最近私の周りをうろついている狼がいます




その狼は常に美味しい餌はないか探し回っているけれど、

私の何処かが美味しそうに見えるらしく最近しょっちゅう私を見て舌なめずりをするものだから悪寒がして堪りません











「…あぁ、見てる見てる……助けて蓉子」


「ふふっ、も大変ね」


「笑ってないで助けてってば〜、背中に視線をビシバシ感じるの」











机に上半身を突っ伏しながら呻くと、

中学から一緒の持ち上がり組で親友の蓉子が笑う



絶対蓉子もこの状況を楽しんでいるに違いない










「江利子も見る目あるわね、改めて感心しちゃうわ」


「何、その見る目って。嫌だよ、こっちは何時食らわれるかハラハラしてんのに」


「ふふふっ、まあせいぜい食われる迄の時間を先延ばし出来るよう頑張りなさい」


「ねぇ、蓉子。何で食われないように頑張れって言ってくれないの」


「だってスッポンの江利子から逃げられた人を見た事ないもの」


「……温かく固い友情を用いて身代わりにでも何でもなってやろうとは思わないかな?」


「全然。残念ながら私も我が身は大切なのよ」


「…薄情者」












ぽそりと呟くの頭を蓉子はひじ杖を着きながら撫でてやる

そしてちらりと、教室の窓側に居る江利子へと目配せをすると


意味有り気に微笑む




蓉子からその笑みを受け取った江利子は一瞬だけ眉間に皺を寄せる












「さて、私は自分の教室に戻るわ」


「あ、うん」








席を立つ蓉子を見上げては上半身を起こして座り直してから見送る体勢を整える

するとから離れる前に蓉子はの耳に口を寄せて囁く








「嫉妬させてあげたから、頑張ってね」


「………応援するどころか敵を煽ってどうすんだっ!?」


「あら、知らなかった?私も面白い事大好きなのよ、因みに聖も」


「…要するに敵だらけだと思えって事か」


「察しの良いこと」










悪戯っぽい笑みを浮かべながら教室から出て行く蓉子の背中を見送り、
は脱力する


そして此れから来るであろう人物から逃れるためにそそくさと席を立つ



















間髪いれずに肩をがしっと掴まれる

貴方ついさっきまであちらの窓側にいらっしゃいませんでしたか



何故一瞬で背後に回れるんですか


スパイか何かですか




瞬間移動なんて凄い技をお持ちですね


















「……私お手洗い行ってきます…」


「じゃあお供するわ」


「いやっ!!やっぱりお手洗いじゃなくて聖の所にでも行こうかな!」


「聖の所に?…OK、行きましょう」


「い〜や〜っ…あのぉ、あ!保健室。保健室に行くんだ」


「保健室?何故?」


「ちぃ〜っと熱っぽいんだ、朝から」








江利子の手の中からするりとすり抜けて、保健室へ向かう

けれど後ろからあの視線は未だに感じられる


…付いてきてる



何処に行けば江利子は来ない?


何処に行けば江利子は諦める?





…あぁ、地獄まで付いてきそうだからこの世界にはそんな場所存在しないんだろうな














保健室に入ると、先生は居なかった

だから取り合えずドアを閉めて1番奥の席に座る



座ったところでドアはまた開かれて江利子が次いで入ってくる

とことん付き纏うらしい











ドアの辺りに居る江利子から背を背むいてベッドに潜り込む
ベッドの中から見える窓からは青い空が広がっていて

白い雲がゆっくりと流れていく


このまま何もせずに眺めていたら眠ってしまいそうだ















?」


「………」


「もう寝たの?早いわね」













江利子がベッドに備え付けてある椅子に座る音が聞こえる

けれど私は目を向ける事もしないでそのまま狸寝入りを決め込む




髪を触られる

指先でくるくると弄っているのかこそばゆい




















「貴方はどうしていつも私を避けるの?」











それは貴方が虐めるからです













「どうして蓉子や聖の所にばかり居るの?」












それは貴方が2人が居る時は手を出さないからです















「どうして声をかけると身体を強張せるの?」













貴方の手が此れから楽しもうという意思を伝えているからです














「どうして私を好きになってくれないの?」

















それは…








…………えっ?























「…やっぱり起きてた」












思わず口に出てしまっていたのか、江利子は可笑しそうに笑う





もうバレたから私は諦めて顔を江利子の方に向ける

その笑みはいつもと何らか変わりないけれど


何だか言い表せないけれど違った















「江利……子…?」



、熱なんか無いじゃない」



「江利子、今の…」












額に手を当てて呆れた様に笑う江利子の手首を掴む




すると江利子の顔が近づいて来る




段々近くなっていく顔に、嫌悪など不思議と抱かなくて

近くで見ても綺麗だなって感心する








触れるだけのキスは

とても長かった





青空の雲が形を変えてしまった頃

やっと離れて






静かな時間がとても綺麗な物に思える



















「奪っちゃった」

















そう言って目の前で微笑む江利子は

今まで見た江利子よりもずっとずっと綺麗だった






私は綺麗に微笑み返す事が出来たのだろうか








笑いながら
























「奪われちゃったよ」

























と目を腕で覆う






その腕を引き剥がされて江利子は私の身体を起こす

そしてベッドから降りさせ、立たせると耳元で囁く

















「このまま食っちゃおうかしら」







「……ふふっ、どうぞお好きに。高級物だから味わってね」


















そう笑いながら返すと、

江利子は帰りましょうと腕を引いて来た


















帰り道私は訊ねてみる事にする













「ねぇ、私に付き纏うのは面白い対象だから?」




「…野暮な事聞くのね。もちろんそれは大前提としてあるけど、貴方が好きだからよ」




「大前提としてあるんだ?」




「私こそ聞いてないわよ、私に応えてくれる理由。私がしつこいから折れたの?」




「もちろん大前提としてあるよ、江利子がしつこいからってのは。江利子が好きだからだよ」




「ふふっ、じゃあどうして逃げたりしてたのかしら」













「貴方の私を見る目が獣だったから、怖かったの」







































いつだったか、蓉子と聖が言っていたのを思い出す



江利子のしつこさに参っていた時、2人は笑って一言言う















『江利子のスッポンさは、江利子なりのI LOVE YOUって意味なのよ』



『好意を寄せてない人や印象がよくない人には近づかないで遠回りに見ているだけだよ』



『愛されているのよ、貴方は。今までで1番のスッポンさだもの』



『スッポンに愛されても苦労は見えるけど、頑張ってね。江利子はああ見えて一途だからさ』























fin