お父さん、お母さん
元気ですか
死んでいるのに元気ですか、なんて変だけど
私は元気です
今まで心配ばかりかけてごめんなさい
でも…
今は仲間が居ます
静の紹介で行くつもりの無かった高校に入ったんだ
面接だけで受かった事にやっぱり少し切なかったけど
何だか今までの生涯に同情されているみたいで悔しかったけど
今はそれすらどうでも良い事のように思えるんだ
だって少しも希望なんて持ってなかったこの学校には、
たくさんの友達が出来た
静だけじゃなくてさ
山百合会っていう変てこな名前の生徒会があるんだけど、
そこの人達が美人ばかりでさ
……そうじゃなくて
まだ私はあの人達の事を全然知らない
でも彼女達は私を受け入れてくれた
短気だし
無口だし
無表情だし
愛想の欠片もない私を
子どもだからって事を除けば立派な犯罪を犯している私を
温かく迎えてくれた
すごく嬉しかったなぁ
友達なんて居なかったからさ
祥子姉ちゃんと、
令ちゃんと、
由乃だけが私の今までの人生での友達だったから
人見知りで友達の少ない私をいつも心配してたね
もう、大丈夫
湊っていう人も居るし、
静も居るし、
蓉子
聖
江利子
祥子姉ちゃん
令ちゃん
由乃
志摩子
祐巳
こんなにも居るよ
今なら自慢できる
誰にでも堂々と胸をはれる
私にはこんな素敵な友達が居る、って
それに美人だし
これってハーレム?
………………そうじゃなくて
そういえば
まさかあの3人にここで会うとは思ってなかったけどね
お母さん、祥子姉ちゃんって覚えてる?
よく2人で隠れて
小母さんとお母さんを困らせてたよね
小笠原の家は広いから、
お手伝いさん達総員出動してでも探し出せなかったでしょ?
ここだけの話、私が祥子姉ちゃんにかくれんぼの極意を教えたからだよ
令ちゃんと由乃…は叔父さんの家で暮らし始めてから出来た友達
いつものように叔父さんから逃げて公園に居たら、
あの2人が話しかけてきたんだ
一緒に遊ばない?って
毎日ここで見かけるから気になってたって言うんだ
多分きっかけは容姿だよね
この頃は既に髪の半分以上が白かったからさ
外国人とだとでも思って気になってたんだと思う
半分外国人だけどさ
正直に言うと、気に入ってたんだ
あの真っ黒な髪の毛は
祥子姉ちゃんには劣るけど
誰よりも純黒なあの髪の毛は気に入ってた
だって顔も性格も全てお母さん譲りだったでしょ?
でも髪の毛を見るとお父さんの血がちゃんとあるって安心できたから
何だか嬉しかったから
2人がちゃんと愛し合っててそれで生まれた子どもが私、だって
こんな言い方しちゃ悪いけどね
私はこの世の中の汚い部分を見てきたつもり
結婚なんてしても結局は紙一枚の繋がり
それで安心しきっている大人達の間に、愛なんて見えなかったから
でもうちは違うってね
お父さんとお母さんはちゃんとお互いを労わっていたとても素敵な夫婦だってさ
だから…初めて白くなった時
とうとう最後の繋がりも消えたな、って
凄く
凄く悲しかった
それは違うって事
教えてくれたのはその山百合会の友達
繋がりなんて
絆なんて
目に見えないものだと教えてくれたんだ
確認なんてしなくても、
自然とそう思えるのが人間の関係だって
教えてくれた
聖が教えてくれた
そう言った聖はとても複雑な笑い方をしていた
きっと聖もいろいろ辛い事があったんだ、って直感がそう告げたんだよ
そして愛なんてものは目に見えるものなんかじゃないって
愛されたいなんて思うのは当たり前なんだって
愛されたいなら愛してあげればいい
生きていればその分ちゃんと相手は返してくれるからって
蓉子はそう教えてくれた
蓉子…もきっと儚い恋をした事があるんだと思う
その相手は
多分だけどね
聖だと思うんだ
時々聖を見る目がとても優しいから
私もあんな風に誰かに見て貰いたいって思ったんだ
そしたら、
皆が見ているから大丈夫だよって
皆が大好きなんだから大丈夫って
令ちゃんが言ってくれた
昔から令ちゃんの大きな温かい手はとても好きだった
頭を撫でられるのも好き
でも嘘は言っちゃ駄目だよね?
令ちゃんは由乃が大好きなんだから
でもそんな所全部ひっくるめて令ちゃんが大好きなんだ
お母さん、ヤキモチ妬かないでね?
私が今一番会いたいのはお母さんなんだから
…いつか会える
良い子にしていれば必ずお母さんは会いに来てくれる
お父さんと一緒に
……そう思ってたけど
ずっとそう思ってたけど
あの頃は子どもだったんだ
死んでいる人には二度と会えない
苦しみは即ち痛み
痛みは取り除く事は出来ないけど
でも誰かと分かち合う事は出来るって
由乃が言っていた
手術を受けていた事には驚いたなぁ
あんなに嫌がってたのに
でも由乃もやっぱり令ちゃんとか祐巳が居たから出来たんだよ、絶対
もしも世界が過去に遡るならさ
私はお父さんとお母さんが生きていた頃に戻りたいって
事故にあったあの日は絶対に後ろの席で大人しくしているんだって
そんな話をしていた
祥子姉ちゃんとね
そうすれば祥子姉ちゃんともずっと一緒に居られたのに、って
そしたらそれは違うって怒られた
そしたら、
静や湊さんや令ちゃんや由乃
そして今の山百合会の人達とも
誰とも出会う事が出来なかったって
そうだね
祥子姉ちゃんの言う通りだった
お母さんとお父さんが死なない事は大きいけど
きっとそれと同じくらい大きな事だから
彼女達と出会えない事はそれと同じくらい大きい事だから
だからごめんね?
過去に戻りたいなんてもう言わないよ
お父さんとお母さんに生き返って欲しいなんて…
言わない
だから神様
そこで聞いている?
私から二度と大事なもの達を取りあげないで
もう我侭は言わないから
それだけが望みだよ
想い出は心の中にだけ閉まっておけばいいんだ
…そしたら今度は祐巳にそれは違うって言われた
時々、
心の中の箱から取り出して
眺めてみてごらん、って
そしたら忘れかけていた大事な事を思い出すからってね
それを握り締めて、また歩き出せばいいんだよって言われた
あの子天然だけど
時々とても的を得る事を言うんだ
確かに忘れかけていた
自分から歩み寄らないと
いくら信頼している人でも離れて行ってしまう
人間関係における大切な事を忘れかけていた
待機体勢で誰かに優しくされる事を待ち受けていたら駄目だね
優しくされたらその分優しくしてあげなくちゃ
蓉子の言っていた意味が判ったよ
志摩子はさ
誰かを信じる事を教えてくれた
あの子ってシスターになるんだって
つまりいつか私達の前から居なくなるって事でしょ?
そんなの嫌だなぁって言ったんだ
そしたらね、
優しく抱きしめてこう言ってくれた
離れていても
近くにいても
基本は信じる事だって
どれだけその人を信じてあげられるか、だって
そうすれば自然と心が呼び合ってくれるから
聖と似たような事言ってた
まだ皆に隠し事をしているみたいだけどね
実は私知っているんだ
湊がご飯をご馳走してくれるからって少し高そうな和食屋に行った事があってさ
そっと隣を見たらお坊さんらしき人達が会食をしていたんだ
その中に志摩子は居た
着物を着てただ静かに佇んでいたから
…違うな
銀杏を食す事に夢中だったから
珍しい子だなぁって思った
リリアンで会った時は少なからずも驚いたよ
カトリックのこの学校に仏教の人が通ってる事にね
でも志摩子は心から誰よりもマリア様を信じていた
別に何も問題なんて無いじゃんって思うでしょ?
でも違うみたいなんだよね
実家が寺だって事隠してるみたいだよ
まぁ、いつか言う事だろうからあえて私は何も言わなかったけど
そして最後に一番大事な事
意外にも一番大事な事を教えてくれたのは江利子
何だと思う?
人生は楽しまなきゃ損、だってさ
江利子らしいよね
どうせ
悲しんで生きていくのも
楽しんで生きていくのも
同じ人生なら楽しい方がいいじゃない?って
それもそうだと思ったよ
なんて今までの時間を無駄に過ごしていたんだろうって後悔しちゃったよ
勿体無い事しちゃった、ってさ
でも
お母さん
お父さん
まだまだ人生は長いよね?
そうだよね?
だったら私はこれから笑って生きていくよ
不感症だけどさ
いや、自覚はしているんだよ
でもあの人達と居たら
自然に笑えそう
今も、笑っているよ
ねぇ、お母さんお父さん
今笑っている?
笑えてなかったらまだまだ私が心配をかけちゃっている証拠だよね?
だったらその不安はすぐに取り除いてあげるよ
だって私は今幸せだから
もう、泣かないで
私も泣かないから
だから…安心してね?
追伸
あの人達って人より大分変わっているから疲れるけど。
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