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「……此のお嬢様共め…」
綺麗に磨かれているフォークを握ったまま、
支倉 累は奥歯を噛み締める
そして聞こえないように、こっそりと呟いてみたものの
ばっちりと地獄耳集団には聞こえていたそうだ
「あら、突然何よ」
隣に座る江利子が物静かにフォークに刺さった食べ物を口に運びながら言う
そんな江利子を累はジロリと見やると、
机に肘を突いて手にしていたフォークで皿の上にある肉の塊を突く
「何か、場違いな気がする」
「何故?」
累が辺りを見回すと、
其処は山の奥だというのに妙に高級そうなレストランで
メニューを見た時も値段が格別に高いものばかりだった
よくよく見れば皆もちゃんとした正装をしているし、
黒いTシャツにGパンをラフに着こなしているだけの累は間違いなく場違いそのもの
馨でさえまだ小学5年生だというのに水色のYシャツなど着込んでお洒落しているではないか
「何で私だけ?」
「そんな事言っても貴方正装の1つも持ってないじゃない」
「最初から言ってくれれば1つや2つ用意しといたって」
転がしていた肉の塊をフォークに突き刺すと頬張る
そんな累に一行は食事を進めながら微笑む
馨がオレンジジュースを飲むと、
累も赤ワインの入ったグラスを傾けて一気に飲み干す
「其れで、もう其処の2人は大丈夫なのね?」
「ええ」
蓉子の問いに、江利子が頷くと
満足気に笑みを見せる蓉子を見て累は頭を下げる
「この度は真にお騒がせして申し訳ありませんでした」
「……」
「ほら、江利子さん」
「…申し訳ありませんでした」
「うん」
隣で優雅にワイングラスを傾けている江利子を、累は肘で小突くと
嫌々ながらも律儀に頭を下げる江利子
そんな江利子を見て頷くともう1度頭を深々と頭を下げる
「この旅行が終わったら、話をしに行こうと思うの」
「そうなんだ、頑張ってね」
「頑張るも何も、問題はうちの家族だけよ」
「あぁ…大変そうだね、あの人達を説得するのは」
「此処は私の腕の見せ所!この口の上手い累さんに任せな。幸い江利子さんの母は私の味方してくれてるし」
「口が上手いんじゃなくて口先なだけでしょ」
「…江利子上手い!座布団1枚。あははっ」
「酷い」
江利子、聖、累が和気藹々と話している中
馨の頬に付いた米を蓉子が取って口に運ぶ
ぽかんとしている馨に、蓉子は微笑みかけ「まだまだ子どもね」と囁く
「……聖、令、ちょっと来て」
ふと、楽しい空気の中累が真剣な顔をして2人を呼ぶ
そして指先で店の外出るように催促する
不思議そうに累の後を付いて来る2人は、一行に聞かれないくらいの距離を取ると何なのか訊ねた
皆から見えないのを確認すると、累はニヤリとして後ろポケットから財布を取り出す
そして其処からカードを出すと令に差し出す
「此処の食事代相当なものでしょ?人数もアレだし」
「え?あ…うん、でも其れはちゃんと用意してあるから大丈夫だよ」
「いいから此のカード使ってよ」
「どうして?」
「仕事の都合で作らされたんだけどカードを使って買う物なんて無いからさ」
「ああ…」
「其れに今回の事のお礼も含めて、私からご馳走って事で」
「…じゃあ遠慮無く使わせて貰おうっかな」
「うん」
微笑する令に、累は肩に手を置いて礼を受け取る
そして1人取り残された聖が腕を組む
「其れで、私が呼ばれた理由は何なの?」
「あぁ、其れはだね。今夜の健闘を祈って激励に、と」
「…累の所もその予定はございます?」
「さぁ…江利子さん次第」
「……ま、頑張ろう。有難う」
「うん。…令もね」
「え?」
「祥子と仲良く」
「…え?」
「焦っちゃ駄目だよ」
「……え?」
意味が理解出来ずに戸惑っている令を置いて、
累と聖は肩を組み合って大笑いしながら席に戻って行く
「…あ!乃梨子ちゃんと由乃も激励するべきだったかな」
「あぁ……今夜のあのバンガローは凄い事になってそうだね」
「ふははっ、熱いだろうねぇ」
「あははは」
何故か意気投合したらしい聖と累を、
迎え入れた蓉子達は怪訝そうな顔を見せた
マナーモードにして、鞄に入れてある蓉子の携帯が着信を告げる
(着信 "お母さん")
この着信が、暗雲を再び呼び戻そうとは
露も知らず皆は笑い合っていた
あと1つ
彼女達には大きな障害があった事すら忘れて――――――
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