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朝、起きたらとんでもない事になっていた―――――
いつの間にか聖と蓉子が両隣に居て、
昨夜眠りについたのがかなり遅かったらしく2人はぐっすり寝ていて
どうして私はこんな所に居るんだろう
とりあえず寝起きの頭をポリポリと掻いて聖と蓉子の腕の中からこっそりと抜け出す
其の時に蓉子がもぞっと動いたので、息を潜めてそっとベットから降りる
そして蓉子の腕を聖の脇腹に、
聖の腕を蓉子の脇腹にサービスとしてかけておいてあげる
ニヤニヤしながら寝室を離れると、まだ上手く機能しない頭を働かせる
昨日は累さんと居た筈だ
あの後2人でファミリーレストランに入ってお喋りをしたりして
デザートにチョコレートパフェを食べさせて貰って
そしたらちょっと前までの眠気が再び襲ってきて累さんのトラックに乗り込むなり熟睡してしまったんだ
そして目覚めてみたら、此処に居ると
ちょっと気になって自分の部屋を覗いてみると
1ヶ月前に自分が出て行った時と同じ状態で、掃除だけ綺麗にされていた
何だか嬉しくて、そっとドアを閉める
そしてリビングへと繋がる扉を開けると、
やっぱり変わっていない景色に嬉しくて嬉しくて
少しだけ声を出して笑ってしまう
ああ、此処に帰って来れたんだなって
キッチンで牛乳をコップに淹れてリビングのソファに向かう
と、何か動く影が見えて足を止める
恐る恐るソファの背から中を覗いてみると、
其処には累さんと江利子が眠っていた
「………普通他人の家でこういう事するかな…」
呆れた目で見やった2人は、
裸で2人で一緒の毛布に包まっている
…そりゃ会いたくてしょうがなかった恋人にやっと会えたんだから、
愛を確認し合うなとは言わないけれども、
………何か江利子と累さんらしい、と思ってしまう
江利子の胸に顔を埋めて気持ち良さそうに眠っている累さんと、
そんな累さんの頭に顔を埋めて眠っている江利子
お互いを2度と手放すまいと固く抱き合っている2人がとても微笑ましかった
2人を起こさない様にそっとテレビを点けると、
その前に座って牛乳の入ったコップを傾ける
リモコンを適当に動かしてチャンネルを変える
お天気キャスターが今日1日の天気を告げているチャンネルで指を止めて、
ボーッと眺める
すると突然速報が入ってきたらしく、お天気コーナーが終わる
朝からハキハキとしているニュースキャスターが原稿を読み上げる
『たった今速報がありました、11年前に幼児虐待で逮捕された夫婦が1ヶ月前に釈放されました』
薄暗い部屋の中でテレビの雑音が耳を突き抜けていく
『けれども昨晩通報があり、再び幼児虐待の罪で逮捕されました。警察は保護観察官の手抜きを責められています』
何だか急に頭の中がグラグラしてくる
『そして11年前も両親に迫害されて捨てられた子どもは再び此の両親の元に戻ったそうですが、現在行方知らずです。警察は急遽全力でその被害者藤野 馨ちゃんを探しており…』
目の前が真っ暗になった
そしてその中で温かさに包まれる
「見なくて、いいわ」
「……っ…江利子……」
「いいわ、何も聞かなくて。貴方は」
顔を上げると、闇の中で江利子の顔があった
江利子がかけていた毛布ごと私を包み込んだらしい
直接肌に触れると、とても温かくて
その首に腕を回してギュっと抱きつく
「っ…累さん、ちょっとだけ……江利子貸して…」
「うん」
「ありが、と……っく……うぅ、ふっ…」
毛布の外から累さんの声が聞こえて、
私は江利子の肩口に顔を埋めて声を押し殺し、
泣いた
どうして泣いたのか、自分でも判らない
けれど、
突然急に胸が締め付けられたんだ―――――
「累、江利子。…正座」
「何でよ、嫌よ」
「しっ、早く!江利子さん、此処は従おう」
日も完全に顔を出し、辺りは1日の始まりが幕を明ける
そんな中に1つ
青筋を立ててかなりご立腹のお2人
そしてその2人とは対称的にピンピンとしているものの床に正座している2人
更に細かく言えばそのうち1人はもう1人に無理矢理床に座らせられたというか
只床に座っているだけなので正座ではない
馨は聖と蓉子が起きて来た頃には泣き終えていて
涙の痕を拭ってから、
江利子と累からの要望を聞いて珈琲を淹れてあげたりしていた
その江利子と累が毛布に包まっているだけなので家の主である2人はかなり怒ってしまう
そして大事な我が娘、馨の前で裸同然な格好で珈琲など淹れさせたりしているものだから怒りはひとしお膨らむ
聖は寝癖のついた髪を掻いて、
そしてため息を吐きながらソファの上から2人を見下ろす
「…抱き合うな、とは言わない。もちろん。むしろ抱き合えって思う、けどねぇ…」
「貴方何言ってるのよ」
「だって…くっ、羨ましい!私と蓉子だって此処の所……」
「貴方何言ってるのよ?」
唇を噛み締めて唸る聖の頭を叩きながら蓉子はニッコリと笑みを向ける
どうやら家の主の1人は別の理由で怒っていた…否悔しがっていたらしい
そんな煩悩丸出しの亭主に鉄槌を喰らわせてから蓉子も聖の隣に座る
「にしても貴方達度胸あるわね、人の家で事に及ぶなんて」
「痛たた…、それにしてもいつの間に戻ってきたの?帰ったんじゃなかったっけ?」
頭を擦りながら2人に訊ねる聖に、累は苦笑いで答える
「うん、あの後残りの仕事を片付けないといけないから一旦此処出たんだけど江利子さんが着いて来たでしょ?」
「うん」
「……其の後仕事を終えた途端にトラックの中で襲われたんだ…」
「………何に?」
「鳥居 江利子。其れで其のまま此処に傾れ込んじゃって」
「久しぶりに燃えた夜だったわ、どう?聖、貴方も今夜辺り」
「江利子さん!シーッ」
減らず口を叩く怖い物知らず鳥居 江利子
そんな彼女の恋人を務める苦労人、支倉 累は慌てて江利子の口を塞ぐ
見る見るうちに蓉子の笑みは深くなって
聖すら引いてしまっているくらいで、ソファの端に避難している
「はい、珈琲。全員分。此れでも飲んで落ち着いてよ、朝っぱらから疲れる事しないで」
そんな修羅場に天使降臨
馨は苦笑しながら机の上に珈琲を4人分並べていく
聖と累は助かった!とでも言う様にそれぞれの恋人の腕を引いて食卓に着く
「いいじゃない、蓉子。江利子と累さんは私の恩人だよ。今回は大目に見てあげてよ」
「そうね、馨…もっとこっちに来て」
「ん?」
お盆をキッチンに置きに行きながらそういう馨に、
蓉子は手を伸ばして引き寄せ
自分の膝の上に乗せると、背後から力強く抱き締める
「ふふっ、痛いよ。蓉子」
「会いたかったわ、馨。会いたかった…」
「うん、私もだよ。蓉子」
「怪我、沢山してるわね。今日仕事休むから病院へ行きましょう」
「大丈夫だよ、此れくらい」
「駄目、行くの。食事面では累が助けてくれたらしいから安心しているけれど、体調面は心配だもの」
「うぇ~、病院嫌だ!」
「…貴方全然変わらないわね、ふふっ。馨、大好きよ」
「蓉子は大好きだけど病院は大嫌い!」
蓉子の腕の中で叫ぶ馨に、一行の顔は綻ぶ
久しぶりに見た蓉子の笑顔に、聖は複雑な気持ちになりながらも心底良かったと思う
「ねぇ、累」
「うん?」
買い物に付き合ってくれている累に声をかける
運転は私
助手席には累
もちろん運転は仕事にしているだけあって累のほうが上手いだろうけど
そうすると耳が聞こえない累とは会話が出来なくなる
だから私が進んで出たという訳だ
窓を開けて風を顔面に浴びながら煙草を吸っている累の瞳が突き刺さる
「私さ、馨が帰って来たのはもちろん嬉しいんだけど…」
「………うん」
「もちろん、累が帰って来た事も凄く嬉しいよ」
「…うん」
「けど、すっごく複雑…」
「…………うん」
「蓉子の笑顔は馨にしか引き出せないものなのかな、って考えちゃう」
「やれやれ、聖も大変だ」
「ふふっ、累なら話せるかなって思って。令は昔から変わらず祥子とラブラブだし参考にならないもん」
「なるほど、互い素直じゃない恋人を持つ者同士として理解し合えるかと」
「そうそう」
何だか16年前にあの病院の屋上で話した時より
とても大人になってるような気がした
そりゃ10数年も経ってるんだから当たり前かもしれないけれど
世界中を放浪していたという累は私よりも凄く大人な考えを持っていそうだ
それが話し相手を累に選んだ理由の1つにもある
累は煙草の灰を落として、小さく笑う
「令と相談して明後日馨を連れて皆で温泉に行こうって事になってるんですけど、其の時に行動を起こせばいいんじゃない?」
幸い部屋は恋人同士のみの2人部屋ずつだし、と
累は悪戯っぽそうな笑顔でそう言った
「馨は私と江利子さんの部屋で預かるよ、其れなら馨の目を気にする事ないでしょ」
………少し心の隅で、累の出現を目にした祐巳ちゃん達のリアクションを見てみたいと思ったりもしたのは此処だけの話
湯煙事情突発?
「其処で襲うなり何なりしてくださいよ」
「…累さ、身体がたくましくなったと思ってたけど精神面もかなりたくましくなってるね」
「其れに今はすんごい幸せですからね」
「累も江利子を襲うなり何なりしてくださいよ」
「互いに返り討ちに遭わない様に頑張ろう」
「……うん…」
聖&累
悲しき影からの努力者コンビ此処に結成
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