私はもう、恋なんてしないと決めた







恋なんて悲しくて、

辛くて、


其の他何物でもない




恋なんてしないわ

















大嫌いよ、貴女が


でも大好きよ、貴女が









大好きよ――――――――――――




























江利子に聞いてみようか



否、止めといた方がいいのだろうか





先程から私の視界を泳ぐ英文達は、

物事を伝える役割を果たしていない


脳まで届かない文字なんて只のミミズだ





今日も薔薇の館では会議をやっている

案の定私と江利子以外が真剣に取り組んでいて、
私は読書

江利子は隣に居る令の紅茶とは種類の違う自分の紅茶、2つを混ぜてみたりしている








…江利子は、まだ忘れられないのかな




の事


まだ、好きなのかな



あの日から江利子の口からの名が出た事はない

けれど昨日無関係の筈の蓉子の口から出た



其れは、やっぱり関係する事なのかな……











何を思ったのか、
其の時私が取った行動は後々に後悔する事だった

本をパタリと置いて向かいに居る江利子に声を掛ける







「ねぇ、江利子」

「何?」





令から必死に制止を喰らっていた江利子が、
其れを掻い潜りながら私へと目をやって来た

私は生唾を飲み込むと少し間を空けてからもう1度口を開いた







と連絡取ってる?」

「……」







一瞬で江利子の纏う緩やかな空気が張り詰める


私も思わず身を引いてしまうくらい、
江利子の目つきが変わった


其れまで江利子と私なんて無視して会議を続けていた蓉子達もふと其の異変に気づいて顔を上げる







「其の名前…呼ばないでくれる?」

「あ、ごめん。江利子からしたらそうだよね…」

「違うわよ、貴方の口から聞きたくないのよ」






江利子に言われて、
思い出したくなかったのだと思った私は謝罪の言葉を述べるけれど

江利子から返ってきた言葉は其れだった


想像を遥かに超えて刺々しい親友の言葉に私は口篭ってしまう








「江利子?」

「やっと…やっと手に入れたんだもの、貴方に奪われたくないの」

「何言って…」




「ねぇ、聖。に会いたい?」











江利子が席を立つ音だけが室内に響いた


室内の人々の視線を集めながら江利子は私を見下ろしてきて

其れはまるで威嚇をされているみたいで



けれど此処でまた昔の事を繰り返しては、

私と江利子は何時までも何処か余所余所しいままになってしまう



其れを一番望んでいないのは多分蓉子だ



蓉子も加わった私達は3人でいろいろと乗り越えてきたし、
蓉子からしてみたら親友3人組なんだろうけど




けれど実は其の中の1人は其の中の1人に引け目を感じているんなんて事


蓉子は思ってもいないだろう








だから、


だから私は気を引き締めて真っ直ぐと江利子の挑戦的な目に応えた













「うん、会いたい」











私がそう言ってからどれくらいの時間が流れたのだろうか


江利子はしばらく何も言わないままだった












とうとう痺れを切らした蓉子が何か言おうとした時、
其れを制するように江利子は再び口を開いた



















「そして、貴方はまたあの子の事を抱くだけ抱く都合の良い存在にするのね……」














其の時私の頭に一気に血が昇った


同じく立ち上がってテーブルを叩きつけながら叫ぶ

















「違う!!!私は!」



「違わないわよ!!卑怯よ、貴方って人は」



「何が!」



「周りの人を惹きつけておきながら自分は知らぬ存ぜぬを貫き通す事がよ!」



「なっ…」

















江利子は、何を言っているのだろう












だって私は……







きっと其の頃自覚していなかっただけで















に惹かれていたのは事実なんだ






















どうして、


どうして私は此処まで悪人扱いなのだろう










気がついたら身体中の力が抜けていて、

すとんと椅子に座り込んでいた


江利子はそんな私を見て、ひとつため息を吐いてから扉を潜り抜けて薔薇の館を出て行ってしまう









「何…今の」







隣に座っていた蓉子が怪訝そうな顔で私の肩を揺さぶり、問いかけてくるけれど
私は其れに応えてあげられる余裕などなくて

只、何時までも放心していた



蓉子の声によって会議は一応中断という事で皆切り上げていく


そして部屋に残った蓉子が甲斐甲斐しくも私の世話を焼いてくれた

珈琲を入れたり、
優しく声を掛けてくれたり



けれど塞ぎこんでいる私に蓉子はやれやれと肩を竦めた


そしてちらりと窓の外を見やった其の時、蓉子が息を呑むのが聞こえる










「あら…江利子、と……この間見た子ね」








何故だろう

別に確信なんてなかった
別に根拠なんてなかった


でも私は立ち上がり、蓉子の隣に立つと一緒に窓の下を見る




先程まで凄い剣幕でいた江利子が信じられない程屈託の無い笑顔になっていた


其の笑みを向けているのは

…え……?









…」


















どうして此処に?



どうして再びリリアンに居るのだろう?


だとしたらどうして今まで誰にも知られる事なく此処に居たんだろう?










私は急いで窓を開けると、

叫んでいたんだ



君の名前を













!!」





















一瞬身を竦めたけれど

まるで恐る恐るというようにゆっくりとした動作で振り返った彼女は、



あの頃と変わらない瞳で


あの頃よりも短くなった髪で





私を真っ直ぐに見上げてきた
















「………どうして此処に…」

















けれどは、私に向けて落ち着いた動作でそっと頭を下げると



隣にいた江利子の手を握って校門へと駆け出していってしまった


引っ張られて行ってしまう前に江利子の瞳が私を捕える
そして

今まで見た事の無い威圧感で私の心を鷲掴みにしていったのだ





そう、其の瞳に秘められたるは"憎しみ"


















また身体中の力が抜けていって

窓淵に掴まったまま其の場に座り込んでしまう







其の時、私は全てがわかったのだ


江利子の心でずっと燻り続けていたであろう気持ち


















の存在は私達の友情を揺るがす程に大きなものだった―――――――















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