「はい、いってらっしゃい」

















シャワーを終えてリビングに戻ると、

突然大きな物体を渡される


ずっしりと来る重みに多少よろけながら私は蓉子の顔を見る


彼女の顔は満面の笑みで、
次いで財布も渡された












「な、何…?」








重い其れを何とか抱え直してから、

何とかして口から出た言葉をぶつける











「2人で散歩でもして頭冷やしてきなさい」



「あ…もう冷えてるから」










苦笑して預けられたを返そうと丁重に抱きかかえて返す

が、其れは腕を押しのけられて再び自分の胸の中に戻ってくる













「貴方は大人だから冷やす術を持ち得ているかもしれないけれど、はそうはいかないでしょう」



「え……」



「貴方が教えなさい、全てを。世の中を渡っていく方法を…親として」












其れだけ言うと蓉子は私の身体を反転させて玄関へと押しやる

玄関の扉が目に入る前に、リビングから令が微笑んでいるのが見えた
















「聖、私はこの子に世の中の厳しさを教えるわ。だから貴方はこの子に世の中の楽しさを教えて」



「蓉……子…」



「いってらっしゃい、が目を覚ます前に此処から離れなさい」











まだ眠っているの頭を優しく撫でながら、

蓉子は私の頬にキスをしてくれる







背後で扉が閉められる


が起きてしまう事がないようにそっと










手渡された財布をGパンのポケットに入れてから、を両腕で大事に抱きかかえる



そして、私は朝の街中を歩き始める

もうとっくに通勤通学時間は過ぎているから、街には人は余り居ない









1歩1歩静かに、揺らさないように歩くだけで


普段見えていた景色が大分変わる事を知った




何も考えずに歩いていたせいで何とも感じられない景色が、とってもゆっくり見えて

世界が反転したかのように





世界中時間がゆっくりと流れている


















そうか









はこんな世界を生きていくんだ…





私達が当たり前にしている事も、

は出来ないかもしれない






けれど私達が生きているうちで気付く事が出来ない事を、








は沢山知っているのかもしれない

は沢山知っていくのかもしれない












そう思うと、幾分か心が軽くなった―――――






























あの、公園に着く



と初めて出会ったあの公園

と再会を果たしたあの公園







再会をした時と同じベンチに私はを抱えたまま座る



日差しを浴びながら、ゆっくりと何をする訳でもなくの柔らかい髪を撫でる

するとは少し身動ぎして、そっと目蓋を開ける



目を擦り、私の腕の中に居るのだと理解してからバッと身体を強張せる


辺りに蓉子も令も誰も居ないのだと判ったらしく、何としても私の腕の中から逃れようと暴れる
何としても離したくなくて、
今離したらずっと2人の間は埋められない気がして



両腕を使ってその小さな身体を抱き締める















、………」



「うっ…ふっ、うぇ……よこ…ようこ……っ」











此処には居ない蓉子を求めて泣き出してしまう

とても胸が締め付けられる




お願いだ、




落ち着いて、私の話を聞いてくれ



















、ごめん。…ごめん、だからもう逃げないでよ」



「うぁああっ…ようこぉっ……ようこどこにいるの」



「聞いて…私の話をっ聞いて……」













けれど私の願いは空しくも、

は一瞬の隙を突いて腕の中から抜け出してしまう



ぱたぱたと家へ続く公園の出口へ向かって走り出す














「危ないって、!走っちゃ……」






「あぁあっ、よぉこ……っ!?」



















案の定は何も無いのに両足を縺れさせて転んでしまった


私は立ち上がりこそはしたものの、無理やり引き止めていいのかどうか疑問だったからその場から動けずに居る





は私から5メートルくらい離れた場所でうつ伏せて固まっている

痛いから身体が動かせないのか、

蓉子に会いたいけれど心細くなってしまったのか、



只何も言わずに地面に顔を俯せて放心している



















「………」









































「…っく……うぇ…せ……、せい…」



























駆け寄って、

を抱き上げる






もうは逃げたりしなかった








私の首にがっしりと掴まり泣いている
























「いたい、いたいよ……せい、いたい」








「…うん、直ぐに手当てしようね。其処のコンビニで消毒液と絆創膏買おう」



















私だけを縋って泣く小さなその姿は




とても小さくて






とても愛しく、思えた

















ああ、私はこれからこの子を守っていかねばならないんだ











護ろう



私の命に代えてでも、人生を差し出してでも













護ろう、蓉子とを………






























「此処が、と私が初めて出会った所だよ」



「ここ…?」














肘と膝に大きな絆創膏を付けたまま歩くのは痛いだろうと思い、

肩車をしながらあの林へと向かう






が捨てられていた場所




大きな木の幹の間には、

小さな穴が掘られていた









は其処を私の頭上越しに覗き込んで首を傾げた



















「此の間気付いたんだけどね、此処兎の巣になってるんだよ」


「うさぎっ?うさぎ!みたい!!」


「う〜ん、どうだろう。其れは無理かもしれないな、野生の兎だから警戒心強いから出て来ないと思う」


「むにゅぅ……どんなうさぎ?」


「えっとね、茶色い兎の一家だったよ。お父さんとお母さんと、子ども達が3匹ぐらい居た」














そう告げると、は嬉しそうに私の頭にしがみ付いてきた

























「しあわせそうだった?」







「うん」




































と、せいとようこもしあわせなかぞくになりたいねっ」




















「……うん、幸せにするよ」













































next...