ずっと傍に居ると
あんなに誓ったのに
今はもう手の届かない所へ行ってしまった貴方
どうかお願い、もういちど
どうか笑い、かけて欲しい――――――――
馬鹿馬鹿しい
こんな上辺だけの笑顔と会話なんて
私はこんな所で一体何をしているんだろう
包帯の巻かれた左手をもう一度、ぎゅっと握り締める
少しだけ、刺すような痛みがした
何処か戸惑いつつもと話をしている蓉子と江利子を見つめる
も、貼り付けたような嘘の笑み
こんなの
こんなの
じゃないっ…
君は、誰なんだ………――――――
「馬鹿みたい…」
「え?」
私の呟きにがきょとんとして首を傾げる
けれど私のこの燻りは止まらない
「馬鹿馬鹿しい…出て行って」
「ちょっと、聖」
蓉子が制止の言葉を投げかけてくるけれど
もう握り締めた手は緩まない
「出てってよ、お願いだから…もう誰も、誰も見たくない!」
涙が、白いシーツを染める
ぽたぽたと
一度溢れ出した涙はもう止まらない
上半身を埋めて、声を押し殺して泣く
きっとは訳がわからないという顔をしているのだろう
きっと蓉子は悲しそうな顔をしているのだろう
きっと江利子は呆れた顔をしているのだろう
どんな顔でもいいから
もう、
これ以上私に近寄らないで…っ
「聖、さん…何処か痛むのですか?」
「……」
「痛むのでしたら、看護士さんを…」
「出てけというのが判らないの!?君の顔を見たくないんだ!!!」
「っ…」
嗚呼、私を記憶から失っていても
其れでも優しい言葉をかけてくれる、君に辛く当たってしまう
ごめんね
でももう、其れに耐えられる程私の心には余裕がないんだ
「あの、私…何かお気に障るような事をしてしまいましたか?」
「……」
「でしたら、本当に申し訳ありません!」
「…違うよ……そんなんじゃなくて…」
私は、君が特別な人なんだ
そして、きっと君は私が特別な人なんだよ
もう、判らないの…?
そう言うと
は目を見開いて
けれどやはり何の話をしているのか理解出来ないと、目をキョロキョロさせていた
苛つく
私だけがこんなに悶々としていて…
「えっと…この間会ったのが初めて、じゃないんですか?」
「そう、思う?」
「……あの、ごめんなさい…」
「…………そう」
失笑が漏れる
何だか
体中の力が抜けていく
もう…いいや……
そう言って聖は、再び深い眠りに入ってしまった
さんは混乱しているようで、
江利子と目配せをして互いに其々引き受ける
私は聖に付き添って
また目が覚めた時に傍に居てあげたい
江利子はさんに付き添って
彼女の記憶に探りを入れたい、そんな処だろう
思っていたよりも、先は険しそうだった―――――――――
考えるのに疲れて
悩む事さえ放棄してしまった人は
脳を働かせたくなくなる
すると人を襲うのは並外れた睡魔
聖を襲ったのは其の睡魔である、と
専門家の先生はそう仰っていた
先生の仰る通り聖はそれから、
ふと起きると数分だけ中身のない会話をしてから
また死んだように眠るという日々が続いた
私も江利子も、
祥子達も多少の戸惑いは隠せなかった
毎日病室へ言っても
寝ているか
起きててもぼーっとしているかのどっちかで
さんもあの日以来来る事はなかった
誰よりも互いを想い合っていた2人が
其の相手に潰されそうになっている…
こんな悲しい事があっていいのでしょうか?
聖は、眠っている時
時々綺麗な顔に涙を走らせて
さんの名を呼ぶ―――――――
「…」
おかあさんは
ねむっているとき
ときどき
ないて
あのおねえちゃんのなまえをよぶ―――――――
「聖…」
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