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きっと、私達は



明日ばかりを見つめ過ぎて

上ばかり見過ぎて





足元に気付かなくて


気がつけば何かに躓いて転んでしまう






そんな事の繰り返しなんだろうな






そう思うと胸の奥で何かが少し軋んだ

まるであと1つで出来あがるジグゾーパズルが、端から崩れようとしているみたいに





まだ完全に陽が昇りきっていない街並を我が家へと歩きながら、

指に挟んでいた煙草を咥えて咥え煙草にする


その先から白い煙がゆらゆらと、
私の目と景色の間を遮る





まるで私の視界を奪うかのように



そう思うとどんどん思い込んでしまうけれど、

例えば



この煙は


まだ頑張れるよ

まだ先は続いているよ



そう励ますかのように天へ上っている




そういう風に考えると、
それも悪くないと思う


物は考えよう

物は思いよう



ならば、それをどうするかは自分次第なのではないか












もうずっと会っていない人達が

朝日に重なるように現れて、優しく微笑む







(今更気付いたの?貴方は本当に不器用ね)


(聖がこうしたいと思う方向に進んでいけばいいの、私は見守ってるわ)


(貴方は皆の心に自然と居座る力を持っている、其れを見出せばいいのだと思います)










近くに居る筈だけれど連絡も取っていない昔の大切な人

近くに居るのかも遠くに居るのかも死んでいるのかも判らない昔の大切な人

遠い地に居るけれど時々手紙のやり取りをしているだけの昔の大切な人






彼女達は、それぞれの目を細めて微笑む
まるで私の背中を押してくれるかのように、風がひとつ吹くと

それにかき消されるように3人の姿は消えて


気がつけば我が家が目の前に映っていた











そっと音を立てないように、鍵を開けようとすると
逆に鍵が閉まってしまった

鍵はかかっていなかったらしい


きっと、蓉子が開けておいてくれたんだ

全く無用心なんだから




小さく口角が釣り上がるのを自覚しながら
扉も音を立てないようにそっと開けて中に入る


するとリビングから光が漏れている

まだ薄暗い時間帯なのに、もう既に蓉子は起きているのかと思った



けれど中に入ると、
ソファの上で寄り添うように眠ってる蓉子と馨が居る

祐巳ちゃんから電話が来たけれど、
私を待ち続ける馨に付き合って蓉子も時間を潰しているうちに2人とも眠ってしまったらしい





物凄く胸が締め付けられる






ソファに手をかけるとその重さでスプリングがぎしりと軋んだ
そのまま、大好きな人達の寝顔を見下ろして見つめる


その寝顔達は時々眉を顰めたり動いたりするけれど起きる様子は一向にない



自然と顔が降りていって、

まず蓉子の額に口付けを落とす


起こしてしまわないように優しく




少しして名残惜しそうに離すと、今度はその隣に居る馨の顔にも唇を近づける

額にそっと愛しい気持ちを蓉子と同じ位込めてキスをした













「…んっ……せい…?」


「っ!?」












ふと唇の下で馨は目を開いて、
舌足らずな口調で私の姿を確認する

熟睡していると思っていた私はさすがに吃驚して慌てて上半身を離す



1度、目をこすってから馨は再び私の顔を見上げる

そしてその腕が私の腕に伸びてくる
腕に手を絡めて、ぐいっと引き寄せられた











「おかえり、せい」


「……」













私は酷い事を沢山馨にした
何も気付かないで、

そのせいで更に傷つけて



傷つけまくった私を、馨は抱き締めて出迎えの言葉を言ってくれた

今は何だかその言葉が凄く嬉しくて
目尻がじーんと熱くなる










「…っただいま……馨…」


「おかえり、聖」
















静かに流れる涙は、馨の肩口へと吸い込まれていく

何て小さな身体なんだ


何て温かい身体なんだ





何て、愛しい存在なんだ









蓉子とは違った温もりに私は目を閉じて抱き締める

























「ごめんね、馨…ごめん。もう…馨を忘れたりしない」


「…うん」


「ねぇ、馨。誕生日…もう1度チャンスをくれないかな」


「……しょうがないな、聖だけだよ」


「うん、有難う…」













馨は私の胸の中で小さな頭を上げて、

無邪気に笑った





凄く懐かしい笑顔に、
私はこんな大事なものを自ら切り捨てていたのかと思った

けれど今はもう、馨は私に微笑んでくれる





だから、私も微笑んだ










貴方を愛しているよ、と



ありったけの想いを込めて優しく微笑んだ






確かに、蓉子にだけしか見せてこなかった笑顔なのかもしれない

馨は最初、目を丸くして驚くばかりだったけど
次第に嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして微笑んだ





蓉子は、女性として好き

大好き

愛している

いつでも傍に居て欲しい




馨は、子どもとして好き

大好き

愛している

いつでも傍に居て欲しい







判るかな?

この違いが










ごめんね



君に沢山謝る事がある






沢山の事を改めなくちゃいけない


けれど1つだけ、改める事が出来ない事がある
















蓉子への愛を

君へあげられない







蓉子は大切な人で
かけがえの無い人





だけど、








君への愛を


蓉子へはあげられないんだよ






君は、大切な人で
かけがえの無い人なんだから










君だけに向ける愛を


受け止めてくれるかな…―――――




















「聖、明後日…授業参観があるんだ」


「うん」


「皆それぞれ自分の事について発表するんだけどね」


「うん」


「テーマは"家族"なんだ」


「え…?」


「自分の家族について話すんだよ、5分間。2時間かけて」


「そう、なんだ…」


「だから、聖と蓉子にどうしても来て欲しかった」


「…馨」


「どうしても仕事を休んで見に来て欲しかった、今まで1度も来てくれた事ないじゃない」


「………わかった」


「え?」


「行くよ、蓉子も連れてちゃんと。馨のためだもんね」


「…本当?」


「もちろん、もう約束は破らないよ」


「…っ聖大好き!!」






















静かな街並がオレンジ色に染まって、

今日も1日が始まる



其の中で私達は毎日いろんな事に出会って



いろんな事にぶつかる






笑いもする

泣きもする

怒りもする

挫けそうになったりもする













けれど、明日は必ず


万人に平等に訪れるんだ





だから絶望してはいけない

自分を責めてはいけない

他人を責めてはいけない






上ばかりを見て歩いてもいけない











歩き疲れたら、時々ちゃんと休む事


上ばかり見てないでたまには下もちゃんと見る事


他人を責めてしまったら自分の悪い所も改めて見直す事


自分を責めてしまったら此れからはどうすればいいのか考える事








絶望してしまったら……ふと隣を見てみよう


大好きな人達が微笑みかけてくれている筈だから












どれも見落としてはいけないよ、



































next...