「…何で急に朝礼が開かれる訳?」
「仕方ないわよ、急遽転校生が来るって決まったんだから」
「普通転入試験とかあるじゃない、急遽なんて言っても多少は話あるでしょ」
「何かいろいろあったみたいで第一試験の面接だけで受かったらしい異例らしいわ」
「ふ〜ん」
聖は眠そうに欠伸をかみ殺しながら隣でシャンと立っている蓉子に尋ねた
欠伸をかみ殺している聖に呆れながら蓉子はそれにちゃんと答える
その隣で江利子が興味あるのかないのか何とも気のない相槌を打った
体育館の舞台の上で聖達はパイプ椅子に座っていた
目の前に広がるリリアン全学年の生徒達に手を振り返しながら、
聖は体育館の入り口に目をやる
するとそこに見えたのは目を見張る程の物だった
「…蓉子、江利子、アレ………」
「何よ…え?」
「うわぁ♪」
全校生徒の目は舞台上にいる山百合会に釘付けだったから気付いていないらしい
でも三人の目に留まったのは、白
そう白…
真っ白な髪の少女だった
「お姉さま方、何をしてらっしゃるんですか?そろそろ始まるみたいですよ」
知らず知らずのうちに身を乗り出していた三人に、
江利子の後ろに立っていた令が忠告した
はっとするように姿勢を正すと、三人はあっという間に麗しの薔薇様に変貌
全く、この三人の本性を知ったらファンの子達はどう思うだろうか
令は思考の隅で自分の事は置いといてそんな勝手な事を考えながら教師のスピーチに耳を傾けていた
『では、転校生の紹介をします、さん舞台上にどうぞ』
「………」
呼びかけられたその声にも答えず、その少女は黙々と壇上へ上がって言った
それまで静粛だった生徒達もその風貌にざわめき始める
聖も、蓉子も、江利子も、ただジッとその少女を見つめていた
「「あ・・・っ」」
『1年桃組に転入する です』
真っ白な髪の少女は、お嬢様学校リリアンには似遣わさぬ容姿だった
いや、容姿は誰もがため息をつく程の美しさなのだが
その耳には幾つもの装飾品
髪が白い上に目は灰色という、日本人とはかけ離れたもの
「どうしたの、祥子、令」
自分の妹達がいつもならしないような、
壇上で声を発したので蓉子達は二人を振り返る
その二人は驚愕の顔で
その視線はその少女に釘付けだった
「・・・?」
舞台上で全校生徒及び全職員の前だというのにその少女に声をかける
少女は面倒くさそうに、何事かと視線を生徒達から横に控えている山百合会に向けた
「…………?」
「「!!!」」
訝しげに眉を顰める少女に、令と祥子は近づいた
その顔は驚きから嬉しそうな顔になっていた
少女も思い当たるのか、無表情な顔つきから驚きの感情が見える
「……あ、祥子姉ちゃん?…令ちゃん」
その呼び名にまたもや体育館内がざわめきだす
上級生に向かって、しかも山百合会の住人を名前で呼ぶとは何事かと
更にその二人と転校生が知り合いとくれば、
彼女達にとってこれといっていいほどの噂のネタはないだろう
「祥子姉ちゃん!!!」
体育館内のざわめきが奇声に変わる
少女が祥子に抱きついたから
でもそれはまた絵になるもので拒絶の罵声を浴びせるものはいない
「な、…!?」
まさか抱きつかれるとは思っていなかった祥子は場所のこともあって戸惑う
その笑顔はさっきまで全然なかったものに比べてとても柔らかった
「令ちゃんも!!!」
またしても別の奇声が上がる
少女が令に抱きついたから
でもそれもまたまた絵になるもので罵声を浴びせるものはいない
「っ!!?」
多少は予測していたとはいえ、やっぱり恥ずかしい行為に焦る
「あぁ、あの子が昨日話してたちゃんなのね」
その様子を微笑ましく思いながら蓉子が呟いた
そこで合点がいったかのように「あぁ」と頷く聖と江利子
「あれ、何で令ちゃんここにいるの」
「え?」
令の腰に抱きつきながらが言うその身長差は15cm弱
傍から見てそのポーズはとても面白かった
「だってここ女子高でしょ」
「「「ぶっ…」」」
キョトンとした顔で言うについつい薔薇様三人はふきだしてしまう
「…お姉さま方も笑わないでくださいよ」
今にも泣きそうな顔で薔薇様を睨むが、それは全く威力のないものだった
「冗談、冗談。相変わらずヘタ令現存だね」
はカラカラと笑いながら令の肩を叩く
「あ、令ちゃんが居るってことは…!」
それだけ言って舞台下に目を走らせた
そして、目的の人物を見つけると指で指して…
「やっぱおった!由乃!こっちも相変わらず令ちゃんに金魚の糞ごとく付き纏ってた」
その指の先には由乃が前の席の子の影に隠れるように身を縮こませていた
でもはそれよりいち早く見つけだし、そう叫んだ
「っ…あのバカ、久しぶりに会って第一声が何でそれなの!」
由乃が表面は笑顔でも目が笑ってない表情でそう呟く
とうとう堪えきれず、腹を抱えて笑い出す三薔薇トリオ
「「「あははっ」」」
「…、とりあえず後で話しましょう?今は公衆面前だから」
祥子がの肩に手をやり、優しく微笑みかけた
多々の疑問はとりあえず置いといて
「………うん」
一瞬、暗くなってそしてまた力なく微笑むとは壇上を降りて行った
「ねぇ、令」
「うん?」
「貴方と出会った時、はあんなだった?」
「……………ううん」
どうして、あんなに小さく見えるのだろう
まるで空気にでも融けこんで消えてしまいそうな存在なのだろう
は、ドイツ人とのハーフなのに、
真っ黒な髪が綺麗だった
小さい頃から短くはあってもその神々しさで目を奪われる程のものだった…
でも今はそれと対照的に真っ白な髪
耳に幾つも空いた穴
そして、犬のようなクリクリしてた目は、
猫のように鋭くなっていた
ここ数年会わない間に彼女に何があったのだろうか
「ねぇ、さん」
ふと、自分を呼ぶ声に目をやる
何だかふわふわした人だなぁ…
「何?」
「初めまして、藤堂志摩子よ」
「…ああ、どうも」
そういやあの派手な人達の後ろに居たような
「さん、昼休みに薔薇の館へいらっしゃらないかしら?」
「何それ」
「リリアンの生徒会室よ」
聞いた事のない鳥肌が立つような名前を聞き返してみたら、
生徒会室だとか言う
なら生徒会室と言えよ、とツッコみたい気がしなくもないけど
まぁ、面倒くさいから言わないけども
「何で?」
「祥子さまと令さまととても親しいとお聞きしたの」
「……別にそんな親しくはないけど」
少し、いやかなり嘘をついた
ついさっきは思わぬ再会にはしゃいじゃったけど、
けどもうそんな事はない
もう、大丈夫
いつもの私が取り戻せた
だから『行かない』とだけ志摩子さんとやらに告げた
少し腑に落ちない顔をして、それでも『そう』と自分の席に戻っていくのを尻目で見る
これでいい
もう誰とも関わりたくない
できるだけ
そうすればあの二人も諦めてくれるだろう
もう昔の私は居ないんだって気付いて
そのうち他人のように廊下でもただすれ違うんだ
……な、はずなのに、
何で来るかな、コイツは
「!!さっきのは何なのよ!?金魚の糞て何よ!説明して!!」
隣のクラスからわざわざやって来てすごい剣幕で私の机に手をつく
今にも掴みかかってきそうないきおいだ
でも一応周りに生徒達がいるからそんな事しないと思うんだけど
つぅか説明も何もそのまんまじゃん
「由乃煩い」
窓の外を眺めながらそう一言呟いた
そうでもしないと付き合ってられないのだ、この幼馴染は
「煩いって何よ、煩いって!!」
「煩いな、もうホントに昔から…」
目の前で騒いでいる由乃の腕を掴んで教室から引っ張り出す
まぁ、廊下にも生徒はたくさん居るからあまり意味はないけど
気分ってものだ、多分、気分
「で、何?」
向き合ってその顔を見つめた
怒っている
やっぱりね…
いや、金魚の糞に対してじゃなくて
黙って居なくなったことに対してだと思う
苦笑しながら由乃の頭を撫でる
「ごめん」
「……っ」
一言謝ると、由乃は私に抱きついてきた
まぁこれもあらかた予想してた事だから難なく受け止める
「だから、ごめんて。泣かないでよ」
「泣いてないわよ」
顔は見えないけど、多分泣いている
それでも泣いてないと言い張る由乃に苦笑がまた漏れる
「泣いてるじゃん」
「泣いてないって言ってるのよ!」
「嘘つけ、声が震えてる」
「…風邪気味なの」
「……相変わらず本当に強情だなぁ」
背中を擦りながら、空いてる手で頭を軽く叩く
あやすように
「は?」
「え?」
「相変わらずじゃないわ」
手が、止まった
しばらくして離れた由乃の目は赤かった
「やっぱり泣いてるじゃん」
そう言って目尻を親指で拭ってあげる
どうかこの話題に触れないでほしい、と願いを込めて
「…っ」
「今日は天気良いね、私の転入をマリア様も喜んでくれてるのかな」
本当はそんなこと思ってないけど
マリア様なんていないんだから
もし、いるなら何故私は幸せになれなかったの?と訪ねたい
そう世の中理不尽で、矛盾で成り立ってるから
マリア様もきっと答えられない
………っておい!
「ちょっと待て、由乃さん、どこに拉致るつもりだ」
自分の腕をがっしり掴んで離さない由乃に問う
まともな返事は期待しないけどね
「昼休みは貴方を連れて来いと言われてるのよ」
「…お前もか」
「志摩子さんが一応声かけたと思うけど?」
「だから断ったんだって」
「貴方に拒否権はないわ、薔薇様が居る限り」
「何、その薔薇様って」
思わず不思議の国のアリスで出てくる喋る植物達を連想してしまった
確か、あの話ではとても意地悪だったような…
「それって喋って歌って、意地悪な薔薇?」
「……喋るのと意地悪なのは合ってるけど歌うのかしら…」
ってそんなハズねぇよ
仮にもここは高校なんだから人間に決まってるだろうが
自分でツッコんでみた
掴まれてない方の手の平で額を叩く
何かのコントみたいだね、こりゃ
「お姉さま、連れて来ました」
もう諦めたよ
コイツは昔から一度決めたら譲らないし
逃げようにも追いかけられて背後でぶっ倒られたら困るし
…あれは鬼ごっこをしようって言い出した由乃が悪いと思うけど
と、昔の事を思い出してみる
確かあの後令ちゃんにこっ酷く叱られたのは私だった
そう、何故か非はないはずの私が
「「!」」
「久しぶり、二人とも」
早速側に駆け寄ってくる祥子姉ちゃんと令ちゃんに微笑む
本当はこんな処で再会なんてしたくなかった
特にこの二人、いや三人には
昔の私を良く知っているから
「本当、元気そうで良かったわ」
祥子姉ちゃんが安堵の笑みを浮かべて私の肩に手を置く
その手が暖かい
その手がとても辛い
手首を掴み、さり気無く下ろした
「うん、二人とも面影は変わらないね」
「はこの数年どうしてたの?」
来た
この話題が来るのは必須だったろうけど、
でも今はしんどい
私はビスケット型の扉を閉めながら、軽くため息をついた
「どうもしてないよ」
だから気にしないで、と言ってとりあえず二人が座っていたらしい形跡のある席と、
由乃が座ろうとしてる席からなるべく離れた席に座る
両脇には何やら新しい玩具を買ってもらった子どものような顔をしている人と、肩口で切り添えられた黒い髪が映える人
多分、三年生だとは思うけど
「初めまして、祥子の姉の水野蓉子よ。祥子と親しいみたいね」
「 です、……祥子姉ちゃん姉妹なんて居たっけ」
いや、居ないはずだ
気に障る従兄弟は居たけど
記憶を辿る限りでは一人っ子だったと思う
「姉と言っても本当の姉じゃないのよ、この学校特有の物があってね」
あぁ、また何やら訳わからない物があるんだ
全くややこしい学校だな
「鳥居江利子よ、宜しく」
「宜しくはしないですけど、まぁ、どうも…」
一応言っておくが、私はここに入り浸るつもりはないんだから
名前を教えて貰って宜しくとか言われても今日限りの付き合いなんだから意味の成さない事だ
多分普通の人が言われたら頭に来るはずなのに、その鳥居さんとやらは更に笑みを深くする
「!」
令ちゃんが咎めるように私を呼んだ
「念のために言っておくけど、私はここにいる皆さんと仲良くなったりするつもりないんでそこんとこ胸に刻んどいてください」
ポカンと呆気にとられる部屋の中
まぁ、当然といえば当然だろうな
こんなお嬢様学校でこんな事言うの私だけぐらいだろうし
それは休み時間ごとに話しかけてるくるクラスメート達の様子でわかった
「それ地毛?それとも色抜いてるの?あ、私は佐藤 聖」
…人の事言えない人なんですが、貴方も
私の考えてることを察したのか、向かいに座っているその人は一言付け加える
「ちなみに私は地毛だから。で、はどうなの?」
初対面で呼び捨てですか
まぁ、もう別にいいけど
「地毛ですよ」
「嘘おっしゃい、地毛は純黒だったじゃない」
そりゃそうだよ、祥子姉ちゃん
だって昔は本当に黒かったんだから
でも、今はこれが地毛なんだよ
地毛、なの
「地毛だよ、変色しちゃったの」
また驚いた顔をする一行
そんなに驚いてたら身体持たなくありません?
私はそんなに感情を表に出さないからできない
「変色って…」
信じられないとでも言うように呟く由乃の方を見て、
私は微笑む
微笑めているかどうかは疑問だけど
多分微笑めていると思う
「医者が言うにはストレス性だと思うって。実際こんな例は類まれらしいけど」
そう言いながら自分の髪を一房持ち上げた
まぁ、いろいろあったからね
「ストレスって…、、何があったの?」
想像通り聞いてくる
紅茶を淹れてくれた、髪を二つに分けている女の子に礼を言う
何故そこで顔を赤らめる
私は何か変な事でも言ったか
……まぁ、いいや
「いろいろあったんですって」
「だから何があったのって聞いているのよ」
昔と変わらない、キツイ口調で問い詰めてくる祥子姉ちゃんに苦笑いを向けた
納得のいかないことがあるとキツイ口調になっちゃうのは昔からだ
何度もいろいろ怒られてた
いろいろ…
昔から生真面目だったんだよな、祥子姉ちゃんは
そんなに気張ってたら疲れちゃうのに
「そこまで話す必要性ないと思うけど」
「…………、貴方変わったわね」
そう一言呟かれるのを聞き逃さなかった
そうだね、祥子姉ちゃん
令ちゃんも由乃も
うん、そうなんだ
相変わらずっていうのはとても良い事だと思う
………でも、もう昔じゃないんだ
昔はもう存在しない
今は、こうなんだから
「仕方ないよ、昔とはもう何もかも違いすぎる」
next