【水上デート】
「アテナ、お客様がいらっしゃったわよ」
「はい」
アテナよりも先輩の女性に呼ばれ、アテナは部屋を出る。
通常ならば街に出てお客を捜す水先案内人(ウンディーネ)。
けれど、3大妖精のアテナはお客の方から来るので、街に出ることはほとんど無いのだ。
そして、今日も1人、お客がやってきた。
お客が待つ場所へと向かうアテナ。
お馴染みの、何を考えているのかわからない顔で。
が、その表情はすぐに崩れた。
何故なら、その場所にある少女が立っていたから。
「・・・・・?」
信じられない、そんな表情でその少女の名前を呼ぶアテナに反応し、少女は振り返った。
それから、満面の笑みを浮かべてアテナへと駆け寄ってくる。
「アテナさん!」
駆け寄ってきたスピードのまま、アテナに抱きつく少女はアテナの言った通り
、という名前の少女。
歳は灯里と同じくらいか、1つ下くらいだろうか。
けれど、実際は灯里と同じ歳。
もっと言ってしまうと、灯里の双子の妹だったりする。
顔立ちは、二卵性なのであまり似ているとは言い難いが。
「、ARIAカンパニーは?」
灯里と双子のは、もちろん灯里やアリシアと同じARIAカンパニーの社員。
そんな彼女が、お客様としてオレンジぷらねっとに来ている。
自分も、水先案内人(ウンディーネ)であるにも関わらず。
「本当は、特訓するはずなんですけど、今日はお休みさせてもらっちゃいました」
エヘッと笑う。
「最近、アテナさんのお仕事が忙しくて会えなかったので、会うにはお客様になった方が確実かな、と」
「」
嬉しそうに、微かに顔をほころばせるアテナ。
そのまま、を抱擁。
何を隠そう、彼女たちは恋人同士だったりする。
「アテナさん、相変わらず良い匂い」
「も、良い匂いよ。味も美味しいけれど・・・・」
・・・・・・隠しきれないほどにラブラブだが。
「アテナさんのエッチ」
そう言いつつの表情は、久し振りに恋人に会えたためか緩んでいる。
もっとも、それはアテナも同じだが。
「それでは、行きましょう、お客様」
から離れ、アテナは細い手をとって自分の舟(ゴンドラ)へと連れていく。
繋いだ手は、もちろん恋人つなぎだ。
「お気をつけてお乗りくださいませ」
舟(ゴンドラ)についたアテナは、自然な動きで舟(ゴンドラ)を片足で動かないようにし、手をへと差しだす。
「ありがとうございます」
微笑み、アテナの手に自らの手を重ね、は舟(ゴンドラ)に乗り込んだ。
「お望みの場所を教えてくださいますか?」
静かに問いかけ、アテナは未だ掴んでいるの手の甲にキスを落とす。
「・・・・・・2人きりになれる場所を」
「承りました」
にだけ向ける笑みを向け、アテナはの手を離して舟(ゴンドラ)を漕ぎ始めた。
そんなアテナのオールさばきを、はうっとりと見つめる。
どれくらいしただろうか。
が舟(ゴンドラ)を乗って初めてアテナから目を離せば、そこは誰もいない静かな岬。
「ここで、良い?」
「はい!!」
嬉しそうに返事を返し、乗った時のアテナのように片足を舟(ゴンドラ)にお
き、アテナへと手を差しだした。
「アテナさん、どうぞ」
「ありがとう」
今度はアテナがに手伝ってもらいながら、岬へ降りた。
「プチ情報です、アテナさん」
舟(ゴンドラ)をつけたは、アテナの手を引きながらある場所へと向かった。
いくぶんか他の場所よりも地面の上がった場所で、はアテナへと振り返る。
「実はこの岬、アリスちゃんとわたし達が初めて会った場所なんですよ。もっとも、正確にいうと【初めて話した場所】ですけど」
「そうなの?」
微かに驚いたような顔でを見下ろすアテナ。
「はい。あの時、藍華がここを訓練場所にしようと決めなければ、きっと、アリスと会うことはなかったんだろうと思うんです」
水面へと向けていた目を、再びアテナへと戻す。
「運命って、素敵ですよね」
吹いた風。
それは木々を揺らし、の結った長い髪を軽く舞い上がらせた。
微笑みながら髪をはためかせるが、アテナには美の化身のように見えた。
いや、その光景が、まるであまりの出来栄えに値段さえも付けられない、美しい一枚の絵画に。
「そうね」
だからこそ、アテナにはが遠い存在に見え、その腕をつかみ、引き寄せた。
「アテナさん?」
急なことに驚きつつアテナに声をかけるも、アテナはに答えることはせず、抱きしめたまま。
だから、は更に問うことはせず、アテナの背中に手を回した。
しばらく、何も言わず2人は抱き合った。
「じゃじゃーん!」
はアテナと自分の間に、バスケットを置いた。
「作ってきてくれたの?」
初めからその存在に気づいていたアテナが、口元をゆるめながら問いかけてくる。
「はい!アリシアさんに教わって、アテナさんの好きなものを用意させてもらい
ました!」
バスケットを開き、シートに並べる。
並べられた料理は、簡単ながらも確かにアテナの好きなものばかりが並んでいた。
その一つに、アテナはフォークを伸ばす。
口に入れ、咀嚼。
それをジッと、心配そうに見つめる。
「美味しい、ですか?」
飲み込んだのを見届けてが問うと、アテナは微笑みながら頷いた。
途端、嬉しそうに頬を赤く染めて笑顔になる。
そんなが可愛くて、アテナは笑みを深める。
それから、2人はお話しをしながらの作ってきた昼食を食べた。
「さすがアリシアさんですね。アテナさんの好み、バッチリわかってらっしゃいましたね♪」
笑顔でバスケットを片付けながら言うの手を、アテナはそっと引く。
「アテナさん?」
「おいで」
は恥ずかしそうに微笑みながら、アテナの膝に頭を乗せた。
アテナの手が、の髪を撫で、はそれに嬉しそうに笑う。
「アテナさん、人生には沢山の選択肢があるんですよ」
「選択肢?」
「はい。そして、自分で選んだ選択肢が、運命への繋がりをうむんです。わたしの一番の選択肢は、水先案内人(ウンディーネ)になることでした」
微笑みながら目を閉じる。
「そこから、わたし達は沢山の選択肢の中から、皆さんと会う運命を選びとった」
撫でる手を止めず、アテナはの言葉に静かに耳を傾ける。
「姫屋でも、オレンジぷらねっとでもきっと、今の時間(とき)は過ごせなかったんだろうと思うんです」
の手が、自分の髪を撫でる最愛の人の手をとった。
「ARIAカンパニーだからこそ、わたしは皆に、あなたに会うことができたん
だって、確信に近いものを感じているんです」
の柔らかな唇が、アテナの掌に触れる。
「藍華に言ったらきっと、『恥ずかしいセリフ禁止!』とか言われちゃうだろうけど、わたし達は会う前から、惹かれあっていたんですよ。赤い糸が」
今度は、アテナの小指の根元にキスをする。
それから、自らの右手を挙げ、小指を立てる。
「繋がっているんですよ、わたし達は。運命の、赤い糸に」
アテナは身体をかがめ、の唇にキスをした。
肯定の意味で。
fin