「本当に、私達が行かなくて大丈夫?」


バス停でバスを待つ間、祥子姉ちゃんが心配そうに確認してきた

先程薔薇の館で決まった事



今度の週末に叔父さんと会う…と




静を含む皆は最後まで納得のいかない顔をしていたけれど






どうかこの決心が鈍らないうちに済ませたいから




これで本当に静の言う通り何かが変わるのかはわからない







でも、







私の中の何かが変わるのはきっと確定している







多分それを一番望んでいるから、私自身が









「大丈夫」



「……





「大丈夫だよ、全てが終わったら皆に話したい事があるんだ」




やって来たバスを眺めながら、小さな声で呟く

祥子姉ちゃんに聞こえてたのかどうかはわからないけれど…




でもずっと言いたかった事がある





ずっと…願ってやまなかった事がある









それを皆に言いたいから










だから全てを終わらせる必要があるんだ



















嫌だと思っている時間程長く感じられると改めて思う


薔薇の館での出来事がつい昨日のように思い出せる程この一週間は短くて





そして…とても長かった


もう二度と明日というものが来ないのだと思えるくらいに長かった





きっと、この地球に生息する人間はとてもちっぽけで


その1人1人の事などお構いなしに時間はただ刻々と過ぎるんだね








どうしてかな




とても泣きたい気分だ













静に取り持って貰った待ち合わせ場所のカフェに足を運ぶ

営業台詞を吐く店員さんに対する焦点すら合っていなかった

ボーッとしている私を不審に思ったのか、その人はただ眉を顰めるだけ





適当に席に連れて行って貰って

適当にコーヒーを頼む




約束の時間までの時が刻々と過ぎる


普段は時計なんて持ち歩かないけれど、

目の前に掛けられている古いアンティークの大時計が否応無しに針を進めてゆく



この1秒1秒を刻む音が嫌いで




時計は持ち歩かないのに…




どうしてこういう時に限って目の前にあんな判りやすい時計があるのだ








ドアに付けられていた鐘がガランガランと音を立てる

そのたびに身体が強張るのが判った


でもただのカップルなのだと

ただの年配の男性なのだと



席に通されるたびに私の前を通り過ぎて行くから力は抜けていく




店内に響き渡る洋楽や人々のざわめきに耳を傾けているうちに


だんだん、固く揺らがないはずの決心が解けていく感じがした







そういえば…聖が言ってたっけ

このまま溶けて無くなってしまいたいと思っていた時があるって



今の心境はまさにそれかもしれない








どうか私の身体がだんだん透けていって

最後には消えているんだ


周りも最初から私なんて居なかったかのように…



世界は周り続けるんだ、って










何度目だろうか



鐘が鳴るのが聞こえた気がした

店内に通すウェイトレスの声が聞こえる


待ち合わせをしているらしい




きっと恋人か何かなんだろうな











「あ…ここです」

「はい、かしこまりました。すぐにメニューをお持ちしますね」


「お願いします」











目の前の、


古時計が消えた





正確に言えば古時計と私の間に何かが挟まったんだ






……



それは何なのか、ゆっくり顔を上げていく






私の人生でこれ程にまで嫌いだった人間は居ない


だって私はヒトが大好きだったんだから…



ヒト嫌いにさせた


記憶を失わせた



髪が脱色していった






全ての、





全ての発端










両親を失って絶望に暮れている私を更にこの世の地獄まで突き落とした人間



















あぁ、もし…














あの頃に戻れるのなら


















私は泣かなかっただろう














祥子姉ちゃん

令ちゃんと由乃


あの人達から離れないから




どんなに辛くても


誰かに話して救いを求める事ができるから











でも、過去は









変えられないから過去って言うんだ












過ぎ去る














過去は…












決して暗いものばかりじゃないはずなんだ


































next...