時が経つのは早いもので
あの頃は片言の言葉しか喋れなかった子どもも、
必要以上に口達者になっていたりするのが世の中だ
ニコニコと純粋な笑顔を浮かべていた子どもも、
裏で黒い事を計画してたり悪知恵が付いていたりするのが世の中だ
旧名・
改め、佐藤 も例外では無かった
無邪気に笑っていたも、
聖と蓉子と長年培ってきた時間のお陰で
リリアン永遠の子狸をからかって遊ぶという業まで手に入れてしまった
江利子と長年培ってきた時間のお陰で
面白そうな事が起こりそうな時は遠巻きにジッと観察してみるという事も覚えてしまった
祥子と令と長年培ってきた時間のお陰で
行くときは行かないといけないという世の中の鉄則を知ってしまった
由乃と長年培ってきた時間のお陰で
物には何事でも限度があるという常識を得た
志摩子と乃梨子と長年培ってきた時間のお陰で
人間は外面だけで判断してはいけなくて人間には表と裏が必ずあると学んだ
祐巳と長年培ってきた時間のお陰で
人間退くべき所では退いた方が良いと理解した
一癖ある人間達の中で育ったは、一癖ある小学生に育ってしまったのだ――――――
佐藤 は小学6年生になろうとしていた……
小学高年になると始まるサークルも面倒臭い
帰宅時間は遅くなるし、
まだ小学生だから先生の言う事には100%従わなきゃいけないという組織だから
何もかもが自由の無い学校生活
これ以上に厳しい学校で聖達が何年も過ごしてきたなんて信じられないくらい
帰宅路を照らす夕日
もうボロボロになったランドセル
どれもが感傷的にさせる道具
11歳の誕生日
私は独りで過ごす
別に友達とか皆が祝ってくれないとかそういうんじゃない
只私が遠慮をしただけ
そう、断ったのは私だ
だから寂しいなんてのも自業自得
小さい頃は私の誕生日になると皆が集まってくれてお祭り騒ぎだったけど、
皆それぞれ生活がある
あの頃はまだ社会人になって間もなかった皆は
今はもう立派な社会人で
仕事に毎日身を削っている
其の中でまだまだ小学生である自分が取り残されるのは当たり前の事だ
それでも…心は
ああ、この夕日とか感傷的にさせる道具達の存在がいけない
どうにも心細くなってしまう
家の鍵を開錠して、そっと中に入ると
聖の靴はもう無かった
もう仕事に出掛けたらしい
蓉子の靴が無いのはいつもの事で
少しだけ期待していた自分に呆れる
小学3年生になるのと同時に与えられた部屋にランドセルを置くと、
その部屋にまで夕日は進入しており室内を紅く染めていた
堪らなくなってカーテンを閉める
リビングに向かうと、
其処には僅かに先程まで聖が居た形跡が残っていた
ソファに座ってテレビを付けてみる
夕方は何やらドラマの再放送しかやっていなくて、
バラエティでも見て気分を上げたい気分だったのに当て外れ
直ぐにテレビを消す
ベランダの窓を開けて風通しを良くする
そして再びソファに寝転がり、目を閉じてみる
風が頬を擽るのが気持ち良かった
きっと、今日も蓉子は帰りは夜中だろう
聖もあの店が人気が出始めて帰りは朝だったりするようになった
もうずっと2人の顔を見ていない気がする
朝は蓉子はとっくに起きて出掛けているし
聖はぐっすり眠っている
小さい頃は…こんな事は絶対に無かった
1日に顔は必ず合わせて、何か遊んで貰ったりしていて
もしどうしても忙しくて時間が取れない時は仲間達の誰かを呼んでおいてくれたりしていた
もう、誰もこの部屋には集まらない
目を閉じたまま額に手の甲を当てて集中してみると、
遠い所から声が聞こえる
『はい、一気に蝋燭の火を吹き消してね』
『いっきに?むりだよ…』
『大丈夫よ、それは建前で全部消せば其れで結果オーライなんだから』
『うん、がんばる!すぅ〜っ……』
『ふぅ〜っ』
『っあぁぁあ!!ようこぉ!えりこがけしちゃったぁ!!』
『江利子!何子どもみたいな事しているのよ!』
『あははっ、見て見てのこの顔!癖になるわねぇ』
『うぅ……』
『お姉さま、止めましょうよ。今日ぐらいは』
『そうだよ、江利子。今日はが主役なんだからね!』
『毎日が中心の癖に』
『ご名答〜』
笑い声が聞こえる
皆の真ん中で嬉しそうに笑っている私
結局蝋燭の火を吹き消す前に懲りてない江利子が苺を食べちゃって、
もう歌を唄う雰囲気じゃなくなってしまい
そのまま令お手製のケーキを食べる事になったんだっけ
でも令がやっぱり優しいから自分の苺を全部くれた
そして其れに次ぐ様に江利子以外全員が苺をくれてご満悦の私を他所に、
皆は江利子1人だけにブーイングを浴びせていた
だから、私は苺を1つ江利子にあげた
苺が大好きなんだろうなぁと思ってあげたら、江利子はポカンとしてしまった
そして江利子は、優しく微笑んでケーキを半分くれた
何もかもが輝かしい思い出
もうあの頃には戻れない
あんなに素直に聞き分けの良かった子どもじゃない
私にだっていろいろあるし、
もしかしたら此れが俗に言う反抗期もしくは思春期なのかもしれない
だとしたら、これは絶対に誰にも言えない
心配や迷惑をかけたくない
聖と蓉子
皆には世話になっている
恩人だ
この私を拾ってくれて明るい世界に引き込んでくれたんだから
決して迷惑なんてかけちゃいけない
我侭を言っても良いんだと言ってくれたけれど
それは小さいから許される事で
もう自分でいろいろ考えて行動が出来るようになった年頃なんだから
我侭なんて言っちゃいけない
どんなに寂しくても傍にいて欲しいなんて言っちゃいけない
どんなに寂しくても顔ぐらいは見たいなんて言っちゃいけない
どんなに寂しくても授業参観や運動会に来て欲しいなんて言っちゃいけない
時間は流れる
気付けば頬を生暖かいものが流れている
手の甲で拭っておく
跡になってしまわないように気をつけながら擦る
ふと、目を開けてサイドテーブルを見るとある物が目に入った
其れに自然に手が伸びていて
気付けばGパンのポケットの中に入り込んでいた
♪〜
静寂を保っていた部屋に突然明るい音楽が流れ始めて
今しがた手を突っ込んだばかりの手を引き抜いて、
後ろのポケットに突っ込む
心配性の聖に持たされた携帯電話が着信を告げていた
画面を開くと其れは携帯を持たせた本人で、
しばらく眺めていて
そして電話に出る
「もしもし」
(あ、?もう帰った?)
「うん、さっき」
(丁度良かった、今日お店混みそうでさ。私と令だけじゃ人手足りなくて、ちょっと手伝ってくれないかな?)
「あのさ、未成年…しかも小学生にバーの手伝いさせるかな?普通」
(今更じゃん、其れにお姉さまウケ良いんだから客寄せにもなるの)
「…バイト雇えばいいじゃん」
(雇って1から教えるよりも既にプロのと令に任せる方が効率良いんだって)
「……いい加減あんな重労働で只働きはキツイんだけど、バイト代取るよ?」
(くっ、が…可愛かったのに現金になってる!…判った、時給500円で)
「安っ。…まぁ小学生なんだからいっか。OK、すぐ行くよ」
(うん、宜しくね〜)
上機嫌で切られた電話を睨みつける
どうしてこう1人で佇みたい時にこの人は呼ぶんだろうか
ため息を吐いて仕度をするべく洗面所に向かう
こんな泣き顔で聖に会う訳にはいかない
水で思いっきり洗ってから、
服も小学生用から夜の高級な服に着替える
とは言ってもYシャツに黒いパンツスーツだけれども
江利子が以前に面白がって買ってくれた物だ
髪も小さい頃とは違ってもう短く切り添えてある
それをワックスで立てて決めてから靴棚の中から革靴を選び穿く
家中の電気のスイッチを切って、再び鍵を掛けて家を出る
このスタイルだとあくまでも小学生には見えないらしく、
大絶賛だったからそれ以来店に行くときはこの仕様だった
帰りは令に車で送って貰うから、行きは徒歩とバス
夕日はもうとっくに沈んでいて
紫色に近い不思議な色が空を支配していた
バスに揺られながら私は街並を眺める
寂しい誕生日は此れで2回目だった―――――――
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