういう意味?」
首を傾げてそう尋ねると、
静は再び歌うように其れを訳してくれた
「"例えこの世で独りきりになってしまっても、私は貴女を想うでしょう
貴女が居たから私は強く生きていけるのです。
もう此処には無い手の温もり。
そっと握り締めて私は前を向いて歩いて行こうと思います"」
「………其れは、伊音に対して私の気持ち?それとも聖達に対しての気持ち?」
「さぁ?どちらでもいいわ、貴女が受け取りたいように受け取ればいいのよ」
「……」
「The thing of living, it is a thing of the nature becoming far difficult.
The thing of living is a thing happy for tears to spill in it.
The thing of living is a necessary thing for you to meet.
Not forgetting, and this feelings...」
「………」
「ちなみに此れを訳するとね、
"生きるという事、それは気の遠くなるくらい困難な事。
生きるという事、それは涙が零れる程幸せな事。
生きるという事、貴女に出会うために必要な事。
決して忘れないわ、この気持ちを"」
静の唇から紡がれる言葉はいつも歌のようだった
其の声も、喋り方も
全てが私の心を揺さぶってくる
故意なのか無意識なのかは判らないけれど
でも
私の心を揺さぶるのは恐怖ではないという事だけは確かだ
「The thing of living is a necessary thing for you to meet…」
「どうかしら?まぁ此れを作ったのは半年くらい前だから貴女の事を意識して作った訳じゃないのだけど」
「…良いね、此れ欲しいな」
「ええ、もちろん。貴女にあげたのよ」
「有難う」
I will think of you even if comparing and becoming only one person by this world.
I can live strongly because you were.
Getting warm of hand in this conduct oneself without already.
I think that it grasps quietly, turns ahead, and walks...
The thing of living, it is a thing of the nature becoming far difficult.
The thing of living is a thing happy for tears to spill in it.
The thing of living is a necessary thing for you to meet.
Not forgetting, and this feelings...
『見送りに…来てくれたの?』
『……うん』
『でも私、貴方にあんなに酷い事言ったのに』
『いいんだ、君の言う事は間違ってなかったから。其れを責める資格はないよ』
『…、有難う……』
『でもひとつだけ、ひとつだけ君は間違ってたよ』
『え?』
『私は本当に君が愛しくて仕方なかったよ』
『…有難う……また、いつか会えるわよね?』
『うん、其の時はお互い笑顔でね』
『ええ』
『…さよなら』
『…さよなら』
握手を交わしてから、
伊音が乗り込んだ新幹線は扉が閉まる
そして発車ベルが鳴り響くと伊音と栞さんを乗せた新幹線はガタゴトと走り出した
其の姿が見えなくなるまで、私は駅のホームに突っ立っていた
駅の入り口の広場で聖と蓉子が待っていてくれてる
判ってたけれど、
私は其の場を動けずに
夕日が涙を零す私の頬をずっと照らしていた……
忘れないよ、貴女を好きになったこの気持ち―――――――――
「さん!」
以前と変わらない朝の風景
登校するなり声を掛けられ、
ニッコリと微笑みながら挨拶を返す
そして辿り着いた教室では仲良くなった友人達が集まってきた
其の子達の手の中には雑誌が収まっている
「これ、何故教えてくださらなかったの?」
「あぁ…今日発売だったんだ」
「吃驚したわ、本当に」
其の雑誌の表紙には大きな見出しで"薔薇の化身スペシャル"だなんて書かれている
こんなフレーズだとまるで化け物みたいだな、なんて1人笑ってみたり
最初の10ページ程カラーページで、
其処を占めているのは私の良く知った人々だった
この雑誌は江利子が専属している雑誌で、
其の中で江利子の周辺を探ろうという企画が持ち上げられたのだ
つまり江利子の周辺といえば累さんが居て
元専属モデルという事で累さんと江利子の仲は一番重点的に書かれている
そして何故か其処には聖と蓉子も居る
令も祥子も由乃も祐巳ちゃんも志摩子も乃梨子も居る
という事は当然私も居る訳で
聖については聖の店が宣伝されているし、
蓉子は蓉子の弁護士の事務所が宣伝されているし、
令も令の店が宣伝されているし、
祥子は特にないけれど
要するに此れを機に宣伝しちゃえばいいじゃない、という江利子の丸め込みによって、
聖達は渋々雑誌へ載るのを承諾したのだ
さすが人並み外れた美貌を持つ人々がトップを飾っているから其のページは派手な感じがする
1コマだけ聖の店の中に集う私達の画像があって、
其れを見た友人達や学校の人々が騒ぎ出しているという事だ
噂の旧薔薇様のお顔を拝見出来て盛り上がっているらしい
その集合写真の中の皆はお酒が少し入ってるせいもあってか、
とても和やかに微笑んでカメラ目線でいる
ふと私は友人の手から雑誌を取り、ハサミでその写真を切り取った
悲鳴をあげている雑誌の持ち主には後で買い直して返すから、と宥めて
そして切り取った写真を掲げて空を見る
太陽が紙を透かして、
私の目の中へ侵入して来た
一緒に侵入して来た皆の笑顔は
思わず私まで笑顔にしてしまう
皆の真ん中で楽しそうに笑っている自分が其処に居る
嗚呼、そうか
聖と蓉子
そして皆と居る時の私はこんなに幸せそうな顔をしているんだな
「私、幸せなんだね」
自分で口にしてみて
改めて自分の幸せさを実感する
夏は終わり、
肌寒い季節がやって来た頃の事だった―――――――――――
「も薔薇様って呼ばれる立場になるのかぁ」
「でもは姉妹は作らないと思っていたわ」
大人2人が感嘆のため息を漏らしながら私を見てくる
そんな2人に苦笑を返しながら首元に架けられてるロザリオを見やった
春一番の風が過ぎ去ってく
振り向けば
斜め後ろには聖と蓉子が居る
隣には友人達が居る
そして前には、私の大事な妹が居る
「白薔薇様…お姉さま、ごきげんよう!」
「うん、ごきげんよう」
Akaku somaru machi de
Kage wo hodou ni
Kaita futari wa
Doko ni itta no?
Sotto sugisatteku
Kisetsu no naka
Nokosareta
Boku dake...
Sunao ni
Yowasa wo miseru
Koto sae
Dekizu ni ita
Bukiyou na
Ai datta
Mou ichido ano toki no
Hutari ni modoreru no naraba
Mayowazu ni kimi no koto
Dakishime
Hanasa nai
Kuroku somaru yoru wa
Hiza wo kakaete
Kimi to ita hi wo
Omoikaesu yo
Kitto osanasugite
Miezu ni ita
Ai to iu na no
Imi
Ano toki
Mune ni tsumotta
Ikue no
Omoide sae
Oto mo naku
Tokete yuku
Mou ichido ano yoru ni
Imasugu modoreru no naraba
Satte yuku kimi no se wo
Dakishime
Hikitomeyou...
Katte na koto da to
Hyaku mo shouchi no ue da yo
Sugu ja nakute ii
Boku wa hitori de machi tsudukeru
Kimi to ita omoide ni
Yorisoi nagara ikite iru
Nasake nai boku dakedo
Ima demo
Wasurerare nai
Mou ichido ano toki no
Hutari ni modoreru no naraba
Mayowazu ni kimi no koto
Dakishime
Hanasa nai.....
fin