もしかしたら、
それは運命だったのかもしれない
もしかしたら、
それは一目惚れだったのかもしれない
あの日から貴方は私の心を掴んで離さないのよ
これを恋と言わずに何と言うの?
ねぇ、教えてよ
その名前を聞いたのは、可愛い妹達の口から
いつもと違って異様な空気の2人に、
問い詰めてみた所すぐに口を割った妹
由乃ちゃんと、祥子と話をしている中で私何だかつまらなくて
つい興味を持ってしまったのよ
って子はどんな子なんだろう…って
そして一番惹かれたのが、
犬発言
『『友達って言うか………犬?』』
何!?
何なの、その子は!!
人間!?
と、まぁ不覚にも引き寄せられてしまったのよね
そして第一印象は、
子猫だったわ
周りを警戒している、小さな小さな子猫
聖もそんな事を言っていたわ
『あれ、何で令ちゃんここにいるの』
『え?』
令の腰に纏わりつきながら、
その子が場所も時も場合も忘れて放つ言葉
『だってここ女子高でしょ』
『『『ぶっ…』』』
『やっぱおった!由乃!こっちも相変わらず令ちゃんに金魚の糞ごとく付き纏ってた』
『『『あははっ』』』
どれもが私の想定外で
どうしてもをもっと知りたいと思ってしまったの
貴方はどんな事をして私を楽しませてくれるの?
さぁ、もっともっと
私を楽しませて頂戴
なんて考えていたって事知ったら、
今は貴方は軽蔑の眼差しで私を見るでしょうけど
ふふふっ
どうしても気になって、
由乃ちゃんに昼休みに薔薇の館に連れてくるように言ったわ
しぶしぶ了解するのを尻目に、
聖と蓉子とほくそ笑み合ったっけ
これから卒業までしばらく退屈しないで済みそうだと
でもただの退屈凌ぎなんかじゃなかったわね
ごめんなさい、
これだけは謝るわ
貴方の過去は、
貴方の背負っていたものは、
決して退屈凌ぎなんかで補うものなんかじゃなかったわ
『鳥居江利子よ、宜しく』
『宜しくはしないですけど、まぁ、どうも…』
口ではそんな事を言っておきながら、
礼儀として一応頭を下げる彼女に少し驚いた
『念のために言っておくけど、私はここにいる皆さんと仲良くなったりするつもりないんでそこんとこ胸に刻んどいてください』
…何、この子
その時私が思った事は
無礼な後輩に対する怒りなんかではなく
更に興味を得たのよ
人を遠ざけようとしているけれどね、
まるで捨てられた子猫のような瞳をしていれば、
少なからずも皆貴方を気にするわよ
貴方の心を覗きたがるわよ?
まだまだ、ね
そうね、例えば…
世話焼きな蓉子とか
鏡を見てる気分のような聖とか
放っといてくれないでしょうね
もちろん私も放っておかないわよ
聖から聞いて、
すぐに教室を飛び出した
の剣道姿を見に、ね
そして想像通り令と打ち合う貴方は、素敵だったわよ
きっとここに居る皆貴方に見惚れていたのよ
絶対に
聖と蓉子と出した結論は、
蟹名 静に全てを聞く事
重々しくその口から紡がれた言葉は私達の良識を遥かに超えていた
『は覚えていないんです、数日前の出来事も、1時間前の出来事も、1秒前の出来事も』
まさか、と聖と蓉子と顔を見合わせたけど
心の何処かではそれで納得していた部分もあったかもしれないわね
『いえ、正確には少しずつ全てを忘れていく病気なんです』
そんな病気あるんだ…
そういえば聞いた事はあるわ、似たような話
ボクサーは試合中の衝撃で脳の一部を破損して記憶を失くす事があると
兄貴達に教えて貰ったんだけどね
状況は違えどまさか身近にそんな人がいるなんて…思いもしなかった
ねぇ、
貴方は家族と一緒に死にたかったと言うけれど
それは違うわよね?
ただ1人きりの世界から抜け出したかったのよね?
その時周りにはもう祥子も誰も居なかったから…
だから両親の居る所に逃げたかったのでしょう?
ねぇ、
貴方は暇つぶしに人を抱いたと言うけれど
違うでしょう?
例えそれがどんな形であろうと、
側に誰か居て欲しかったんでしょう?
もし例えその時私と出会っていたら、
必ずしも抱かなかったんでしょう?
別に私はそれを望まないんだから
貴方は不器用なのね
私みたいに上手く世の中をかいくぐって生きられれば楽でしょうに
立ち塞がる壁にことある如くぶつかって行ってしまうのね
じゃあ、
そんな事にならないように私が手助けするわ
身体中に刻まれた傷にそっと触れてみた
「………っ!?」
驚いた顔で私を見るに、私はただ微笑むだけ
眠気は既に吹っ切れたのか、さっぱりしたその表情が
曇る
「…気持ち悪いよね、この傷だらけの身体」
「いいえ」
「え?」
そんな事気にしなくていいのに
湯船で向き合ったまま私はまた微笑んであげる
「綺麗よ、は。凄く…」
「何言ってんだ、アンタ」
…やっぱり自分の容姿に自覚はないのね
「じゃあ言葉を変えるわね、格好いいわ」
「………はぁ?」
「ブラックジャックみたいで」
「…あははははっ!!!何を言うかと思えば!!!!ははははははは」
狭い室内にの爆笑が響き渡る
先程クラブで見せた恐ろしい顔や、
最近までの冷たい表情はもう無かった
今はとても柔らかく自然に笑えている
良かった
安心が胸を埋め尽くした
もしかしたら、
明日には私達を忘れているかもしれない
私達を前にこんな風に笑ってくれる事もないかもしれない
…でもね、私は誓うわ
例え世界が貴方を拒もうが、
私は貴方の側にいるわ
だから貴方も…
せめて少しでいい
少しでいいから私達の事を心の何処かに置いておいて
悲しい時は泣かせてあげる
嬉しい時は笑わせてあげる
怒っている時は怒らせてあげる
止めて欲しい時は止めてあげる
貴方の望む事は何でもするつもりよ?
だからその笑顔を失くさないで、いつまでも
の両頬に手を添えて、額を小突いた
不思議そうにしていたその顔も、次第に嬉しそうに微笑む
多分お母さんにして貰っていたのだろう
「もう私は大丈夫だよ、幸せだから…」
「もっともっと貴方の知らない楽しい事を教えてあげるわよ」
「楽しい事…?」
「だからずっと私達の側に居なさい」
「………………うん」
教えてあげるわ
人生は苦しい事ばかりじゃないって事
多分皆も同じ気持ちよ
だから……
next...