「……江利子の家に?」












心底驚いた顔をしてみせて言う蓉子に、


は机に上半身をうつ伏せたまま頷いた







皆のお茶を飲む手も止まっていて
何があったのか想像がつくらしく、揃って苦笑してる










「行ったの?江利子の家に」







再度、同じ事を主語を加えて訪ねてくる聖に

またしもはうつ伏せたまま頷いた









「昨日突然呼ばれて…行ったんだ。………そしたら…」








途切れ途切れに力無く呟くに続けて、


1番苦笑していた令が口を開く













「お兄様方とお父様に色々問い詰められたんでしょ?」






「そう!!!『江利ちゃんとどういう関係なのか』とか『どこまでいったのか』とかさ!」






「私も前にそれ聞かれたなぁ…後ね、『江利ちゃんを幸せに出来るのか』とか聞かれたんだ』






「それに加えて『遊びじゃないだろうな』とか!!!!!!あ〜もうっ!!」


















祥子のヒステリーじゃないけれど、自らの頭を掻き毟りながら叫ぶ




良く男に間違えられる唯一の仲間である令と
意思疎通出来て幾分か楽になったらしく、上半身を起こして肘杖をついた














「そりゃあ令と違ってチャラチャラしているからねぇ、は」




「あぁ?悪かったね、チャラチャラしてて」








肩を震わせながら笑う聖に、睨みを利かせて皮肉を言うと

蓉子も優雅に肘杖をついて空いている手でを指す





正確にはの両耳を指して、ピアスの数を数え始めた











「1、2…3、4……そのイヤーカフもピアスの類よね?5、6、7………8。開け過ぎじゃない?」









「「「「「「8!?」」」」」」







今、此処には居ない江利子と

数えた張本人である蓉子と

当事者である以外の全員が叫ぶ










「開け過ぎっていうか…そこまで開ける意図が判らないよ、





「ん〜、 何て言うか気がついたらこんなに増えてた…」









聖の呆気に取られた感想に、はケロリとして答えた












リリアンでは


ピアスをして

髪を染めて

服装を乱す




という校則違反をする者は居ないから



彼女達にとっては1個や2個でも相当大人びたイメージしか無かったのだが…





8個となると別だ



開けるというだけで耳が劈くような幻痛が出るのに


…これ以上開ける場所も無いくらいに穴があるというのだ











「8個……想像しただけで痛いよ」


「皆も開ける時は言ってね、開けてあげるから」





令が身震いすると、

はニヤリと笑って室内を見回す




そして行き着く先は


お気に入りの子狸ちゃん







「特に、祐巳ちゃん」


「ふぇぇっ!!?私はっ、いいよ。開けないからっ!!!」


「開けた瞬間の顔が見たいんだよねぇ」


「わわっ、痛いんでしょ?!私駄目だもん、そういうの!!」


「…ん?そうだね、ピアッサーだとガッシャーンって。でも私は安全ピンでぐりぐりやったからね」


「ぎゃ〜っ!もうそこまで!言わなくていいから!!!」


「ふふふ、いやぁ、快感だな」










じりじりと詰め寄って、怪し気な笑みを浮かべる

そのから耳を塞いで逃げるようにじりじりと後ずさりする祐巳は



…微笑ましい光景だった









そんな微笑ましい光景が繰り広げられている中で扉の開く音がして

2人の丁度側面に現れた彼女は口端をつり上げる










「随分楽しそうな事しているじゃない」



「黄薔薇様っ!助けてください!!」











何を思ったか、祐巳は1番相応しくない人に助けを求めた


恐らく部屋中の人間が絶句したであろう









「江利子、一緒に祐巳にピアスホール開けようね?」


「…読めないんだけど、話の流れが」






の誘いは無視して、鞄とコートを部屋の隅に置くと

いつもの蓉子を挟んで聖の反対側にある自分の席に着いた






のピアスが幾つあるか、数えたのよ」


「どうして?」


と令の違いはチャラチャラしてるって所」


「何で?」


「江利子の家に行ったんでしょう?その時にお兄様方に品定めして頂いたって話から始まったの」








蓉子、聖、蓉子、という順に交互に江利子の問いに答えると、


江利子はやっと納得いったみたいで、鼻を鳴らして笑う










「確かに品定めだったわね、完全に」



「……ああなる事が判ってて何で呼ぶんですか」









祐巳を追い詰める事に飽きたがため息をついて、

自分を手招きしていた聖の膝の上に乗ってうな垂れた








「兄達にどう判断されるか試してみたかったのよ、1度ね」


「…令ちゃんはどうだったの?」






「だって私はお姉さまの妹です、って言えばそれで解決だし」











意地悪な恋人の答えに、はしばらく考えると令に向き直る


令は苦笑しながら紅茶を口に運ぶのを止めて即答した












「聞いてよ、蓉子。この子ったら兄達に何て言われたと思う?」


「色々聞かれたんでしょ?さっき聞いたわよ」






身を乗り出して隣に居る親友に可笑しそうに告げる江利子に、

蓉子は小さく笑って先程の事を伝える








「それだけじゃないわ、…ふふふっ。本当に可笑しいのよ」


「何?どうしたの?」






「『婿に来ないと許さないぞ、嫁にはやらんからな』って」









「「っあはははっ!!!!!」」






蓉子と聖が大声でお腹を抱えて笑う中

令や祥子達も不機嫌そうなを見て、いけないと思いつつ笑いを隠せない







「何それ、完璧男として見られてたって事!?」


「私は面白いからそれで良かったんだけれどが嫌だったみたいで否定はしたんだけどね」


「でも合うんじゃない?の花婿衣装」


「いいわね、それで江利子をお姫様抱っこして貰って教会から出てくるの」


「そこに私達が紙吹雪を投げかけるのか」


「それも面白いわね、…やる?」









「やらん」













もう誰にも止められない山百合会最強幹部の談話をはいとも簡単に止めてみせた









「大体婿になんぞなったら江利子と一緒に居るだけでも怒られるじゃん」


「確かにねぇ……、でもアレでしょ?お母さんには気に入って頂けたんでしょ?」







膝の上の我が子を抱きしめながら聖が笑う








「うん、帰り際に色々貰った。お菓子とかジュースとか」


「さすが、抜け目は無いね」


「もちろん」















「で?江利子の家の感想は?」











ニッコリと微笑みながら、問いかけてきた蓉子に


はしばらく考え込んでから眉を顰めてただこう言った



















「人生で2度と行きたくない場所No.3」















「あははははっっ!!見事ランクインだ!」



「ふふっ、さすが江利子ね」










またしてもお腹を抱えて笑い出す親友2人を江利子はじろりと睨む




けれど面白そうな事は見逃さない鳥居江利子


自分の家を侮辱された事よりも気になる事が出来た













「ねぇ、その人生で2度と行きたくない場所No.2とNo.1って何処なの?」







「No.2は歯医者」


















またしても爆笑が薔薇の館に巻き起こる

たまたま薔薇の館の前を通りかかった一般生徒は一瞬ビビる事間違いなし



お嬢様の祥子や志摩子も口に手を当てて声を出して笑う始末















「まぁ…それは私もよ。で?1位は?」







「……柏木の居る場所」



















3度目の大爆笑、降臨




苦虫を噛み潰したような顔をして視線を泳がす












江利子の笑みが向けられる






















「じゃあ、人生で何度でも行きたい場所No.1は?」

















「……何の答え期待してるの」











「もちろん、賢明な答え」



















江利子の問いに、巻き起こっていた爆笑の渦は消え



を注視する









その中では1人、頭を掻きながら考える仕草をしてみせた
























「んと…No.3が、駄菓子屋さんで」












「可愛い」と呟いたのは祐巳



皆の鋭い瞳は微笑ましいモノに成り代わり、

次の答えを期待する




















「んで、No.2は皆の膝の上で」












「え?玩具屋じゃないの?」と茶化したのは由乃


お互いの顔を見合わせ、照れくさそうにハニかむ一行





















「んでNo.1は江利子の腕の中」












































「……お熱いこって」



「ご馳走様」















親友達の皮肉にも、江利子は動じず


嬉しそうに微笑んでに向けて腕を広げた












照れくさそうに聖の膝から降り、

江利子の腕の中へとが飛び込むと




江利子はギュッと強く抱きしめる
















「ありがと」


「どういたしまして」












耳元でそう囁く江利子に

は少し笑ってから気持ちの良い返答をする


























”何度でも行きたいと思う場所が




最愛の人が居る場所だというのは、











とても微笑ましい事なのかもしれない
























……見事ワースト1位に認定された柏木は、その後祥子に冷たくされ

家から追い出されるなりされて

1人訳が判らず困り果てていた――




…困り果てていても笑顔を絶やさない所が嫌われている要素の1つだとも知らずに



……否、知っているからこそやっているのかもしれない














つくづく嫌味な男だ…”















by.sei




















fin