「でもさ、お客沢山居ると思うよ?金曜日だし」

「それがあら不思議、居ないのよね」

「何で江利子にそんな事が判るのさ」

「何故かしらね」










ほくそ笑む江利子を、じと目で見上げると
その目つきが気に入らなかったのか江利子はサングラスの鼻にかける部分を押してきた

その金具がそのまま鼻に押し込まれる感じでかなり痛かった


上半身を逸らしてその魔の手から逃れる







「痛いんだけど」

「痛くしてるのよ」

「…悪魔」

「悪魔で結構」

「鬼」

「鬼で結構」







しらっとそう言う江利子の横顔を睨みながら、
は店のドアの取っ手に手をかける

が、その手は江利子の手によって制される





「江利子?」

「…ちょっと面白い事考えたわ」

「……どうせろくでもない事でしょ」

「違うわよ、面白い、事、よ」




わざわざ区切ってそう言う江利子の顔には笑みが広がっていて
はため息を吐いてその取っ手を江利子に譲る

すると江利子は満足そうにの身体を自分の背後に押しやり、
ドアを開ける















「「「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」」」











突然そんな声が聞こえたかと思えば、紙吹雪が舞う

もちろん、江利子の上に
そして最初は歓声が沸き起こっていたけれど

直ぐに鳴り止む


江利子の後ろに居るには店内の様子が見えないが、

険悪な雰囲気なのは判った












「…有難う、私の誕生日はもう過ぎたけれどね」






「……江利子、約束が違うじゃない」

「もう…ぶち壊しじゃないの」

「お姉さま、それはさすがに拙いですよ」

「此処まで来るとさすが江利子さまって気持ちになりますわね」

「馬っ鹿じゃないの!」

「あわわっ、由乃さん!」

「今度素敵なプレゼントをお贈りしますわ、江利子さま」

「志摩子さん、藁人形なんか贈っちゃ駄目だよ?」






その会話だけでは事の成り行きが読め、苦笑する
そして皆から責められている江利子の背後から現れる







「あ、何か訳判らなくて空気汲み取れなくてごめんね」

「もうドン引きだよ…あ、もちゃんと来てたんだ」

「うん、ほら空けて貰った」

「お〜、痛くない?」

「大丈夫」






「……聖…」











耳を見せるに聖はニコニコしながら受け答えする

が、その場にダイヤモンドダスト降臨


微笑ましく笑い合っている2人に背後から忍び寄る冷徹のオーラ

一気に2人の表情は固まり、そちらの方は見れない












「どういう事?」

「…こういう事っ?」



冷や汗たらりでの耳を指しながら、
聖は笑顔で恋人の顔を見る




「今日空けたの?」

「うん」

「誰にやって貰ったの?」

「江利子兄A」

「江利子」

「ん?」





矛先はへと向けられ、
蓉子は笑顔そのものであっても目は全然笑っていない

けれどは物怖じする事なく淡々と答える

矛先は、江利子へ向けられた
既に店の奥に入っていてカウンターに座り水を汲んでいた江利子は惚けた顔で蓉子を見る







「どういう事?」

「どうも何も…がピアスを貰ったから、折角だし空けたいっていうものだから兄貴に頼んだのよ」

「へぇ、ピアス。誰に貰ったの?」

「せ…むがっ」





再び問われたが口を開くのと同時に聖の手によって塞がれる
その顔は真剣そのもので、
むしろ恐怖に怯えている感じだった

口を塞がれたは聖の腕を掻い潜って江利子の居るカウンターに避難する


令と祥子、祐巳、由乃、志摩子と乃梨子も先行きを読めて聖と蓉子の2人は放置して、カウンターに向かった








「なるほど、他の皆と中身が被ってしまわないようにという配慮からそうきた訳ね」

「…さっすが蓉子、察しが良いね!」

「何故小学5年生にピアスなんかあげるのよ、早いってのは充分にわかるでしょ」

「いやぁ…」

「何よ、言い訳があるなら言ってみなさいよ」

「あのね、えぇと…いや何でもない…」

「大体今日はリリアンに行っての転校手続きをしてきたのよ。リリアンでピアスなんて許される訳ないでしょ」

「それはっ、あの、学校にしていかなければ問題ないでしょ!」

「そうは言ってもね…それに貴方らしくないんじゃない?」

「うん…あのね、にあげたピアスってのはね」

「え…?」

「私のピアスと、蓉子のピアスを織り交ぜた感じのヤツなんだ」

「そうなの?」

「うん、だから見つけるのに時間がかかったんだよ」

「…あ、もしかして昨日の遠出しての買出しって…」

「そう、ピアスを求めて」

「……ふふっ、馬鹿じゃないの」

「うん、馬鹿なんだ」









そう言って、笑うと聖は蓉子の肩を抱きかかえて

カウンターに集まっている仲間達の中心で騒いでいるに目をやる


皆に囲まれて微笑んでいるを、愛しいものを見る目つきで見た





そして聖は蓉子の耳に唇を寄せる





小さな声で、囁いた











「何だかが笑っていると私達まで嬉しくなってくるよね」

「ふふ、本当に」

「此れが親って奴?」

「多分ね」

「そっか、すっごい幸せだな」

「ええ」
















壁なんて沢山ある





幾つぶつかって

何回倒れて


幾度立ち上がって頑張ればいいのか



そんなのこの先の人生で気が遠くなる程に続いている




壁を1つ乗り越えても、

その先にまだまだずらりと並んでいる





そんなの…耐えられないよ



でも、独りだったら耐えられない

いつも2人が背中を押してくれている
微笑みながら仲良さ気に肩を寄り添い合って、
見守ってくれている


時には励ましの言葉を


時には労わりの言葉を


時には怒涛の言葉を


時には無言で





けれど、2人は何があっても其処から立ち退く事はない

だから私は安心して前を見て歩けるんだ







ゆっくりと歩いていこう

走る事は出来ないんだから、
その分ゆっくり歩こう



時々後ろを振り返ってみよう







聖と蓉子は、手を振り返してくれるから


其れでまたもっと頑張ろうと思える















「はい、此れがお手製の特別ケーキ!は昔から生クリームが駄目だからね、チョコベースだよ」

「うわぁっ、チョコケーキだ!!」

「美味しそうね」

「言っておくけど由乃、虫歯なんだから食べちゃ駄目だよ」

「えぇ!?令ちゃんの馬鹿!!」

「由乃のためを思って言ってるんだから…

「令、この上に乗っている板チョコ食べてもいい?」

「もちろん、のケーキなんだから」

「やった!じゃあ早くお皿に取り分けようよ」

「ちょ、ちょっと待った。其の前に蝋燭立てようよ、ちゃん」

「えぇ、祐巳ちゃん、私子どもじゃないんだから、ほら切ろう」

「子どもでしょ!あ〜っ、包丁入れちゃった!ちゃんの馬鹿!」

「あ、前から思ってたんだけど9等分って難しいわよね」

「そうですね、分度器でもない限り完璧に9等分っていうのは…」

「其処はこの令ちゃんに任せなさい」

「わ、令綺麗に切れるんだね。凄い!」

「ふふっ、はい。のは少し大きめだよ」

「ありがと!…いっただき…あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

「江利子!」

「江利子…」

「お姉さま、全然進歩してませんね」

「大人げのない」

「さすが、江利子さまですね」

「うぅっ、江利子。また私の板チョコ食べちゃった……」

「江利子さぁ、もう少し大人になりなよ」

「いいじゃない、早いもん勝ちよ」

「江利子の馬鹿!!!」

「何よ、ピアス空けてあげたじゃない」

「空けてくれたのは江利子兄Aだもん、江利子じゃないもん」

「そういうのは屁理屈っていうのよ」

「江利子にだけは言われたくないね」

「あのね、…私最近思うんだけど貴方と話していると聖と話しているような気分になるのよ」

「へぇ、さいでっか」

「ほら、そういうチャラけた所」

「ちょっと、江利子。随分な言い様じゃない。私そんなにチャラけてないよ」

「どうかしら」

「どうだろう」

まで!酷い!」

「まぁ確かに立場が危うくなるとわざと口調軽くなるのは考え物ね」

「なっ…」



































どうして
人は

独りで生まれてくるのかなぁ









どうして
人は


死ぬ時は独りなのかなぁ
















だから人は其れまでの間

独りで居ないように誰かに何かを求めるんだろうなぁ











そう思うと、
少しだけ此れから先の人生が楽しみになってきた


自分が誰かに何かを求められたり

自分が誰かに何かを求めたり




何かをしてあげられたり

何かをして貰ったり





そんな時は



大事な人にその出来事を話して一緒に喜んで貰おう――――――




























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