私は何時だって部外者だった
私は何時だって部外者だ
どうして
少しくらいは私を巻き込んでよ
巻き込んで欲しくないと思っている時はは巻き込むくせに、
何時だって大事な時には私を巻き込まないようにする…
其れが貴女達の悪い癖よ――――――
手にしていた鞄を思わず落としてしまう
重力に従って地面へと堕ちていく其れを拾う人すら居ない
江利子は今何処に居る?
ついさっきまで薔薇の館で話していたではないか
今日はさんの家に泊まりに行くから、
だから仕事を残してしまわないように片付けておくと
心なしか嬉しそうな顔つきでそう言いながら珍しくも仕事に真剣に取り組んでいたではないか
手伝うと言ったけれど江利子は其れを断ったのだ
苦労した分其の後に待ち受けるものが倍に楽しく感じられるでしょう?と
なのに其の江利子を待っている筈のさんはたった今其処で
聖と談笑していた
詳しい事の成り行きは判らないけれど、
何となくさんを囲んで聖と江利子が険悪な雰囲気になっているのは感じている
きっと江利子はさんを聖に近づけないように気を張り詰めているのだ
聖はさんに会いたくて仕方がないと言っていたけれど
むしろ私は聖とさんが仲直りしてくれて、
江利子とも仲直りしてくれないかと望んでいた
でも
其の聖とさんは江利子に隠れて仲良くしていた
2人が醸し出す雰囲気は数年ぶりに再会した友達同士のものじゃなかった
数年ぶりに再会した恋人同士のものだった……
「其れで?」
「ふふっ、だから…」
「ちょっと止めてよ」
「ん〜」
「もう……絵描けないじゃない」
事もあろう事が2人は膝枕まで始めている
聖の方が少し強引な気がするけれど、
そんな聖にさんも困ったような笑顔を浮かべるだけで決して拒みはしない
スケッチブックを膝の上の、聖の顔の上に置いてスケッチを再開させるとしばらくして聖から抗議があがる
「もしもし、窒息死させる気かな?」
「あら、このスケッチブックが最初に居たのよ。この膝の上に」
「だからって全ての呼吸器官を塞がれちゃさすがの私も死ぬって」
「丁度いいじゃない、無呼吸最高記録を計ってみたら?」
「そのままぽっくり逝ったら洒落にならないよ」
「ふふっ」
「でもの膝の上で死ねるなら本望だったりして」
「貴女は馬鹿な事ばかり言うのね、全然昔とは違うわ」
「昔と比べて馬鹿になった、みたいな言い方するじゃない。一皮剥けたって言って欲しいな」
「そうね、いいえ…一皮どころか何皮も剥けたわよ」
「そう?」
「ええ」
夕方の日差しを受けながらそんな語らいを繰り広げる2人から私は目を逸らしてしまった
聖が可哀想で、聖の肩を持っていたけれど
今は江利子が可哀想で仕方ない
どうして?
私達が親友として居られた日々を…
返してよ、さん…っ
返して……――――――――――――
「あら、蓉子?」
其の声に顔を上げると、やっと仕事を終えたらしい江利子が少し息を乱れさせたまま其処に突っ立っていた
何も言わない私を不思議に思ったのか江利子は私の傍へやって来ると、
地面に落ちていた鞄を拾い上げて
私の肩に手をやる
「どうかした?」
「……」
親友として自分を心配そうな顔つきで訪ねてくる江利子を見ていると、何だか涙が零れて来た
「ちょっ…蓉子!どうしたのよ!?」
慌てた江利子は私の頬に指をやって涙を拭ってくれる
けれど其の親切も仇となり、涙は留まる事を知らずに後から後から零れて来た
「江利子っ…」
「ん?」
「……っひっく………ぅ…」
「どうした?」
何とか彼女の名を紡ぎだすものの、
其の後の言葉が形を成さない
押し寄せてくる嗚咽に江利子は仕方ないわねと笑いながら私の頭を抱きかかえてくれた
そしてまるで小さい子をあやすようにぽんぽんと後頭部を優しく叩きながら私が落ち着くのを待っていてくれる
「はいはい、まずは落ち着きなさい」
「…うぅっ…」
「私はずっと貴女に付いていてあげるわよ」
江利子の優しさが哀しい
きっとさんにもこうやって、
いや、これ以上に優しく接しているのだろう
なのにどうして
さんはこの温かい手を振り払ってしまう事が出来るのだろう
さん、貴女は贅沢だと思うわ
江利子の優しさ
聖の優しさ
どちらも手に入れようとするのね
どちらも、私から奪っていこうとするのね…
「…何、してるの?」
再び背後からかかる声に
私は顔を上げて振り返る
すると其処には怪訝そうな顔をした聖が居た
そして私が泣き顔なのに気づいた聖はぎょっとしてから気まずそうに頬を掻く
「もしかして、お邪魔だった?…ごめん」
本当に見てはいけないものを見てしまったというように、
困った顔で視線を泳がす聖に私は江利子から離れた
そして江利子の手を握り、
聖を見据える
「聖、ちょっとこっちへ来てくれる?」
「?」
何?と近付いて来る聖の手も空いている手で握ると、
途端に不愉快そうな顔つきになる両側の2人
「ちょっと蓉子」
「…どういうつもり?」
両側から同時に聞こえてくる声に私は2人の手がすり抜ける事のないよう握っている手に力を込める
「江利子、聖……」
風がひとつ
私達の髪を揺らしてく
リリアンの夕方は
何とも言えない空気を運ぶ
銀杏並木の下で私達は綺麗に三角の形を描いて立ち竦んでいた
「私達は、全校生徒からの憧れの薔薇様でしょう?」
「…………」
「…………」
「祥子や、あの子達からの憧れの親友関係でしょう?」
「…蓉子」
「……」
「私は嫌よ、こんなの」
「………」
「………」
「どうして後から来たさんに…っ」
嗚呼、また涙が溢れてくる
自分がとても厭な人になっているのは判ってる
でもこうでもしないと私は息が詰まって死にそうなの
両端で2人とも目をしばしばさせながら、
小さい子どものように泣きじゃくる私を放心して見ていた
しばらくして江利子が小さなため息を漏らして私の手を握り返してくる
「…ふぅ……聖、話してもいいわよね?」
「……そうだね」
「むしろ話さなきゃいけなかったわ、ごめん。蓉子」
「…ごめんね、蓉子?だから泣かないで………」
2人の親友達が気を使うように私の体を抱きしめてあやしてくれる
両端から抱きしめてくれる2人の腕が力強くてとても頼りになる
私が再び落ち着いてきたのを見計らって、江利子は私から離れると聖に私の鞄を渡してから告げた
「ちょっと、待たせてる人が居るから断ってくるわ。今日は蓉子の家に行きましょう」
「………うん」
判ってる
ずるい
私も聖も江利子が必死に働いて駆けつけようとしていた人物を判ってる、知っている
でも私達は何も言わない
江利子の姿が遠くになっていくのを眺めている聖の胸から顔を上げて、
私は呟いた
「…さんと和解出来たようで何よりだわ」
「………見てたの?」
「……」
「そっか……」
何時に無く言葉が少ないのは、後ろめたさがあるからだと思う
私の言葉にも棘があるのはきっと気のせいじゃない
「あのね」
「うん?」
「本当に全部話してくれる?」
「…うん、当たり前じゃない」
「………ありがと」
ふふっと笑いながら私の頭を撫でてくれる聖
今更恥ずかしくなってきた私は顔を聖の肩口に埋めて只一言お礼を述べた
あ、と聖が顔を上げると江利子が戻ってきたようだった
私は慌てて聖から離れると江利子の方を見やる
「お待たせ」
にっこりを笑みを浮かべてはいるけれど本当は帰したさんの事が気になっているのだろう
「さぁ、行きましょうか」
そう言って両端を歩き出す2人
2人の背中を見ながら其の後ろを付いていくと、
ふと視線を感じて後ろを振り返った
其処には遠いけれど向こうの方であのさんが此方を見ていた
そして私と目が合った事に気づくとこの前のように小さく一礼をしてから踵を返して私達とは反対側へと歩いていく
さんは、まるで私の中では悪役のような存在になっているけれど
決して憎いとか酷いとかそういう感情は湧かない
ずるいとは常に思っていても、さん自体を貶すような事を思った事はない
何故?
其れは自分でも判らない
でももしかしたら、
彼女はまだ私達が知らない大きな秘密を抱えているのかもしれない…―――――――――――――
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