[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。







「靖ちゃん元気?」

「ええ、元気よ。鳴の話を聞いてとても会いたがってたわ」



あの後、迎えにきた山百合会…というか3薔薇に無理やり薔薇の館へ連れて来られた
何だかとても情けないけど、今更ながらに泣き顔を晒したくなくて

由乃にしがみ付いたままここまで来た訳だ



黄が入れてくれたココアを飲んだら少し落ち着いた

そして私の機嫌を伺うようにソワソワしている祥子姉ちゃんに気付いて、そう訪ねてみた



ほっと微笑んで嬉しそうに返してくれる祥子姉ちゃんを見たら、

私は今までそんなに冷たかったのだろうかと思ってしまった


…冷たかったんだろうな





「靖ちゃんて靖子小母さまの事?」
白が身を乗り出して言う

馴れ馴れしくもそんなに親しく名前を呼んでいる私に対しての驚きだろうか、
その顔は若干間抜けなものだった



「お母さんがそう呼んでたから移っちゃったんだ」


「そう、お母さんが…」



急に強張る白に苦笑する



「この間はごめん、あれはたまに起こるもので普段は本当に平気なんだよ」


甘ったるいココアを飲んでたら、
苦いものが飲みたくなった…

黄には悪いけどこういう気分てあるんだ



少し自分の言った言葉に後悔したのか、居心地悪そうな白を他所に
流しへと向かった


そして、ふとこの間の事を思い出す
引き出しを開けてその中にある包丁を取り出した



「「「「「「「「あっ…」」」」」」」」



息を呑むメンバー達に、
私は包丁を持って付け加えた




「思いも寄らぬ所にあったりすると動転しちゃうんだけど」



あると分かっていたら大丈夫だから、そんな神経質にならなくていいから



そう言って元の場所に戻す







そう、突然思いも寄らぬ出現をされると
あの事がフラッシュバックとでも言うのだろうか

甦ってしまって不意義ながらも発作を起こしてしまう





身体中の至る傷口から血が溢れかえって

時には血が止まらなくて貧血に陥った時もあった
その時は静に救急車を呼んでもらったから無事だったらしいけど




静の協力もあって、
少しずつ慣らして来た効果か、
包丁類を見ても発作はバンバン起こらなくはなった





けれど
思いも寄らぬ時に、思いも寄らぬ場所で見ると


それが抑えきれなくなって




爆発する









「だからね、安心して」

めちゃくちゃ苦いコーヒーを入れて、祥子姉ちゃんの隣にある自分の椅子に座った

あぁ、何か一服したい…


でもさすがにここでしたら……


…ここに居る人達全員を敵に回すことなんでできません






「…令ちゃん」

「ん?」



もう片方、隣に居る令ちゃんを呼んだら、
嬉しそうな顔ですぐさまこっちを向いてくれた




…………えぇ?そんなに冷たかったかな、私







「剣道…今度時間あったら教えて」


「……うん!!」


更に至極嬉しそうに微笑む令ちゃんに微笑み返す





やってみよう、と思った

今度は自分の身を守るためじゃなくて



いつかしら出来るだろう大切な人を守れるように…






勘とか忘れちゃうんだろうけど、



でも忘れたらまた教えて貰えばいい









そう思えるようになった













「でさ、由乃」

「え?私?」


「そう、島津 由乃。そこの三つ編みの猪少女」


「……何よ」



苦笑する由乃に私は続けた
真顔で


真剣に




「今度鬼ごっこしよう。絶対今日の挽回してみせっから」






「「「「「「「「…ぷっ」」」」」」」」


それをキッカケに大笑いをし始めた薔薇の館内


何だよ



そんなにおかしいか





だって悔しかったんだ







追いつかれたこと


それも二度も








「…煩いなぁ。で、分かった?OK?」


存在しない契約書を掲げるように手を上げる

「分かった分かった、ふふふっ!」

まだしも我慢できないというように笑いながら手を振る由乃に何か少しムカついた

……ムカつく




「じゃあそれ私も混ぜてよ」

白も手を上げて賛同して来る

「私もやりたいわ、十何年か振りに」
「そうね、面白そう」

続けてニッコリと微笑みながら手を上げる紅と黄


「お姉さま、私達もやりましょうよ!」
「そうね…」

ツインテールまでもが声をそろえる
しかも祥子姉ちゃんを引き連れて




「じゃあ皆で鬼ごっこしましょうか」



締めは人形こと藤堂志摩子が引き受けてくれた




頭が痛いんだけど


何でそんな大掛かりになるの








私は転校してきてから自分で作った距離を少しでも取り繕ってみようと、

まずは由乃から、と思って提案しただけなのに


…まぁ、本当に悔しかったんだけど




何やら今度の休日に学校の近くの大きな公園に集合、なんて約束も取り繕われた



…………ま、いっか






一気に取り戻せるのならこれ程楽な選択はないだろうし

疲れそうだけど


何だか今日までの冷め切った心が嘘のようにポカポカ温かい




今までの拒絶し続けていた日々がとても勿体無く思えてくる













今は、自然に笑えているだろか









幸せになりたい

周りを傷つけることもなく


お互いに必要として、必要とされ

そんな関係を築きたい




築ける人間になりたい







「ね、鳴もそう思うでしょ!?」


「………うん」




とりあえずは、ここに居る人達は自分の存在を認めてくれている

だから、


ここの人達を信じて


心を預けてみよう















next...