「「「廊下に立たされた!!?」」」

「「え、ええ…」」




昼休みの薔薇の館にて響き渡る雄たけびに祐巳と志摩子は多少引きながらも頷いた

祐巳の隣で聖がお腹を抱えて笑っているのを見て、
蓉子はため息を漏らす




「それで江利子が職員室に呼ばれたって訳?」





本当に可笑しそうに涙を拭きながら聖は空席になっている江利子の席を指して言った



黙々と昼食を口に運ぶために活用されている箸を動かしていた蓉子が静かに頷くと、

聖の笑いは更に大きくなる









「保護者を呼ぼうにもあの子の場合居ないし、いつも一緒に居る江利子が呼ばれたってのよ」



「あははっ。でさ、祐巳ちゃん、志摩子。ったら何をしたの?」







その問いかけに2人は顔を見合す

そして、クスクスと笑い出した








「何?何があったのよ!?」



じれったいとでも言うようにテーブルをまたしても叩く由乃

その隣で由乃と一緒に叫んだ祥子と令もハラハラと返答を待っている








「早弁が見つかったんですよ、運が悪く」













………再び薔薇の館に、今度は爆笑が響いた

聖1人のものだが


近くを歩いていた生徒達は何事だろうかとこの館を振り返るだろう








「…運が悪く、っていつもしているの?」



蓉子の驚いたふうな問いかけに志摩子は頷いた




「………あの子がいつもお弁当が無い理由判ったわ」






その通り





は登校時刻擦れ擦れに起きるため、
朝食は抜いているから授業中に食べていた



だから昼になると肝心の役割を果たさない空の弁当箱を前に突っ伏しているのだった




まぁ、お弁当と言ってもは弁当を作る事が面倒くさいのでコンビニで買うパンがほとんどだったけれど













「…ハヤベンて何かしら?」




「お弁当を昼にじゃなくて授業中に食べちゃう…簡単に言えば早く食べるお弁当の事」






祥子は大方知らないであろうと推測していた令がすかさず説明をすると、


呆れたように目の前にある自分の弁当を見つめた









「お昼に食べなくてお弁当と言うの?」




「う〜ん…言うんじゃない?」










「令ちゃんも祥子さまも何呑気な事言っているんですか!が処分を喰らうかもしれないんですよ!?」







ただ1人、物凄い剣幕で捲くし立てる由乃を見て令はニヘラッと笑う






「まっさかぁ、早弁ぐらいで処分なんて…」



「だったら1人で済む問題でしょう!?でも保護者代わりが呼ばれる事態になってるの!!」




「でも、ねぇ。お姉さまの事だし…」







「あの人は事を余計面倒くさくして面白がる人よ!いくら恋人でも自分の脳髄を満たすためなら利用しかねないわよ!!!」












「ま…さ…………かぁ………」








段々自信が無くなって来たのは令だけでは無かった


祥子も蓉子も聖でさえも嫌な予感がしてならない





これから昼食という時に放送で呼ばれた江利子の、開きかけの弁当を誰もが見つめる中





蓉子だけは初めから憶測していたとでもいうように黙々と箸を動かしているだけだった


















カチコチ




カチコチ…









時計の針の音だけが静かな部屋に響き渡る

もう既に、捲くし立てる者も笑い転げる者も、何も無かった




ただ皆これは夢でありますように、とでもいうふうに黙って昼食を終わらせている



















「たっだいま〜っ」




まるで語尾にハートマークが付くのではないかというくらいご機嫌な声に一向は扉を振り向く


そこには満悦の笑みの江利子が、それとは対照的に不機嫌そうなを引き連れて居た








「随分嬉しそうじゃない、江利子」


苦笑をしながら自分に話しかけてくる聖に江利子は嬉しそうに微笑む





「そりゃあね、なかなか経験出来ない事が出来たんだもの」


「確かにそう経験出来る事じゃないわね」




目の前で親友3人組で交わされる会話を他所には江利子の脇をすり抜けて一番近くに居た令の肩に抱きついた




「お疲れさん」

「…ん〜……」



肩口に頬を摺り寄せながら、

まるで戦場から帰還しましたとでもいうように一息つく





「で?どうだったの?」


「どうもしない……けど、あの女が」






の重たげに上げられた手が指すのは、まごうことなき江利子

当の本人は嬉しそうに微笑んでいるだけだが







「余計ややこしい事にしやがった」







(やっぱり…)



この部屋に居た誰もがそう思ったであろう

ため息が一斉に室内を支配した







「ややこしい事?」




「自宅で2日間謹慎処分の間江利子も欠席扱いにならない」






「「「「「「「……はぁ?」」」」」」」










全く要素が掴めないの説明に誰もが首を傾げる


、最初から1つ1つ説明してくれる?」




令に肩越しに振り返ってそう言われたは面倒くさそうに顔を顰めた










「だからね、私は自2日間自宅謹慎なんだけど」


「うん」


「2日も休めると思って喜んでたんだけども」


「…うん」



「江利子の馬鹿が『じゃあ私も一緒に。保護者代わりに監視します』とか言いやがって」










「………お姉さま…」



「「…江利子」」


「「「「…江利子さま……」」」」









「あら、だって面白そうだったんだもの」
















「面白そうだったで済むかぁっ!!貴重な休日を!!!」




「休日じゃないから、それ」






由乃の的確なツッコミに応じる事もなく、

は恨みがましい目つきで江利子を睨んだ






「わざわざ自分から謹慎を貰う生徒って初めて見た」


「謹慎じゃないわよ、私の場合。監視役として特別に2日間の単位取得を免除して貰ったの」






聖が感心したように言うと、江利子は人差し指をチッチッチッと揺らしてそう誇らしげに言う










「あの…1つ意見があるのですが言っても宜しいでしょうか?」



「…どうぞ、志摩子。珍しいわね」







「ええ……、どうして皆さんさんが謹慎になったことに対しては何も言わないのですか?」











「「「「「………(ちゃん・さん)っ!!!!!」」」」」


「それもそうだねぇ」






「志摩子も余計な事言うなァッ!!」




ポン、と拳で手の平を叩く聖を尻目には既に涙目で志摩子に叫んだ







「お仕置きしないと、ね。私達からも」

「えっ?お仕置き!?何すんの、蓉子っ」



「あ、それ面白そう!」

「聖!!面白そう、で済まないよ!蓉子の事だし!!」



「そうですね、生徒会ですし…問題児に対する処分を与えられる権威はありますし」

「いやいやいやいやいやいや!!祥子も!何言ってんの!!!」



「自覚ないんだねぇ、リリアンの生徒だっていう…」

「令も何故に乗り気なの!??」



「う〜ん…、あ〜んな事とかこ〜んな事とか…良いわね!」

「何!!何だよ、あんな事とかこんな事って!!由乃の裏切り者!!!!」




「……頑張ってね、さん」

「同感」



「志摩子!祐巳!!見捨てるなぁっ!!」























「……疲れた」




リビングで寝転がっていると江利子が可笑しそうに笑いながら、
コーヒーを2杯持ってきてくれた





「でさ、そのお泊りセット持参って事は本当に2日間監視するって事?」



「もちろん。家族には4泊2日泊まって来るって了承済みよ」







「う〜……」








いや、ね



江利子がずっと一緒に居てくれる事は嬉しいんだけど






……煙草吸えないんだよなぁ、江利子が居ると







だってバレた後が怖いんだもんよ



蓉子や祥子姉ちゃんの耳に入ったりでもしたら、地獄を見そうだし


















「なぁに、私と居るのそんなに嫌?」





江利子の身体に凭れかかっては「ううん」と首を横に振る











「謹慎なんてもう喰らわないでよ?学校で2日間も会えないなんて耐えられないもの」




「…ごめん」







時々無茶するけど





時々…いや、いつも迷惑被るけど










それでも私の大好きな人
















「この2日間は思い切り甘えるからね」




「ふふっ、いいわよ」














ずっと…ずっと、大好きな人




































fin