貴女はあっちを見ている



私はこっちを見ている








その視線が交じ合う事はもう無いの…?――――――――――





















と鳥居江利子が別れてから1ヶ月が経った




リリアン女学園は本格的な冬に包まれていた


コートに手を突っ込み、手を温めようとしても

自然はそう簡単には許してはくれない




其の手をどうやって温めるのか



其れは自分で息を吹きかけながら温めるのか


其れとも愛する人に包み込んで貰ってお互いの体温で温め合うのか









私にはもう私を愛してくれる人は居ないから




私の手はずっと冷たいままなのよ















「江利子」

「…何?」






放課後に薔薇の館へ行くと、
まだ後輩達は来てないようで

江利子が1人で窓の近くに椅子を運び其処に座り、ぼーっとしていた


その江利子に声を掛けると憂鬱そうに彼女は顔を上げた



私はずっと気になっていた事を尋ねる事にしたのだ







さん、最近見かけないけれど学校に来てるのよね?」

「……知らないわ」

「知らないって貴女も会ってないの?」

「会う理由がないもの」

「え?」

「…別れてるから、1ヶ月前に」

「え!?」








私は思わず息を呑んだ


まさか、そんな事になっていたなんて

其れに1ヶ月前といえば自分と聖が付き合い始めた頃ではないか




黙り込んでしまった私を見てどう解釈したのか、

江利子は目だけこちらにやってフッと微笑んだ





「言っておくけれど貴女のせいじゃないわよ?」

「あ…そんなつもりじゃ」

「私との絆が危ういものだったのよ、既にね」

「………でも多少なりと原因ではあるでしょう?」

「……いいえ」








ないわ、と



江利子はゆっくりと首を横に振って否定してきた


私は





机の上に置いていた鞄を握っていた手に自然と力が入る














「聖…」

「うん?」

「聖は、この事知ってるの?」

「…いいえ、言ってないもの。言わない方が良いと思うけど」

「どうして?」

「聖を自分の手の中に掴んだままにしときたいならそっちの方が賢明だと思うわよ」

「私はっ……」





私は?


何を言おうとしたのだろう

言いかけてふと口を紡ぐ




私は、聖の事が好き?


ええ、好きよ

でも…



其処までして聖を繋ぎとめておいても…意味はないじゃない



聖はもともと私を見ていない事など昔から判っていたわよ


其れでも付き合おうって言ってくれた時の聖は、
どうしても放っておけなかったの

何故あの時私は聖の手を取ってしまったのだろう


もし取っていなかったら、

今頃さんと幸せに過ごしていたかもしれない




私が、私が悪いの…?









「これも言っておくけれど、悪いのは全部聖よ」

「…え……」

「はっきりしないあの優柔不断な聖が悪いの」

「そんな事…」

「私からを奪おうと思えば奪えた筈よ、でも私を裏切る事は出来ない無駄な優しさからそうはしなかった。馬鹿なのよ…」








江利子は、最後の台詞だけ


何かを堪えるかのように搾り出すかのように呟いた










…なん……なのよ………








私も、江利子も……さんも


貴方に振り回されてばかりよ






ねぇ、聖



貴方はいつだってそう

周りを巻き込んで



自分のやりたいように、振舞ってるわ


けれど周りはそんな貴方を放っておけないの

だから貴方の周りには確かな、絆が出来る



とても性質の悪い、ね









窓淵に肘を置いて、窓の外を眺めている江利子がとても小さく見えて


そのうちに消えてしまいそうなくらい儚い存在に見えて




私はテーブルを半周して江利子の傍に寄り、

背後から彼女の肩を抱きしめた













「いい加減あの悪友に幸せになって貰わないと私達がいつになっても幸せになれないわね」


「…ふふっ、そうね」














そろそろこの物語に終止符を打たないと―――――――――
























江利子と別れて


聖が蓉子さんと付き合い始めたと知って





私の心はあの頃のように空っぽになっちゃった


何をしていても

決して満たされる事のないこの心




教えてよ、この心の隙間は誰が埋められるの…?



















……もういい














もう、考えるのは疲れたわ








もう、何もかもがどうでもいい………
























ぱちんっ









私の中で、何かが音を立てて消えた――――――
































「おかあさん」




楓のお迎えに来た時


いつもなら保育園の砂場で遊んでいる筈の楓が何故か門の所に居た

目を見張って、もう一度見るけれどやっぱり楓は其処に居た



良く見れば楓の隣にしゃがんでいる人が居て、

彼女は驚愕して私を見ていた






「…っ……?」






見覚えの無い人で、

とても綺麗な人だった


けれど彼女は何故か私の名前を知っている



理由は判らないけれど、
私はニッコリと微笑んだ


あの楓が懐いているのだから悪い人では無い筈




其れに彼女は私と同じリリアンの制服を身に纏っている










「こんにちわ、楓と…遊んでくださっていたのですか?」

「あ…」

「はじめまして、私はリリアンの1年桃組と申します」

「…え…?」

「貴方のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」




















君と会わなければよかったと





後悔する日さえあった

そして今この世界から



星空に向かって飛び立つ









やっと会えるね...





























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