ふと、いつもならあまり行かない本屋に寄ってみた

ふと、いつもなら気にも留めない雑誌コーナーに目を向けてみた





すると随分昔に1度だけ買った事のある雑誌が目に映り、
其処には有り得ない人物が居た



私は目を擦ってもう1度見やる






きっと、偶然なんてものは世の中に存在しないのではないか


何もかもが其の先の人生に必要となりうる出来事なんじゃないだろうか……
























「信じられない」

「………」

「本当、信じられないわ」

「………」

「馬鹿じゃないの、本当に。信じられないもの」

「蓉子、其れ10回目」

「黙って」

「スミマセン」






明らかにご機嫌斜めの蓉子の顔からふいっと目を逸らす
其処にも明らかにご機嫌斜めの江利子がぶすっと座り込んで自らの指を玩んでいる

あぁ、この2人に挟まれて早数年

かなり重たい空気なんだという事を誰が知りえよう


私は先程までの慌しい気分がどっかに吹き飛んでしまったかのようにおかわりの珈琲を淹れに行く

其処で令とばっちり目が合い、苦笑をされた








「あの…聖さま……」

「ん?あ、珈琲おかわり貰うね」

「其れは構わないんですけど…」

「何?」







ショーケースを挟んで言いにくそうにしている令に、
私は珈琲を淹れながら首を傾げる

すると令は辺りを見回してから頭を掻く








「此処で…その雰囲気を出されると困るんですよ…商売にならないといいますか」









其の言葉に私は令と同じように辺りを見回してから、苦笑して返す

そういえばあの後江利子と合流したのは令の店で、
とんでもない展開に完璧に腹を立てた蓉子の怒りは収まらずに江利子を問い詰めているという訳だ

おかげで立ち寄る客達はショーウィンドウをうっとりした目で見ていくが、
ぎょっと待機客専用のティースポットからの怒気に当てられてすごすごと退散していく


正確に言えば私のせいじゃない


珍しくびんびんに怒りを放っている蓉子と、
珍しくびんびんに怒りに答えている江利子のせいだ











「ごめん、今の状態じゃ私も降参だよ。何を言っても無理」

「…はぁ、もう今日は店仕舞いしようかな。1時間早いけど……」

「ごめんね、売れ残っちゃったケーキは私が買うからさ」

「大丈夫ですよ、今日は私も仕事に集中できなかったし反省すべき所が多いので」

「そっか。…それでの様子はどうだった?」

「元気…でしたとは言い難いですね、無理している感じがしました」

「…そうなんだ……やっぱり無理矢理にでも連れ戻す方がのためかな」

「さぁ…何とも言えません」













困ったようにショーケースの中から少しだけ売れ残ってしまったケーキを取り出しながら、令がため息を放つ


私は先程までが居たという控え室をちらりと覗き見ると、
淹れたばかりの熱々の珈琲を片手に元の椅子に戻り蓉子と江利子のしかめっ面を眺める




「もうさぁ…いい加減にしない?江利子にも非はあったかもしれないけれど過ぎた事を言ってても仕方ないよ」




そう言う聖に蓉子と江利子が小さくため息を吐く
そして2人とも「そうね」と頷き、席を立つ

蓉子は聖も先程見ていた休憩室を見て何やら物思いに耽る

江利子はケーキを片付けている令の所へ行って残りを頂戴していた




私はもうとっくに帰ったという祐巳ちゃんと由乃ちゃんに電話をかけ、
面倒を見てくれたお礼を告げるとふとある事を思い出す

そして鞄を漁り、大きな封筒に入っている其れを取り出すと

江利子と令のいるショーケースの前に来る








「此れ、見といてくれる?……物凄いそっくりな人が出てるから…」








きょとんとしている2人に私は少し眉を顰めて複雑な顔で封筒をショーケースの上に置く

そして蓉子の腕を引いて店を出る



夕方にしてはとてもカラッと快晴で、
オレンジ色の夕日が私達を包み込む

愛車に乗り込むと、未だに呆然としている蓉子に苦笑して
ギアを挟んで蓉子の肩をそっと引き寄せて抱き締める


そして出来るだけ安心させられるように低い声で耳元に囁く











「大丈夫、は…絶対に近いうちに帰ってくるから。バツの悪そうな顔で『ただいま』だなんて言って来るから」

「……うん…」

「大丈夫だよ、大丈夫。は私達の子なんだから、信じてあげよう」

「…っ……ええ、判ってるわ」

「だから、泣かないで」






そう言うと身体を少し離し、親指で涙を拭ってあげる
声を殺して泣いている蓉子が凄く綺麗で、

私は車の中でそっと秘密の口付けをした




そして前面を見ると
ガラス張りの令の店の中が見えて、
2人があの雑誌を手に青ざめているのが見える




此れで物語がどう動くのか






実のところ私だって半信半疑だ

だって彼女は葬式も済ませたし、
あの日から1ヶ月に1度は墓参りに行く江利子に時々付き合っていた



なのにあの墓石は空っぽだったというのか…



何が起ころうとしているのか

私には全然掴めなかった―――――――























私と蓉子が家に帰るなり、直ぐに江利子と令、そして祥子も加わってやって来た
恐らくあの雑誌の兼で私に問い詰めにやって来たのだろう


事情を知らなかった蓉子に江利子が雑誌を見せると、蓉子がハッと息を呑む







「聖、此れ…」

「……私にも判らない、けど…似過ぎだと思わない?」

「……有り得ないわよ、だって現に私達お葬式もやったし…」

「其れは判ってる、だけどさ」

「貴方今更どういうつもり?こんなそっくりさんを紹介でもすれば江利子が癒されるとでも?」

「そんな事がしたいんじゃないよ!ただ…私だってあまりに吃驚し過ぎて……」







蓉子の言葉に否定の言葉を返して、
江利子から返された雑誌をめくる

其処に映っているのは確かにあの子で

けれど長い年月のせいで少し年を取っていて



其れでも私達の良く知っている笑顔で存在している

















「……支倉 累…か……ずっと長い事聞かなかったな、此の名前」
















令の呟きに、室内は静寂に包まれる















ピン、ポーン








其処に小さなベルの音が響いた
ソファに座り込んで雑誌を見てる江利子がちらりと玄関を見やるのと同時に、

蓉子が食卓から立ち上がり玄関へ向かう


私と令と祥子は夕食の支度を黙々としながら蓉子の消えた廊下へのドアを見守る










「っ……!?」











突如何かが落ちる音がして、私達は顔を見合わせてから廊下へと駆け寄る
すると玄関の扉の前で蓉子が立ち竦んでいて肩を震わせている

蓉子の隣に駆け寄り、その肩を抱き寄せると蓉子は口をパクパク開けながら玄関の扉を指す






「蓉子?どうしたの?!」

「…っ……聖、其処に…」

「え?」





蓉子の指す扉の覗き窓からそっと外を窺うけれど
どうやら其処に立っている人物は長身のようで胸の辺りまでしか映っていない






「どなたですか?」

「すいませ〜ん、お届け物です。佐藤 聖さん、水野 蓉子さんのお宅は此方で宜しいでしょうか?」

「あ、はい」










靴箱の上に置いてある印鑑を手に、サンダルを履きながら蓉子の方を再び見る

祥子に抱きかかえられて蒼白な顔つきの蓉子に意味が判らずに首を傾げる





「はい、今開けま〜す」











蓉子が立ち竦んだその理由は、直ぐに判った

扉を開けて直ぐ前に立っていたのは…












「…っ!?」












じゃなくて

正確にはがその宅配便の業者の人に抱きかかえられていた
どうやら眠っているらしい

気持ち良くすやすやと寝息を立てている




そして、其のを抱きかかえている人物に蓉子は度肝を抜かれたという訳だ

















「…っ累!!!??????」
























「こんばんわっ、生物なので丁重にお取り扱い願います!」





























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