揺れる揺れる
リリアン女学園
そして
揺れる揺れる
ゆらゆらと
一人一人の心が―――――――――――
その後シスター達が騒ぎを聞きつけて集ってきた
そして黒板を消し、
騒ぎの収まらない生徒達を嗜めるけれど
純粋無垢な生徒達は其れが事実なのかどうか質問砲火をシスターへと浴びせていた
此の侭では収集が尽かないと判断した学園側は、
其の騒ぎの元を生徒達から遠ざける手段を取った
「3年藤組 佐藤 聖さん」
「3年菊組 鳥居 江利子さん」
「1年桃組 さん」
"職員室へ"と
何故学園長室ではないのか疑問に思った生徒達も多数居たが、
けれど直ぐに其れは明かされた
学園長室には事の成り行きの事実を問い詰める教師達が集っていたのだ
高等部の教師達の一部はという生徒を理解はしているものの、
彼女の出席する授業を担当していない教師、
中等部、小等部、幼稚部の数名の教師達が事実の確認を求めていた
聖曰く「あそこに集まった教師達はリリアンの歴史は古風のままなのが綺麗だと思っている頭の硬い人達なんだよ」、らしい
其の聖も今は渦中の人物であり、
教室の入り口で黒板を見たまま立ち尽くしていた足を職員室へと向けた
其の隣の教室の江利子も同じ様に職員室へと向かった
2人は廊下でちらりと目を合わせたが直ぐに互いに逸らす
そして一番の渦中の人物、は何故か至極冷静に苦笑など浮かべていた
「さん!呼ばれてるよ…」
祐巳の腕を引く感触にはゆるりと顔を上げて、
やれやれというように教室を出て行った
彼女の背中を見守りながら祐巳は同じくクラスメートであり山百合会の仲間でもある志摩子が駆け寄ってくるのを気づかずに居た
「祐巳さん……」
「…ごめんね、志摩子さん」
「祐巳さんが謝る事じゃないわ」
「………でもね、此れだけは言わせて。さんは聖様と江利子様を玩ぶなんて」
「判ってるわ、一応私もさんのクラスメートだもの」
「…どうしてこんな事にっ…」
ギュッと鞄を持つ手を握り締める祐巳を志摩子は苦痛そうに見つめている事しか出来なかった…――――――
「……」
「……」
「おはよう、2人とも」
職員室の前で鉢合わせた3人は静かな空気のままで
口を開こうとしない聖と江利子に比べては呆れる程に明るくいつも通りに2人に挨拶をする
江利子はそんなを見るなり彼女の腕を引いて聖から遠ざけて、
聖には聞こえないくらいの少し離れた位置まで来ると耳打ちをした
「どういう事よ?」
「え?」
「あれだけ私が必死に聖から貴女を守っていたのに…ちゃっかりと自分は私に隠れて感動の再会をしてた訳でしょう?」
「そんな事ないわよ、聖とはたまたま会っちゃって逃げも隠れも出来なかったんだもの」
「っつまり聖に強引に、という事ね?」
「…江利子」
悔しそうに唇を噛むと、
の顔の近くにあった顔を離れた所で窓の外をぼーっと眺めていた聖へと向ける
「聖!」
「ん?」
「貴方、に何をしたのよ!?」
「…え……」
相変わらずぼーっとしたまま受け答えする聖にイラッときたらしい江利子は聖の腕を掴む
「近寄らないで、傷つけないで、ってちゃんと言ったじゃない!」
「……でも…」
「貴方…まさかの事あの頃のように抱いたりなんかしてないわよね…?」
「な…」
ぱんっ
身の覚えの無い言いがかりをつけられ、
思わず言葉を失ってしまった聖を見て江利子は違う解釈をしたようだった
直ぐに乾いた音が無人の廊下に響く
「江利子!」
興奮のあまり肩で息をしている江利子と、
叩かれた頬に手をやりポカンとしている聖の間にが割り込んだ
そして、其の背を向けている人物こそがが大切にしている存在だと
説明されなくてもわかる事だった
彼女は、聖に背を向けて
江利子から聖を守るように聖を自らの背に庇ったのだ
「どうして……」
「違うのよ、江利子。私は聖と昔のような関係なんて取り戻していないわ」
「……っ…」
「今の私は本当に貴女が大切で、大好きなのよ!」
「…っ"大切で大好き"なのは私で、"愛してる"のは聖なんでしょう!?」
が気づいた時は手遅れだった
江利子は唇をわなわなと震わせ、両目には涙が滲んでいた
彼女は叫んだ
生まれて初めて心から"好き"だと"守りたい"と"愛している"と思えた目の前の彼女に
悲痛の叫び声をあげた
「どうして貴女はそっち側に着くのよ!!!??」
只、相手が好きだった
只、其の相手が自分を見ていなかった
只、只其れだけの事…
でもね、其れは私にとって大きな事なの
手に入れたと思ったら容易く私の指をすり抜けていってしまう貴女は、
まるで砂のような存在ね
そして差し詰め聖は水という所でしょうか
貴女を固形にさせて自分の元へ留まらせる事が出来るの
其れに比べて私は、水も砂さえも無ければ生きていけないひ弱な生き物なの
其れが人間なのよ
私の愛した人は、
私の大切な友人は、
私と同じラインに立っていなかった―――――――――
「私は貴女と同じラインに居るわよ」
まるで何処か遠くから聞こえるような蓉子の声に私は再び涙が溢れてきた
嗚咽を止める事が出来ず
古い温室で今だけは、と親友の胸を借りて泣きじゃくって
あの場に置いて来た2人は今頃どうしているんだろう、と
障害物がなくなって堂々と愛を育みあっているのだろうか
其れとも糞真面目に私が居ない事を職員室の先生方に咎められているのだろうか…
どっちにしろ、私は彼女達と昔のような関係は保てない
何故なら私から断ち切ってしまったから
そう思うとどんどん涙は頬を伝い
まるで私は泣き止む事を忘れてしまったようだった――――――――――
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