聖という名はとても美しいと思った
初めて其の名を耳にした時、頭の中にメロディーが流れた
聖はクリスマスは嫌いだと言うけれど
私は好き
だって聖が生まれた日でしょう?
クリスマスがなければ聖は此処に居ないもの
ありがとう、聖
生まれてきてくれて
私と出会ってくれて
なんて詩のような淡い想いを浮かべてシェイクスピアを読んでいたのは昔のこと――――――――
ばさり、と
紙状のものが放られる音がした
でも最初は私も気に留めてはいなかった
何故なら此処は図書室だから
けれど其れが何度も何度も聞こえたらさすがに気になった
読んでいた本を閉じて
お聖堂が見える窓の傍の席を立ち、其の音の方へと向かう
其処はいつもお世話になっている洋書コーナー
見覚えのある背中が見えて私は思わず息を呑んで身を潜ませてしまった
棚越しに其の背中をそっと見守ると、
彼女は其の洋書コーナーにある本を1冊1冊手に取り、物色して
そして床へと投げ捨てていた…
「……何やってるの…?」
彼女の名前を呼んでも彼女は応えない
只一心不乱に本を1冊ずつ投げてゆく
心配になって私はの肩に手をやり、顔を覗き込む
其の顔を見て私はもう1度息を呑んでしまった
何も見てない
鬱な瞳
何も写していない
私はいつも綺麗に優雅に振舞うしか知らなかったから
「」
バサッ……
「!」
…バサバサッ…
「!!」
バサ!!!
…っ駄目だ……
江利子は
江利子は何をやってるんだ…
辺りを見回しても居る様子は無い
どうすればいいんだろう
恐らく、きっと
江利子はこういう状態のは初めてじゃないと思う
でも私は初めてだ
だから、どうすればいいのかわからない……
「こ…なの…ばっかり…わ」
「……え?」
上手く聞き取れなかったためもう一度聞き返すと
はもう一度小さな声で呟いた
「こんなの嘘ばっかりだわ」
「何が?」
「こんな美しい恋愛なんて、存在しない」
「…どうして」
するとの目から涙がぽろぽろと零れてくる
頬から伝わり落ちた涙を目で追うと、一筋の血がスカートの下から見えた
しゃがんで失礼ながらもスカートを少し捲ると其の血が溢れ出ている両膝が現れる
「、何これ」
「………転んだのよ」
「何で?」
「……」
「何か、されたの?」
「………」
しばらく黙り込んだ後
は手にしていた最後の本を思いっきり振りかぶって床に叩きつけた
「だから嫌だったのよ!!だから私は静かにひっそりと過ごしていたのよ!!!!!」
其の本の最後尾に備え付けられている図書カードが
叩きつけられた衝撃で飛び出し、宙に舞った
其れを取り、見ると
私の名前の前に
の名があった
気になって床に散らばっている他の本の図書カードを散策すれば
どの本にもの名がある
別に好きじゃないシリーズにまである
ゆっくりと立ち上がり手にした数枚図書カードを眺めながら私はに微笑んだ
「嘘だ」
「っ何が…」
「本当は気づいて欲しかったんでしょ?」
「……っ…」
「江利子でもいい、私でもいい…誰かに…自分を知る誰かに気づいて欲しかったんでしょ?」
でも、江利子は気づかなかった
この図書カードでは気づかなかった
聞くところによると朝登校している時にたまたま見かけただけだという
は、きっとこんな事をしているけれど誰よりもロマンチックな展開を求めていたのだろう
只の紙切れでしかない図書カードで結ばれる人と人の絆
まるでロミオとジュリエットのように
シェイクスピアの描く世界のように
「遅くなってごめんね。"おかえり"、」
再びの両目からぼろぼろと涙が溢れ出す
其れは留まる事を知らずに勢いを緩めない
私の身体に縋りつくように泣きじゃくる
其の小さな身体を私は精一杯の愛情で受け止めた
「苦しいのよ、辛いのよ、悔しいのよっ……!」
「…うん」
「助けて、聖…江利子じゃ駄目なのよ……」
貴女に出来る事を私には出来ない
私に出来る事を貴女には出来ない
だから貴女は貴女に出来る事をやって
私は私に出来る事をやって
補っていけばいいのよ、お互いに
そうやって人は助け合い、愛し合っていく――――
この星空が
こんな切ないのは
このどれかに
君が
居るからなのでしょう
君が居なくなった
何もかも無くなった
目に映るものが
全て色を失った...
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