ハイ、また告白されました


一応言っておきますがワタクシこう見えても女なんですけど…


きっと関係ないんですね、ここでは



ハイ、すみません










「う〜ん、知ってると思うけど私恋人居るからごめんね?」

マリア像の前で、
朝から声をかけられたかと思えば


「好きです、付き合ってください」と




しばらく固まっていた私を、
その女の子は不安そうに見上げてきた


意識を取り戻して笑顔を取り繕って言葉を選んでそう言ってあげたら



泣き出した…




うわぁ、私女の子の涙には弱いんだよねぇ

自分は悪くないって思ってても泣かれると焦る





「ごめん、だから泣かないで?」


「っ…だったらっ……付き合ってくだっ…」




それでも必死に言葉を紡ぎ出すその子が何だか可愛らしくて、

つい抱き寄せてしまった



公衆面前だろうが関係あるまい





だって可愛いんだもん




「ごめんね?その気持ちには答えてあげられないけど…」




少し身体を離して、
その子の顔を覗き込んでそう言った時

後ろから物凄い鳥肌の立つオーラが…



このオーラには覚えがある






そう

凄く




凄〜く




凄ぉ〜〜く








怒っている時の江利子のもの









「…っ江利子……」



「…何してるの」



云わば浮気現場を目撃された亭主の気分

言い訳は出来ない状況だし

彼女には言い訳さえ出来ないし…



そろりとその女の子から離れて、

「……あの…、行くね」

「…っはい…!」

江利子に近づく



やっぱりこの子もビビッてるじゃん






いつもより数段作り上げているその笑顔が怖い




「江利子?」



「………」



「江利子さん?」




「………」




「もしも〜し」





…完全無視


そんでもって校舎へ向かっていく



「はぁ…」


後に残るは私の淋しいため息だけ
















「「「「「「「……(さん)」」」」」」」


「……はい?」


祥子姉ちゃんの膝の上で、机に伏せていると
江利子を除く全員が呼びかけてきた

皆顔が引きつっている


その原因は蓉子の隣で黙々と弁当を食べている彼女



私が祥子姉ちゃんの膝の上に乗っている事に対してすら何も言わない江利子に皆引きつっていた





「何かあったの?」




頭上から声がして、頭を上げると
祥子姉ちゃんの首に腕を回した

またしても皆江利子と私を交互に恐る恐る見ている


…ふん





「告白してくれた女の子に謝罪の抱擁をしただけだよ」




「また謝罪の抱擁…」

由乃がため息をついて私をジトリと睨んだ
何だよ
その盛大なため息は…




「それを見ちゃったって訳?江利子」

そう言いながら江利子の顔を覗き込む聖
江利子はそんな親友にも答えず黙々とただ食べ続けている


「降りなさい」

「えっ?」


いきなりそう言われたかと思うと、
身体を持ち上げて降ろされた


「何でよ、いいじゃん」


「自分の恋人の対応も出来ない人を甘やかす訳にはいかないの」


「……鬼婆」




「何ですって!?」


「いえ、何でも」


さっと祥子姉ちゃんから離れて、私は聖の膝によじ登る

江利子の目の前


どうだ


とばかりに聖に甘えてみせる





「聖大好き」

「……」


「愛してる」


「……」


苦笑いで江利子を見つめたまま引きつっている聖に、

頬にキスをした




「……っ!私も愛……だっ!?」




突然そう叫んで私をギュッと抱き締めてくれたかと思ったら、
蓉子に殴られた

可哀想



「降ろしなさい」


「「え〜っ!?」」



「え〜っじゃないわよ、江利子の気持ちを考えなさいよ」



「…はぁい、という訳で降りてね」



「…薄情者」


「キツいなぁ、それは。アレどうにかしたらいつでも抱きついていいからね」



「いい」



「……さいでっか」




後ろでヘコんでいる聖を他所に、私は江利子を見た

相変わらず私と目を合わせようとしない



「江利子……」


「…………」


「江利子、こっち見てよ」


「…………」



とうとう痺れを切らして私は江利子の腕を掴んだ



「ちょっ!?」


「いい加減にしろよ。何、言いたい事があるならハッキリと……痛ぇっ」




「女性に手を出さない」



恨みがましく令ちゃんを見やると、
自分の姉の事だから物凄く睨まれた





「ついでに言葉遣いも直しなさいね」

付け加えるように由乃も令ちゃんの向こう側から言ってくる
舌打ちをすると、また叩かれた
「舌打ちしない!」と




「はいはいはい、で?江利子サンはどうして怒ってるのでしょうか?」

「……わからない?」



「わからないから聞いているんじゃありませんか」



大げさに肩を竦めてみせると、
今度は江利子から腕を掴んでくる

大いによろけて江利子の腕の中へ納まった




「わからないのなら教えてあげるわ」


「……?」



「そうねぇ、もし…」

そう耳元で囁いて、目は蓉子へ向けられる


「私が蓉子を抱き締めたら?」

「どういう意味?」

「どう思うかって事」



「…嫌だ」



そう、とだけ呟いて
次は祥子へと視線が向けられた



「じゃあ私が祥子に抱きついたら?」


「…嫌だ」


…っていうか祥子姉ちゃんと江利子ってありえないと思うんだけど



そう、と今度は微笑んで
続けて令へと向けられる



「じゃあ令に抱き締められたら?」


「…ぶっ飛ばす」







「えぇっ!!??」




「令、黙りなさい」



隣でなんとも哀れな声を出す令ちゃんを江利子は制して

今度はギュッと抱き締められた




「私もよ、貴方が誰かに抱きつくのは嫌」



「……ごめん」




「ましてや謝罪の抱擁だなんて問題外よ」



「でもそれは謝罪であって」




「なら私が謝罪って事で誰かに抱き付いていいの?」





「嫌だ」








そっと、唇に温かい感触があった

江利子にキスをされているとわかったのは数秒後のこと




ゆっくりと離れていく顔に、
何だか惹き付けられた


「もっと」


そう言うと、今度は嬉しそうに微笑んでもう一度唇を重ねてくれた









「……そこのお2人さん」


「…無理よ、聞こえてないみたい」


「由乃ぉ、私ぶっ飛ばされるって…」


「令ちゃんも叩いたじゃない」


「もう何だか…」


「台風ですよね、あの2人は」


「その台風を巻き起こすのはいつでもさんなのですね」











勝手な事をほざいているメンバーは放っておいて私は、

やっと機嫌を直してくれた江利子と触れ合っていた


独占欲が強くて

面白い事が大好き




江利子は普通の人では手に余る程の女性だと思うけど

私にとったらとても大切な存在



…手は焼けるけど










でも後日、また告白されて抱き締めている所を見られて



今度は1週間口を利いてもらえず

そのとばっちりで薔薇の館の皆にも「自業自得」とぎこちなく無視され



でもたった一人天使のような優しい祐巳だけ相手をしてくれて



嬉しくて抱きついたら、




またしてもその現場を江利子に見られ










………その日は忘れられない悪夢の1日となった

























fin