手遅れ、なんて
そんなの
有り得ないと思ってたわ
普段当たり前に目の前に存在していた物だったから
いつでも私の手の内に戻る、と
そう思っていたの
でもね
判ってたわ
聖は私の元へ戻してはいけないと―――――――――
かしゃん
カップが机に落ちた
其れを手にしている主はポカンと口を開けていた
けれど其の人物だけではなく周りも呆気に取られている
「何よ、それ…」
ぽつりと呟く江利子に、
向かいに座っていた聖はニコリと微笑み返す
「だから、私と蓉子付き合い始めたの」
「…蓉子」
「……」
聖だけでは話にならないというように蓉子に目をやると、
蓉子は困ったようにはにかんでいるだけだった
彼女の妹達がはらはらとしている間
江利子は先程机へと落下したカップを握り締める
「なんなのよ、それ…聖、貴方のことはどうするのよ!」
その台詞に聖はしばらく黙り込んだかと思えば、ふっと鼻で笑った
「何で?私元々関係ないじゃん」
「なっ…」
「私には蓉子がいるから、もう君達には関わらないよ」
「貴方其れ本気で…?」
「うん」
ニコリと頷く聖に
江利子は何かを堪えるようなため息を吐いてから
蓉子をもう1度見た
本当にこれでいいの?と
伝わったかは判らないけれど、
蓉子は何も言わずに私から目を逸らす
この空気に耐えられなくなったのか、
会議を始めましょうと告げて
微妙な空気のまま会議が始まろうとしている
その時聖から江利子にだけ聞こえるように一言、話しかけられた
「…に……宜しく、ね」
「…………」
江利子は顔を聖から逸らして、
無視をした
返事をしてしまったら其処で何かが終わってしまうような気がしたのだ――――――――――
「江利子?元気ないわね、どうしたの?」
「…そんな事ないわよ」
固まりつつある表情を無理やり和らげて隣に居る少女の頭を撫でる
すると少しは安心したのだろうかは目を細めて甘えるような仕草をしてきた
発作を起こしている時の影なんてこれっぽっちもちらつかせない可愛い恋人に、私の口角も釣りあがる
こんな愛しい子に
聖が蓉子と付き合いだしただなんて…
私は言えないわ
とても、言えないわ…
「ね、日曜日に楓を連れてお墓参りに行かない?」
「ええ、いいわよ」
私が頷けば、
彼女は本当に嬉しそうに顔を歪ませる
「ねぇ、」
「なぁに?」
「聖のところへ行きたい?」
「…え……」
「聖とやり直したい?」
「江利子…何言って……」
其の笑顔を自分で壊すなんて
嗚呼、私は
愚か者ね
この温かい幸せを自分で壊そうとするなんて
「私ね、正直言って…疲れたわ。貴女の面倒を見るのは」
「なんで…そんなこと言うの……」
信じられないと顔を横に振り続けるの顔から笑顔が瞬時に消え去る
そして反対に両目に涙が現れ、
私の心を締め付ける
聖は、もうを其の手に抱きしめるのを諦めてしまった
は、もう聖を其の手に抱きしめてもらうのを諦めてしまった
ならこうするしかないじゃない…
私は、聖ももどちらも大事なのよ
それに、此の侭じゃ蓉子が可哀想過ぎる…――――――――
銀杏が散り始めている
私達の心を現像しているように
もう、そんな季節なのね
冬の気配が直ぐ後ろまで忍び寄ってきている
それなのに私達は
こんなちっぽけな私達はこんな処で何をしているの?
「蓉子、見て。綺麗だよ」
「ええ、そうね」
目の前で落ちてくる銀杏の葉を子どものように無邪気に拾い集めている聖に私は相槌を打つ
けれど時々手が止まり、
1枚の葉を拾い上げて何か考え込んでいるようで
私は其れがあえて何なのかは聞かない
だって
きっと
さんと同じ様に
聖の中でも決着がついてない事があるのだろうから
「聖」
「ん?」
「本当にこれでいいの?」
「…私は蓉子が大好きで、とても大事だよ」
「其れは"愛してる"には結びつかないんでしょう?」
聖は
否定はしなかった
けれど肯定もしなかった
ただ微笑んで私にキスをしてきた
聖に訊く前に、尋ねるべきだったわ
自分に
私は、本当にこれでいいの?
自分を欺き、
相手を欺き、
貴女も、
あの人も、
全てを欺き
其の先に待つものは、幸せではないわ
聖
江利子
私達は
いつからこうなってしまった?――――
そろそろ日が昇る
街がざわめき出す
そして広がってく
無色の世界が...
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